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意志をつぐ者  作者: 花咲 匠
混沌の始まり
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第一話 この世界で生きる者たち

 ここは、東京の都心から電車で一時間ほどの郊外にある、一見はどこにでもありそうなごく普通のとある公立高校の教室である。

 今にも雨が降り出しそうなあいにくの曇天の中、史上最も類を見ない宣告が下された。 


 「俺はっ!! この国を統べる正当な継承者だ!!」


 精悍な顔立ちをした真面目そうな少年が強い意志を秘めた声音で宣言する。

今は帰りのHRの時間であり、先生が話をしていたのを、いきなり席を立って遮った。

そして、何を言うかと思えば、そんなセリフを耳をつんざくほどの音量で宣言したのだ。

 当然、クラス中から冷たい視線を浴びるが、本人は全く気にしていない。


 「…………オイ、石川。いきなり何を言っているんだ? そんなコトしてないで早く席に着きなさい」


 教師になって間もない割に威圧感たっぷりの担任教師にドスの利いた声で言われるワケの分からん宣言をした少年、《王の意志をつぐ者》の石川誠二いしかわせいじはブツブツと文句を言いながらも素直に席に座る。


 「…………全く、ホントのコトなのになぁ。どうして、みんな本気にしないんだろう?」


 「仕方ないよ。本当の世界を知っているのはごくわずかな限られた人間だけなんだからさ」


 「誠二、黙れ」


 誠二の後ろの席に座っている、優しそうな風貌の二枚目という形容詞がとても似合う少年、コータがそっと慰める。

 そして、誠二の右隣の席に座る静かな雰囲気のモデル風の美少年(実際にモデルとして働いているが)、芦辺あしべミツルが不機嫌そうに窘める。

 ただの教室だというのに、ミツルがいるだけで、まるで絵画のように非現実的な美しさがある。この曇天の中でも、周囲が明るくなるような錯覚すら覚える。

 この教室にいる他の男どもの見た目が良くても、そう思わせないほどの魅力がある。

 だが、顔はイケメンなのに常に醒めていて、ヒトに対して容赦ない態度のおかげで、周囲からは「アイスドール」とまで呼ばれている。口数が少ないというのも、その呼び名の一つの理由だろう。

 その割には女性の人気は高く、なにかとワタルや誠二と衝突することが多い。


 「それでもっ! 俺らがこの世界に認知されてないなんて、おかしいでしょう!?」


 先程よりは声を小さくしたものの、血気が萎えないままコータとミツルに理解を求めようとする。

 しかし、二人の返事は誠二の求めたものではなかった。


 「仕方ないよ。僕たちが歴史の表舞台、つまり世界の表面上に姿を現したらまた戦争が起こるんだから。確かに僕も、理不尽だとはいつも思うケドさ、怪物との戦いならともかく、人間同士の戦争はもうこりごりだしね」


 「…………」


 コータの言葉は、意図せずに揺るがない現実を鉄槌のように、にべもなく誠二にぶつけた。

 ミツルは無言でその言葉を肯定する。

 別に自分が戦争をしていた訳ではないのだが、過去の歴史資料を見れば、その凄惨さがわかる。

 そして、自分たち(・・・・)が戦争を起こしていたという事実は、イヤでもわかるのだ。

 それでも、そんな二人を見て、さらに言い募る誠二。


 「お前らはそれでいいのかよ!? …………こんな、誰からも認知されないような存在のままでっ!」


 悔しそうに語る誠二。だが、勿論、こんな提案に乗る仲間はいない。

 なぜなら、先程コータとミツルの言った通り、これまで《意志をつぐ者》が歴史の表舞台、即ち、人々に認知されて暮らしていた時代は確かにあったが、平和とは言い難かった。

 無論、短期的に見れば平和と呼べなくもなかった。

しかし、世界のどこかでは絶えず戦争が起きていて、そのために人口も全然増えなかった。

 そのため、彼らは歴史という舞台から撤退したのだ。そのことにより、大きな戦争はなくったし、人々の生活も良くなってきている。

 世界のどこかで戦いが起こっているのは今もまだ変わらないが、明らかに以前よりかは良くなってきている。


 しくも、この世界では少数派である彼らがいなくなったことにより、大多数の人間は平和を謳歌できるようになったのである。

 確かに、昔と比べて《意志をつぐ者》たちは怪物から襲撃されるようになったし、それで命を落とす仲間もいるが、そこまで悪い生き方ではない。

 昔のように認知されていた時代は、周囲に人間がいて、そのヒト達が守ってくれていたが、それでもそのヒト達が死ぬ可能性は彼らのような特別な者たちよりも高い。


 特殊な能力を持っている訳ではないので当然ではある。人間とは脆く、弱く、すぐに死んでしまうのだ。


 「お前は一体、何人の人間を殺す気だ? 一千万人か?それとも、一億人か?」


 誠二の言葉に、ミツルがいかめしい声音で言う。

 いつもは醒めており、ほとんどの物事に興味がないが、今みたいな話になると厳しい声音でさとすように言うのだ。

 まるで、過去の自分を責めるように。

 ミツルの過去に何があったかを知る者は訓練所にはおらず、本人も誰にも話す気がないらしく誰も知らない。


 「ゴメン、そうゆうつもりじゃなかったんだ…………ただ、自分達の境遇を憂いただけだよ」


 「…………そうか」


 あれだけ熱く語っていたくせに素直に謝った誠二に対し、あんまり納得していなさそうな顔で言うミツル。

 あんまり信じていないらしい。

 もとから、ヒトを信用することがあまりない性格なので、仕方ないのかもしれないが。

 場に重たい空気が流れ始めるが、運が良いのか悪いのか、そこで担任のHRが終わった。帰りの挨拶をして、担任は教室を出ていく。


 クラスにいる生徒達は気怠けに席を立ち、変なことを口走った誠二をからかったり、授業で使った教科書を廊下のロッカーにしまいに行ったり、友人たちとダベりながら帰路に着くべく教室を出て行く。

 誠二はからかいに来た連中に適当なこと言って振り切り、ワタルと一緒にロッカーに教科書をしまいに行く。それとは対照的にミツルとコータは自分のバックパックに教科書をしまいこむ。

 勉強が比較的できる二人は、いつも教科書を持って帰っているのだ。

 誠二はバッグが重くなるのがイヤなので、全ての教科書をロッカーに入れている。

ワタルはそもそも授業に教科書を持ってこない。ノートしか持っていないのだ。本人曰く、自分の部屋にしっかり保管してあるらしい。ダメだろ、おい。

 典型的な勉強できないヒトである。

 そんなまるで勉強できない二人が、ロッカーに荷物を入れてから戻ってきた。

 一緒に帰ろうとして二人に声をかけようと口を開きかけたコータだが、その前に二人に呼びかける人がいた。


 「石川はいるか? あぁ、いるな。石川はこのあと職員室に来い。それと、谷山もだ」


 一度教室を出て行った担任の教師が戻ってくることはあまりないので、注目を集めていたら、その口から発せられた言葉にクラス中が沸き、呼び出された二人をはやし立てるようにいう。


 「オイ、バカ二人組みが呼び出しくらったぞっ!!」

 「今度は、何をしたんだよ~」

 「また、川にでも飛び込んだのかぁ?」

 「それとも、またケンカでもしたんじゃないか?」


 「そんなコトしてないぞー」


 クラスの男子からはそのようなコトを言われ、軽薄にへらへらと笑って否定するワタル。


 誠二だけは「コイツとだけは一緒にするんじゃねぇぇぇっっっ!!!」と叫んでいたが、そんな誠二の思いは虚しく、クラスの爆笑を誘った。

 なにせ、ついさっき、ヘンな事を言ったばっかりなのでなおさら同類に見えるのである。一緒にするなというのが無理な話である。


 「オイ、早くついてこい。君たちに会いたいという人物が来ているんだ。職員室で届けを出してから、校長室へ行くぞ」


 騒がしくなったクラスだが、その声はよく響き、大きな声を出したわけではないが、しっかりと二人の耳に届いた。


 「はいはーい」

 「りょーかい」


 それが聞こえた二人は、気の抜けた返事をして、先生に付いて行く。


 「おーい、じゃあ、俺らは教室で待ってるぞ?」


 「わかった。いつまでかかるかわからないから先に帰っててもいいぞ?」


 「いや、いいよ。どうせ、ヒマだしね」


 「りょーかい」


 教室を出て行こうとするワタルと誠二に、コータが声を掛ける。

 それに応えたワタルは、さも面倒そうに教師のほうを見ながら言う。

 この3人とミツルは、いつも一緒に帰っており、その確認をするためだ。

 というのも、どうせ同じ場所に帰るのだから、なるべく戦力を集めて帰るようにしているのだ。

 帰路で襲撃されても、ちゃんと生き残れるように。


 この学校には、他にも20人近くの《意志をつぐ者》がいるのだが、流石にその全員で帰ると、かえって危険なのだ。

 人数が多すぎると連携もとれないし、それだけの人数がいると、力のある怪物が襲ってくるかもしれないからだ。

 なぜ、この学校にいるときは襲われないかというと、この学校全体に怪物たちにわからなくさせるような結界がかかっているかららしい。

 学校にいる協力者の手により、この結果が作られているが、それが誰なのかを知るものはここにはいない。 


 「それにしても、なんか呼ばれるようなコトしたかな~?」


 「どうせ、おまえのことだから誰かとケンカでもして暴走したんじゃないの? 暴走するとおまえいつも記憶失くすし」


 呑気にそう誠二に聞くワタルに、冷たい視線を送りながら白々しく応える誠二。やけに実感の篭った声音である。


 「いやいや、もしそうだったら、誠二は呼ばれないでしょ?」


 「ケンカについては否定しないんだ?」


 「あはは、そこはほら、触れない約束でしょ?」


 「なんだ、その約束。そんなの約束した覚えないぞ、俺は」


 これまた呑気に笑いながら応えるワタル。

 そして、ワタルの言葉をにべもなく否定する誠二。


 「オイ、話してないで早く来い。あのお方が待っておられるのだ」


 「はーい」


 担任の言葉を半ば聞き流しながら、気のない返事を返すワタル。

 誠二はただ頷いたのみで、声は発さない。

 失礼に値すると思うが、誠二はいつもこんなカンジなので、担任も何も言わない。


 だが、二人はまだ気付いていなかった。

 いつもとは違う担任の口調と、その言葉の不可解さに。

 鋭いミツルなら気付いただろうが、生憎この二人は鈍い(しかも、片方は奇跡の大バカである)ので今はまだ気付いていなかった。

 この先、何が起こるのかを。


~次回予告~


ワタル「やっぱり、俺ら何もしてないよねー?」

誠二「おまえは何をしてるかわからんが、俺は何もしてないぞ」

ワタル「えぇー、俺だって何もしてないよ~」

誠二「……この間は何もしていないとか言って、窓ガラスに頭ツッ込んでたじゃないか」

ワタル「いやいや、アレはただの事故だって!」

誠二「ただの事故でどうやったら、窓ガラスに頭から突っ込むんだよ!!」

ワタル「あはは、また次回~」

誠二「うまく逃げやがったな……」

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