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第4章ー13

「台湾民主国もいよいよ降伏を決断する時が来たか」

 劉永福将軍は独り言を言った。


 最早、戦況は絶望的だった。

 10月11日に近衛第2旅団が台湾最南端に近い枋寮に上陸、北上を開始した。

 北からの第2師団を主力とする日本軍の攻勢に手一杯な台湾民主国軍にとって、この方面の守備に充てられていた部隊はほとんどおらず、自発的な義勇兵による散発的な遊撃戦が行われるにとどまっていた。


 そんな妨害で近衛第2旅団の進撃が食い止められるものではない。

 無人の野を進むように近衛第2旅団は急進し、鳳山や高雄が陥落した。

 そして、台北が日本軍に制圧された後、台湾民主国の首都となっている台南へと近衛第2旅団は迫りつつあった。


 もちろん、北からの攻勢も続いている。

 10月に入り、嘉義が遂に陥落、更に台南攻略の前進基地として、布袋嘴を日本軍は確保して、そこに物資を集積し始めた。

 10月17日に近衛師団は遂に南北からの合同を果たした。

 台南は、今や西の海を日本海軍に封鎖され、残る三方は日本陸軍に包囲されるという状況に陥ったのだった。


「無念です。しかし、兵の士気は高く、それに日本陸軍の包囲網も完全ではありません。包囲網を突破して、兵を山間部に逃げ込ませて、遊撃戦を展開しては」

 幕僚の1人が言った。

「台南市民の多くが、台湾民主国の旗の下で最期まで戦うと申し出ています。その声に応えて戦いましょう」

 別の幕僚が違う意見を言った。


 劉将軍はしばらく黙考した。

 台南市は、台湾民主国の首都だ。

 ここを脱出して山間部で遊撃戦を展開することはできなくはない。

 だが、それは台湾の住民を更に戦火の中に晒し続けることになる。


 また、これ以上、台南市を犠牲に晒すのは、どうにもためらわれるものがあった。

 台南市の市民の多くは台湾民主国のためにいろいろと尽くしてくれてきた。

 更に市街戦を展開し、市民を犠牲にするのは忍びない。


 それにこのような状況下で、台南市の市民がどこまで自分についてきてくれるだろう。

 市民の一部の裏切りと言う事態が発生することもある。

 それは後世に禍根を残すだろう。


「台湾民主国軍の最高司令官として、今から台湾民主国政府に要請する」

 劉将軍は、そこで発言を切った。

 劉将軍を取り囲む幕僚たちは沈黙して、劉将軍の発言の続きを待った。

「台湾民主国軍が、これ以上日本軍への抗戦を続けることは不可能と判断する。政府は日本軍に対し、降伏手続きを進められたい」


「将軍、それは」

 幕僚の1人が絶句した。

「これ以上、抗戦を続けることは日本軍に与える損害よりも、台湾の住民に与える損害の方が多くなる。ここで武器を置くべきだろう。それに、軍の現状を冷静に考えろ」

 劉将軍は幕僚を諭しながら続けた。


「今の台湾民主国軍には使用可能な大砲や最新式の銃はない。最も装備のよい部隊でさえ、倉庫から持ち出した前装式ライフル銃を装備しているのが現状なのだ。それさえも足りずに弓や果ては竹槍まで装備した部隊があるくらいだ。精鋭もほとんど戦場で散った。まだ、兵はいて、それなりの経験がある兵も中にはいるが、女性や少年もいるのが現状だ。そのような兵を戦場にこれ以上、送り出すことは忍びない。よって、台湾民主国軍は降伏が至当と判断する。これは最高司令官としての命令でもある。部下の抗命は許さん」

 劉将軍は発言を終えた。


 台湾民主国の降伏が事実上決まった瞬間だった。

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