第4章ー11
第2師団という強力な増援を得たことで、日本軍の南進は本格化したが、台湾民主国軍の抵抗は止まなかった。
劉永福将軍は悲観的だったが、台湾民主国軍に義勇兵として参加した住民は大陸からの移民が主力である。
彼らは台湾の先住民や先に移民してきた者、後から移民してきた者同士がそれぞれ対立し、時には武力抗争さえも辞さなかった。
そのため皮肉なことに、意外と台湾の住民は戦闘には慣れており、台湾の集落にはそのために作られたものさえもあった。
日本軍からしてみれば、そういったものは城塞群にしか見えないものも珍しくなかった。
特にそれは台湾中部に主に作られていた。
「最悪の戦闘になりそうだな」
土方中尉は呻いた。
攻撃目標は、先住民の襲撃を警戒して作られた移民の集落だった。
台湾の地勢を活用しきったもので、煉瓦塀を集落全体に巡らせ、そこには銃眼が開けて、襲撃に備えている。
更に集落の外側には竹林まである。
櫓が集落内には立てられて、早期警報に役立つようにもなっている。
台湾民主国軍の襲撃を受けて、それを撃退し、追撃を掛ける。
台湾上陸以来、何度もやってきたことだが、今回は特に難しい戦闘になりそうだった。
襲撃をかけてきた台湾民主国軍の部隊はあの集落に逃げ込んだのは間違いない。
おそらくはあの集落の出身者が部隊の中にいたのだろう。
「砲撃をまず浴びせるか」
土方中尉は伝令を走らせ、砲兵の応援を依頼した。
あんなところに歩兵突撃をいきなり掛けるのは愚か者のすることだ。
山砲なのが有り難い。
こういう時に運びやすい。
黒井大尉自らが部隊を率いてやってきてくれた。
「あそこに砲撃を浴びせろか」
黒井大尉が照尺して、砲撃を始める。
幾ら何でも砲撃に耐えられるほどの煉瓦塀は作られていない。
数発を浴びせると、煉瓦塀が崩れだした。
「徹底的にお願いします」
「分かっている」
少しでも部下の死傷者を減らしたかった。
土方中尉の頼みに応じて、黒井大尉は砲撃を行ってくれた。
煉瓦塀は完全に崩れ落ち、防壁の用をなさなくなった。
ほこりが舞い、視界を遮っている。
「今だ、突撃開始」
少しでも台湾民主国の兵を慌てさせるため、身振りで突撃を指示する。
部下も察して無言で突撃を開始する。
集落内に突入して戦闘が始まる。
集落内に入った土方中尉に1人の台湾民主国の兵が襲い掛かってきた。
銃剣術で応戦し、殺傷する。
土方中尉が我に返ると生き残っていた台湾民主国の兵は逃げ散っていて、戦闘は終わっていた。
土方中尉は殺した兵の顔を見た。
どう見ても二十には見えない。
おそらく十代後半だろう。
土方中尉は頭を振るった。
本当に斎藤少佐の思い出話が現実になりつつある。
「村に火をかけますか」
部下の分隊長が問いかけた。
第2師団では抗戦の拠点にならないように、こういった集落で戦闘が行われた場合、見せしめの意味もあって、火を放つことが多発しているらしい。
乃木師団長はいい顔をしていないが、積極的に禁止まではしていない。
「止めておこう。恨みを買うことは無い」
土方中尉は押し止めた。
分隊長は不満そうだったが、土方中尉の指示に従った。
林大佐や斎藤少佐は常々言っている。
恨みを買うな、恨みに恨みで返されて戦闘が終わらなくなる。
村に火をかけたら、住民の恨みを買い、戦闘が長引くぞ。
土方中尉自身、完全に納得できているわけではないが、林大佐たちの言い分を認めてはいる。
「本隊と合流するぞ」
土方中尉は号令をかけた。
部下を引き連れて出発する。
部下の死傷者が無いのが救いだったが、土方中尉の足取りは心持ち重いものだった。
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