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第4章ー8

「どうも台湾民主国軍の遊撃戦の仕方が変わったな」

 林大佐は独り言を言った。

「変わったようには思いませんが」

 陸軍から連絡士官として派遣された中尉が言った。


 林大佐が新竹防衛の総指揮を執ることに陸軍のベテラン下士官や佐官クラスは反対しなかった。

 西南戦争で勇名を轟かせ、日清戦争でも東学党の乱を速やかに鎮圧した林大佐の名声はそれだけのものがあった。

 だが、やはり中少尉クラスの陸軍の若手士官は内心で反発していた。


「ほう、そう思うか」

 林大佐は、ここ3日間の遊撃戦の発生地を図示した。

「回数がやや減っているし、新竹に発生地が迫っていると思わんか」

「確かにそうも見えますが」

 別の陸軍少尉も言った。

「こういう時は悪いことを想定するものだ。新竹奪還攻撃を台湾民主国軍が仕掛けてくる気がする。呉と横須賀の海兵隊は新竹に入らせてもらう。それから小松宮師団長に警報を発しておけ」


「ふむ」

 劉永福将軍は考え込んだ。

 日本軍の動きからすると新竹奪還攻撃を察知されたのかも、だが、部隊の再配置がほぼ完了した今になって攻撃中止はできん。


 海軍の軍人にしては勘が鋭いな。

 できる限り、偽装したつもりだったのだが。

「明日、7月10日の日の出を期して新竹奪還の攻撃を仕掛ける。各自の奮闘を期待する。隷下の部隊にその旨を連絡しろ」


「来たな」

 土方中尉は台湾民主国軍の攻撃の報告を聞いて思った。

 新竹防衛のために呉と横須賀海兵隊を投入したのはこのためだったのか。

 脚気が蔓延する陸軍に対し、脚気患者が海兵隊には絶無という現状から、林大佐は陸軍の反対を押し切って海兵隊を予備として、陸軍を最前線に立たせている。


 窮地に駆け付けられない部隊を予備におけるか、という林大佐の一喝に陸軍の若手士官連中は全員沈黙してしまった。

 あいつらのその時の顔を見たかったものだ、土方中尉は内心で思っていた。

 その代り、自分たちは大火の際の火消のように走り回る羽目になったか。


 台湾民主国軍の攻撃の規模の連絡が次々に来る。

 野砲の大砲撃が行われ、新竹はほぼ包囲下に陥ったらしい。

 推定される台湾民主国軍の兵力は2万人余り、我々の3倍近い。

 砲撃が行われるということは、劉永福将軍が率いる主力部隊だろう。

 志願したばかりの兵に大砲が扱えるとは思えない。

 これはきつい戦闘になりそうだ。


「砲撃が収まり次第、台湾民主国軍が突撃をかけてくるだろう。危機に陥った戦線に駆け付けることになる。各自の奮闘に期待する」

 林大佐の訓示が、横須賀海兵隊に行われた。

 土方中尉はそれを聞いて奮い立った。


 新竹攻防戦が始まって1週間が経過した。

 台湾民主国軍の砲弾はほぼ尽きたようだ。

 3日前から砲声が止んでしまった。

 その代りに台湾民主国軍は夜襲を多用して日本軍の陣地を襲撃してきた。


 斎藤少佐は、西南戦争を思い出すな、と意気軒昂で迎撃に赴いていたが、土方中尉は寝不足から疲労がたまりつつあった。

 林大佐も元気な有様だった。

 斎藤少佐と抜刀隊の思い出を語りだし、2人して最前線で刀を振るっている。

 それを見た岸大尉は、あの2人は幾つだったっけと半分呆然とし、鍛え方が違うと脱帽していた。

 土方中尉もそれに同感だった。


「そろそろかな」

 林大佐は斎藤少佐に言った。

「そうですね。西郷軍と同じです。もう息が尽きるでしょう」

 斎藤少佐は答えた。

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