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第4章ー7

この世界では有栖川宮殿下が健在だったり、北白川宮殿下が海兵隊の軍人になったりしているので、史実では参謀総長を務めている小松宮殿下が近衛師団長として台湾制圧作戦の総指揮を執っています。

「旅団長が倒れただと」

 林大佐は7月1日に伝令が伝えてきた内容に愕然とした。

 新竹防衛を指揮する近衛第1旅団長がマラリアで意識不明だというのだ。

 師団司令部はやや後方で指揮を執った方が台湾民主国軍の遊撃戦に対処できるということで台北におかれている。

 そうなると、誰が新竹防衛の総指揮を執ることになるのか?


「師団司令部に照会したところ、旅団長回復まで林大佐に新竹防衛の総指揮を一任するとのことです」

 伝令が続けて言った。

「しかし、それは陸軍が納得するのか?」

 林大佐が疑問を訴えた。


「宮様には誰も逆らいません」

 伝令が言った。

 林は内心で苦笑いをした。


 そういえば、今の近衛師団長は小松宮殿下だった。

 弟の北白川宮殿下から自分のことを聞いていて、最前線を任せることにしたのか。

 陸軍大将でもある小松宮殿下に逆らえる皇族以外の陸軍の軍人は山県陸相くらいだろう。

「分かった、謹んでお受けさせていただく」

 林は答えた。


「新竹防衛を指揮しているのは海軍の軍人だと」

 7月3日、劉永福将軍の目が光っていた。

「ええ、陸軍の指揮官が疫病で倒れ、海軍大佐が代わりに就任したと聞いております」

 幕僚は新竹の住民からの情報を話した。

 新竹の住民の多くは台湾民主国のために積極的に情報収集に努めてくれている。

 台湾民主国軍の遊撃戦が成功しているのも、こういった住民の協力があるからだった。


「ふむ」

 劉将軍は考え込んだ。

 嘗められたものだ。

 わしの相手は海軍の軍人で充分と言うことか。

 だが、これは好機だ。


 台湾民主国独立の前提として劉将軍は2つをおいていた。

 1つはフランスの介入。

 もう1つは清本国からの武器等の援助である。

 フランスが介入すれば、すぐにでも台湾は独立できるだろう。

 もし、フランスが介入してこなくとも清本国から武器等の援助があれば、長期にわたる遊撃戦を展開し、日本を苦しめて台湾は独立は無理でも自治を獲得できるだろう。


 しかし、フランスは介入せず、清本国の動きも鈍いもので、武器等の援助はほとんど無かった。

 この際、新竹奪還を図り、乾坤一擲の決戦に勝利することで、清本国の有力者に衝撃を与え、武器等の援助に踏み切らせるべきではないか。

 それに遊撃戦というのは負けないだけで、明確な勝利は無い。

 新竹奪還に成功すれば、明確な勝利を得ることになり、台湾民主国軍の兵の士気は天を衝くばかりに上がるだろう。


「新竹を攻撃するとして、我々はどれくらいの兵力を集められる。1週間以内にだ」

 劉将軍は幕僚に問いかけた。

「遊撃戦を展開するために分散していますので、2万人がせいぜいかと。但し、黒旗軍で将軍と共に戦った精鋭が中核になりますので、質の面では不安はありません」

 幕僚の1人が答えた。


「新竹防衛に当たっている日本軍は多くとも8000人程だったな」

「はい。しかも、疫病が流行しており、2割近くが戦闘不能とのことです」

「日本軍の兵力は我々の3分の1か」

 劉将軍の目が更に光った。

「よし、1週間後に新竹奪還作戦を実行する。陸軍の指揮官が疫病で回復する前に新竹を奪還するのだ」

 劉将軍は命令を下した。


 だが、劉将軍は知らなかった。

 その海軍の軍人が、数々の陸戦を戦い抜き、日本の陸軍の将帥からも名将として認められている軍人であることを。

 劉将軍が得た情報は誤ってはいなかった。

 だが、その情報によって与えられた先入観が劉将軍の判断を狂わせることになった。

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