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第4章ー6

 戦闘が終わり、台湾民主国軍の兵を村から追い出した後、死者は埋葬し、捕虜は治療を施して武装解除し、台北の捕虜収容所へ送る等の後始末を土方中尉らはしていた。

 戦場となった村には1本の見慣れぬ旗が遺されていた。


 台湾語を日本語に直接通訳できる人材がいないので、日本語を中国語(北京語)に通訳して、中国語を台湾語に通訳するという二重通訳をするしかない。

 四苦八苦しながらその旗について捕虜に問いただすと台湾民主国の旗だということだった。

 その旗には虎の絵が描かれていた。


 土方中尉は、その旗を斎藤一少佐の下に持参した。

 斎藤少佐はその旗を見ると物思いにふけりだした。

 しばらくして斎藤少佐は中隊に駐屯地に戻るように中隊に指示を出した。

 中隊は駐屯地に帰還した。


 駐屯地は戦闘があった村から歩いて2時間ほどかかるところだった。

 駐屯地に着いたのは日没後になっていた。

 後方警備の都合上、現在の海兵隊は横須賀海兵隊と呉海兵隊に分かれ、それぞれが駐屯地を構えている。

 斎藤少佐は夕食を食べ、キニーネを飲んだ後、岸大尉と土方中尉を自室に呼んだ。


 何事だろう、土方中尉は疑問を覚えながら、斎藤少佐の自室に赴いた。

 土方中尉が斎藤少佐の自室に入った後すぐに岸大尉も来た。

「ま、一献やろう」

 少量ならば駐屯地内の飲酒は認められている。

 斎藤少佐はどこからか確保した酒を出して、2人にも飲むように勧めた。

 斎藤少佐は一口飲みほした後、

「50歳を過ぎた老兵の思い出を聞いてくれないか」と言って、2人に話を始めた。


「岸は聞いていないか。戊辰戦争の際に、わしが土方さんや島田さんと別れた時のことを」

「聞いたことがあります。確か、会津で別れたのですよね」

 岸大尉が相槌を打った。

「そうだ。自分は会津藩のために最期まで尽くしたい、と土方さん達に言ってな」

 斎藤少佐は言った。

「会津で父と別れたのですか」

 土方中尉は言った。

「うむ」

 斎藤少佐は一時沈黙して、また、語りだした。


「会津藩は、薩長に徹底抗戦した。藩を護るためにと少年や女性まで志願したよ。13歳の少年まで白虎隊と称する少年隊に入った。本来なら16歳以上ではないと入れないのに、自分から藩を護りたいと志願してな。だが、薩長の戦力は圧倒的だった。結局、会津藩のために多くの者が奮闘して亡くなったが、最終的には会津藩は降伏のやむなきに至った。今日、台湾民主国の虎の旗を見てな、会津の白虎隊のことを思い出してしまった。今度は、自分が薩長と同様の立場に立ったのだと思ってしまったよ」


 土方中尉も岸大尉も斎藤少佐の話が終わった後、黙って考え込んだ。

 台湾民主国の独立を日本の軍人として認めるわけにはいかなかった。

 だが、台湾民主国が会津と同様の悲劇に見舞われるのでは、という予感に囚われるのは止められなかった。


「つまらん話をして済まなかった。だが、どうしても胸の中に収まらなくてな」

 斎藤少佐は言った。

「いいです。斎藤少佐の話を聞くくらいなら幾らでも聞きますよ」

 土方中尉は言った。

「自分も聞きますよ」

 岸大尉も言った。

「済まんな」

 斎藤少佐は言った。

 3人は黙って酒が尽きるまで飲んだ。

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