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第4章ー5

 新竹までは鉄道もあったことから、日本軍は順調に進軍し、6月22日に新竹に無事に入城できた。

 だが、それは劉永福将軍の仕掛けた罠だった。


「通信線が切断されました。また、鉄道も寸断されています。台湾民主国軍の遊撃戦です」

「何」

 近衛師団司令部は騒然となった。


 台北地区の治安維持に部隊を割いたり、台北から台南へと敗走している(はずの)台湾民主国軍を包囲殲滅するために台湾中部の鹿港に上陸部隊を送ったりしたために、新竹にいる近衛師団の兵力は近衛歩兵2個連隊余りに過ぎない。

「海兵隊とも協力して、後方連絡線を確保しろ。それから、上陸部隊を至急、呼び戻せ」

 近衛師団司令部は騒然となった。


「だから、言わないことではない。あれほど警告したではないか」

 林大佐は、近衛師団からの協力要請を受けて憮然とした表情を浮かべた。

 清仏戦争の英雄、劉永福将軍が抵抗しないわけがないのだ。

 そして、清仏戦争で勇名を馳せた黒旗軍も参加して、郷土防衛に意気込んでいる台湾民主国軍がこれほど早く敗走したことに疑問を覚えるべきなのだ。


「どうしますか」

 内村呉海兵隊長が林大佐に尋ねた。

「救援しないわけにはいかないだろう。まずは、後方連絡線の確保だ」

「そのとおりですな」

 内村呉海兵隊長も林大佐と同様の表情を浮かべつつ、部下に対し指示を出した。


「あれは村なのですか、それとも城塞群なのですか」

「馬鹿なことを言うな、村に決まっている」

「でも、建物には銃眼がありますし、煉瓦塀で囲まれていますよ」

 部下の会話を聞きつつ、土方中尉は舌打ちするような思いに囚われた。


 あの村は小型の城塞群だ。

 台湾民主国軍は小部隊に分かれ、完全な遊撃戦に徹していた。

 海兵隊は中隊単位でそれに対処していたが、台湾の地勢は完全に台湾民主国軍に味方している。


 今、海兵隊が近衛師団と協同して確保しようとしている台湾は、台湾の先住民と大陸から渡ってきた漢民族とが不断にわたる武装闘争を繰り広げているところでもある。

 そのために民家と言えど、煉瓦塀で囲い、それに銃眼を備えるのが当然になっている。

 台湾民主国の主力になっているのは大陸から渡ってきた漢民族だが、日本人は共通の敵だとして、台湾の先住民からも協力の動きがあるらしい。

 台湾全土皆敵というのは辛いものだ。


「砲兵の支援を仰げ。あの村に逃げ込んだ台湾民主国軍を叩き潰す」

 斎藤一少佐が決断を下した。

 鉄道線を襲撃してきた台湾民主国軍の小部隊を追いかけて、この村に追い詰めたのだ。

 何としても逃がすわけにはいかなかった。


 かといって、海兵中隊が単に突撃をかけるわけにもいかない。

 銃眼から狙撃されて、多数の死傷者を出す羽目になるだろう。

 砲兵の支援により、建物を壊し、その後で海兵中隊が突撃するのが最善だった。

 伝令が走って行き、砲声が響きだした。

 土方中尉の眼前で幾つかの建物が崩壊し、台湾民主国の兵が慌てて、建物から飛び出してくる。


 中には自分の籠っている建物が次の的になるのでは、と恐慌に駆られて、まだ砲撃を受ける前に建物から飛び出す兵まで出だした。

「今だ、突撃開始」

 斎藤少佐の号令がかかった。

 土方中尉達は突撃を開始した。


 砲声が慌てて止み、代わりに銃声が響く。

 小一時間の戦闘の後、台湾民主国の兵は村からいなくなっていた。

「やれやれだな」

 土方中尉は一息ついた。

 こんな戦闘はいつまで続くのだろうか。

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