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第4章ー3

「近衛師団は、他の師団と違い、やや小規模だったはずですね」

 内村呉海兵隊長が口を挟んだ。


「そのとおりだ。他の師団は人員が約1万8000から2万人いるのに対し、近衛師団は精鋭だが約1万4000人しかいない。陸軍の考えだと海兵隊2500人が加わるから質も相まって、ほぼ1個師団となり、台湾接収には十分ということだが、とても足りないと軍令部第3局では判断している。軍令部第3局が集めた情報によると少なくとも正規軍が5万人、更に台湾民主国を護れと志願兵が殺到していて、併せると10万人に達する勢いらしい。もちろん、少なくとも正規軍の装備は北洋軍と同等だ。つまり、5万人は我々と同程度の兵器は持っているものと考えねばならん。更に台湾の広さと地形も台湾民主国に有利な点だ。台湾の広さはどれくらいか知っているか。九州とほぼ同じ程度だ。西南戦争の時を考えてみろ、九州全土に10万人の武装兵が散開してゲリラ戦を挑んだ場合、1個師団で鎮圧できるか。更に九州よりも条件は悪い。台湾の主な部分は山岳地帯で高さが3000メートルを越える山も複数ある。そんなところにゲリラが立て籠もったらどうなる」

 林大佐が途中から北白川宮殿下から説明を引き取った。


 それを聞いた士官の多くが顔色を変えた。

「兵がとても足りません」

 内村呉海兵隊長が、ようやく声を絞り出した。


 一戸佐世保海兵隊長も続けて発言した。

「少なくとも1個師団は追加で必要です。いや、2個師団は欲しい」

「そのとおりだ」

 林大佐が2人の発言を認めた。


 他の士官も口々に発言する。

「増援を要請すべきです」

「陸軍は状況を楽観視し過ぎです」


「更に悪い条件が加わる」

 林大佐が続けて言った。

「まだ、あるのですか」

 斎藤舞鶴海兵隊長が言った。


「最早、この中には台湾出兵の経験者は誰もいないが、父や兄が経験した者はいるだろう。家族から何か聞いた覚えのある者はいないか」

 周囲の視線に背を押されて土方中尉が発言した。

「父から聞いた覚えがあります。台湾は瘴癘の地で、マラリア等の巣窟だと。父もマラリアで生死の境をさまよう羽目になりました」

「そのとおりだ。台湾は瘴癘の地なのだ」

 林大佐が深刻な表情を浮かべて続けた。


「私も北白川宮殿下から台湾情勢の詳細を聞くまでは、近衛師団と自分たちで台湾接収は足りると思っていた。だが、九州全土に匹敵する広大な土地に加え、山岳地帯が多数を占める地勢、そこにいる約300万人の住民が台湾民主国独立維持のために結束して、最大で10万人の兵が我々を待ち構えている。既に澎湖諸島に進軍した陸軍ではコレラが大流行し、戦病死者を何人も出している。台湾でもコレラが今、流行しつつあるらしい。言うまでもなくマラリア等の脅威もある瘴癘の土地だ。台湾はこういった地獄の戦場なのだ。そこに我々は赴くことになったのだ。諸君は気を引き締めて赴いてもらいたい。そして、その対策をできる限り、今から練ろうではないか」

 林大佐の発言は終わった。


 会議場に集まった士官は全員が北白川宮殿下と林大佐が話した内容の重さに思わずしばらく沈黙し、お互いの顔を見合わせていた。

 しかし、徐々に気を取り直し、思い思いの考えを士官たちは発言しだした。

 土方中尉も周囲に合わせて自分の考えを少しずつ述べた。

 会議は長時間続いた。

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