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第3章ー20

 小村寿太郎は恩師の小倉の叱責を受けたことから、早速、外務省内で動くことにした。

 広島にいる陸奥外相には意見書を作成して送付すると共に、林董外務次官とは面談して列強介入の危険性を訴えるとともに、在外公館に対し、列強介入の情報収集に努めるように指示を出した。

 その効果は早速現れた。

 露駐在の西公使から露が具体的な介入を検討しているという情報が2月21日に入ったのだ。

 林外務次官は余り気にしなかったが、小村はこの情報を重視した。


「少なくとも露にはついてはロンドンタイムズの記事の裏が取れた。となると英仏も同様に介入を計画している公算が高い」

 小村の内心の焦燥は高まった。

 外務省の幹部に対して、日清戦争講和の際に遼東半島割譲の条項を入れる危険性について、小村は懸命に訴えて回った。


 小村は清国公使の大鳥圭介が朝鮮公使も兼務したことから漢城に移動した後は日清戦争開戦直前まで代理公使として清国に駐在していたこともあり、清国通の側面も持っている。

 その小村が清国外交の特徴(何かあると諸外国に介入を要請する。実際に日清開戦間際に英露が介入してきたのは清国の要請が大きい。)からも、日清講和の際に列強が介入してくる公算が大であることを懸命に訴えると外務省内の風向きも少しずつ変わってきた。

 日清講和の条件は台湾と澎湖列島の割譲プラス賠償金で収めるべきだという意見が外務省内で強まりだしたのだ。


 一方、小倉処平は板垣退助に日清講和の条件について説得した。

「板垣さん、清国の国家予算はどれくらいかご存知ですか」

「分かりきったことを聞くな。約9000万両だ」

 さすがに板垣である。

 それくらいは覚えている。


「それなのに10億両も清国が賠償金が払えますか」

「払えるわけがない。せいぜい3億両が御の字だ。それでさえ払えんと拒否しかねん」

「そうなったときに日本は北京から西安へ更に成都へと進撃できますか」

「無理を言うな。元軍人として断言するが、北京攻略は何とかしてもそれが精いっぱいだ」

「それならできる限り軽い講和条件にして、さっさと清国と講和した方がいいのでは」

「しかし、世論がな。ここまで盛り上がってしまうと」


 板垣と言えど、世論の熱狂の前に逡巡した。

「それでは、せめて対外硬六派の議員との講和条件についての内々の話を任せてもらえませんか」

「それくらいならいいだろう」

 板垣は小倉に任せることにした。


 小倉は続いて立憲改進党等、対外硬六派の議員と個別に会談した。

 大隈重信等、彼らは大言壮語はするが実際に英露等の列強が軍事介入してきたら日本に勝算絶無であることは分かっている。

「断固、英露の介入を拒否しろ。では、英露と戦争をして勝てるのですか」

 小倉は彼らに尋ねた。

「それは政府が考えることだ」


「無責任なことを言わないでください。あなた方に大臣になる資格は絶無です」

 小倉に言われると、一時は逆上するものの、自分の方が無理筋なのは分かっている。

 特に朝鮮への借款が列強の介入により無意味になるかも、と小倉に言われると、彼らは嫌な顔をした。

 朝鮮への借款は対外硬六派が推し進めたものだからだ。

 それが無意味になってはたまらない。

 衆議院の対清強硬派の対外硬六派も列強の介入を警戒して介入前の講和に傾きだした。

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