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第3章ー18

「それでは、どうすればいいと思いますか」

 恩師にあらためて小村は尋ねた。

「まずは、ロンドンタイムズの記事の裏を取るために、各国公使館に対して指示を出せ。ロンドンタイムズだから全くの嘘は書いてないと思うが、こういうことは裏取りが重要ではないのか」

「はい」


「わしは板垣党首に直訴して自由党内の日清戦争の際の講和要求として、台湾と澎湖諸島の割譲、賠償金の2点を要求するように求める。遼東半島に触れないというのがみそだ」

 小倉は言った。

「新聞記者が遼東半島について尋ねたら?」

「台湾と引き換えだと煙に巻くさ。実際に台湾はまだ陸軍は送っていないだろう」

「そのとおりです」


「後、対外硬六派の議員どもには、講和の際に列強が介入してきたら、どうするのか聞いてやる。わざと怒らせて、列強の介入をはねのけろ、とか抜かしたら、現実無視と言って思い切り叩いてやる。現実無視をしているのは、向こうなのは事実だからな」

「そういう態度だから、喧嘩相手が増えるのですよ」

 小村は小倉を諌めた。


「なに、本当なら城山で死んでいたはずだ。西郷さんと一緒にな。今は余生を生きているようなものだ。好きなように話して何が悪い。死んだら死んだ時だ」

 小倉の声が少し陰を帯びた。


 その陰に気づいた小村は思い起こした。

 小倉先生は未だに西郷隆盛さんの死の瞬間を夢で見るのだろうか、小倉先生は西郷隆盛の死を直接見届けた数人の一人だ。

 小倉先生は、西郷隆盛さんの死の瞬間を自分にも語らない。

 新選組の永倉新八が西郷隆盛の最期を語った新聞記事を自分が読んで本当なのですか、と小倉先生に尋ねたことがあるが、小倉先生は黙って答えなかった。

 記憶の結晶として誰にも触れられたくないのだと思い、それから尋ねたことは無い。


「それから、お前は外務省内をできる限り遼東半島を清国に還付の方向で話をまとめろ。政務局長は各国公使を別格として外務省では大臣、次官に次ぐ地位だ。それくらいはできるだろう。清国に駐在していたのだから、それくらい説得して見せろ」

「先生は無茶を言いますね。外務省内でも強硬論が強いのに。それに軍部はどうするのです。多分、軍部、特に山県陸相以下の陸軍は遼東半島還付には猛反発しますよ」

「お前の方には軍部に知己はいないのか」

「山県陸相と面識はありますが、本当に面識があるだけです」

「ふむ」


 小倉は考え込んだ。

「わしにも知己はいないからな。喧嘩相手はいるが。樺山軍令部長とは銃弾を打ちかわした仲だが」

「しゃれにならない冗談ですよ。西南戦争の実話じゃないですか」

 小村は苦笑した。


「できる限り心当たりをあたってみるしかないか。全く馬鹿が多すぎる。福沢に大隈に馬鹿ばかりだ」

「お二人とも立派な方ではないですか」

「外交に関しては馬鹿だ。時事新報や改進党党報の日清講和の条件を読んだか。大風呂敷を広げ過ぎだ。時事新報は福沢の息がかかっているし、大隈に至っては改進党の党首で元外相だろうが。それなのに、直隷決戦を前にして、台湾攻略に割く兵力にも事欠く今の日本の軍事力で、北京を無理して何とか攻略できても維持ができるものか。その時に列強が介入したらどうなるか、素人のわしですら分かる。それなのに北京攻略が講和条件とか、満州全部を割譲させろと主張するとは、狂人としか思えん」


「先生、落ち着いてください」

 さすがに小村は小倉をなだめた。

「すまん、つい熱くなった」

 小倉は頭を下げた。

「とりあえず、わしらのできる限りのことはしてみよう。何もしないわけにはいかん」

「はい」

 小村は小倉に頭を下げて、料亭から辞去した。

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