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第3章ー13

 2月22日の朝になった。

 清国軍の再攻撃を撃退した第3師団と海兵隊は眼前の清国軍に対しての追撃を行うことになった。


「それにしても寒い。50歳を過ぎたこの身には堪える」

 斎藤少佐がぼやいた。

 それを聞きつけた土方中尉が言った。

「何を言うのです。西南戦争の時の島田魁さんとそう変わらない年ではありませんか。島田さんはそんなことでぼやかなかったと聞きますが」


「西南戦争の時を持ち出すな。あの時はこんな寒さは経験しとらん。それにしても、永倉さんが来たがっていたのだから、永倉さんが来ればよかったのに」

「永倉さんもこんな寒さを経験すると知っていたら、断っていたかもしれませんよ」

「永倉さんは小樽の冬を経験しているから、平気だろう」

 斎藤少佐は言った。


「ところで、防寒の準備を中隊は全員きちんと整えているか」

「ご心配なく、屯田兵村の経験も生かして万全です」

 土方中尉は答えた。

「よし、追撃に掛かるぞ」

 斎藤少佐は号令を下した。


 雪原の中を第3師団と海兵隊は清国軍を追撃した。

 だが、清国軍の方が相対的にこの寒さの中での戦闘には慣れている。

 効果的な追撃を行うのは困難だった。

 更にもう一つ問題があった。


 清国軍の主な退却方向が第5師団との合流予定になる鞍山站への進撃方向とはややずれているのだ。

 余りに清国軍への追撃にこだわると鞍山站へ向かうのに遠回りをすることになる。

「逃げ足の方が速いとは情けない奴らだ」

 桂中将は眼前の清国軍を罵倒したが、その罵倒が清国軍に聞こえるわけもない。


 清国軍はひたすら退却に徹した。

 結局、2日ほどで第3師団と海兵隊は清国軍の追撃を断念して、第5師団との合流を優先することになった。

 だが、早速、この暦の上だけでは春の時期に攻撃に転じたツケが出だしていた。


「どうだ、各小隊の兵の状況は」

 斎藤少佐が部下の小隊長全員に尋ねた。

「万全の準備を整えたはずだったのですが、やはり凍傷患者が出だしています」

 土方中尉が小隊長を代表して答えた。


「まずいな。わし自身も凍傷にかかりがけだ」

 斎藤少佐は渋い顔をした。

 幾ら3月が近いとはいえ、まだまだ寒い。

 日によっては最低気温がマイナス10度を軽く下回るのだ。

 陣地を飛び出して、雪原の中で追撃戦を行った影響が出ている。


 他の中隊も同様に凍傷患者が出つつあるらしい。

 できる限りの対策は取っているが、それでも限度と言うものがある。

 しかも、まだ攻撃は始まったばかりなのだ。

「林大佐も兵の苦境は分かっているが、第一軍司令部の意向には逆らえんからな。とりあえず鞍山站を目指すことになるのかな」

 斎藤少佐は言った。


「一度、海城へ戻り、凍傷が酷くなりつつある兵は残して、再度、鞍山站へ向かっては如何でしょうか」 林大佐は桂中将に意見を具申した。

「しかし、第5師団が突出することになるぞ」

 桂中将は難色を示した。

 周囲の陸軍の将校も多くが桂中将と同様の意見なのだろう、桂中将と同様の表情をしている。


「どちらにしても海城を完全に空にするわけにはいきませんし、凍傷にかかった兵を連れていては進軍が遅くなります。凍傷も早く治療に掛かった方が早く治ります」

 林大佐も簡単に意見を曲げるわけにはいかない。

 この調子で凍傷患者を出していたら、1月も経たないうちに重症の凍傷患者が続出するだろう。


「ふむ」

 桂中将もあらためて考えた。

 確かに思ったより凍傷患者が出つつある。

 既に始まった以上は攻撃を中止できないが、凍傷対策は講じねばならん。

「分かった。一度、海城に戻ろう。それから鞍山站に向かおう」

「ありがとうございます」

 林大佐は安堵した。

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