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第3章ー12

「立見が動けんと言ってきた。析木城にも清国軍が攻撃してきたそうだ」

 桂中将が会議の席で報告した。


 2月17日朝、清国軍は再攻撃を策しているのか、海城の攻囲を崩してはいない。

 桂中将としてはここ海城へ3個師団を集結させて攻勢を採るべきだと考えて、第1軍司令官の野津中将にその旨を意見具申したが、野津中将は却下した。

 清国軍の2月攻勢が想定よりも大規模で日本軍に先んじて行われそうなことが偵察で判明したからだった。


 析木城、海城、蓋平の3か所に攻撃を加えてその奪還を図る、清国軍の野戦通信能力からすると無理があるとしか思えないが、清国軍は無理を押し通すことにしたらしい。

 蓋平は第1師団が奮闘した結果、清国軍を撃退しているが、析木城はそうはいかなかったようだ。


 無理もない、林大佐は析木城方面を守っている立見少将の苦闘を思った。

 そもそも析木城等の日本から海城への後方連絡線を清国軍から守るためには1個師団、つまり正規の4個連隊が最低でも欲しいところだ。

 それを1個旅団プラス、つまり正規2個連隊に後備1個連隊で立見少将は守っているのだから。

 立見少将が名将だから何とかなっているようなものだ。


「まずは眼前の清国軍の再攻撃をしのぐ、その上で退却するところを逆撃に転ずるべきだと考えるが、どう考える」

 桂中将が言った。


「それが妥当と考えます」

「逆撃した後はどうするのです」

 会議の席にいる士官が次々に発言する。

 桂中将はそれを見回して言った。


「鞍山站へ進撃し、立見指揮下にある部隊を除いた第5師団と合流する。そして、牛荘、田庄台へと進撃する。第1師団は営口を落とした後、田庄台で合流する予定だ。野津中将からそのように指示があった」

 林大佐は思った。

 まだ寒いのに、兵力分散を行うつもりか。


 第1師団が営口を落とすというのは進撃の都合上や補給港の確保という観点からまだ分かるが、海城から鞍山站へ向かっては第1師団から離れてしまう。

 折角、海城へ清国軍が向かってくれているのだ、それも逆用してせめて第5師団とはここ海城で合流した方がよいと思うが。


 桂中将は野津中将の提案が良いと考えているようだし、桂中将の口ぶりからすると第1軍から既にそのような命令が発せられたようだ。

 桂中将なら眼前にいるから説得可能だが、野津中将は既にその方向で動いている可能性が高い。

 そうなると最早動くしかないということか。

 林大佐は兵たちの損害が続発することを思って、思わず瞑目した。


「海兵隊はどう考える」

 桂中将は林大佐に話を振った。

「既に第5師団は動いているのでしょう」

「動いたという連絡は届いていないが、予定では動いているはずだ」

「それなら我々も動きましょう。第5師団を単独で動かすわけにはいきません」

 林大佐は言った。


「よく言ってくれた。海城に対して清国軍が再攻撃を加えてくるのを撃退した後、追撃に掛かるぞ」

 桂中将は命令を発した。

 林大佐はその命令を聞きながら思った。

 何人の凍傷患者を新たに出すことになるだろうか、本当に気が重い、断固、反対を貫かなかった自分も自分かもしれないが。

 そもそも海城まで進撃していることが無理といえば無理か。

 日本軍の反攻が決断された。

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