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第3章ー11

「先制を食らったか」

 桂太郎中将は呻いた。

 目の前には清国軍が迫っている。

 結局、日本軍の海城への集結は清国軍の攻撃に間に合わなかった。

 清国軍が海城を攻撃する方が先んじたのだ。


「止むを得ん。ここで攻撃を迎え撃つ。それに間もなく、第1師団や第5師団も駆け付けるはずだ。そうなったら清国軍も退却せざるを得まい」

 桂中将はひとりごちた。


「予定通りだな」

 林大佐は言った。

「いいのですか、そんなことを言って。先制攻撃を食らったのですよ」

 斎藤少佐はそれを見て言った。


「やや寒さが和らいだとはいえ、まだ攻撃に出るには寒い。下手にここから出たら凍傷患者が続出するぞ。陣地を構えて暖かい中で迎撃した方がいいと思わんか」

「それはそうですが」

「それに救援軍も向かっている。清国軍を挟撃できる好機だ。うまくいけば公州の大勝を再演できるぞ」 林大佐は上機嫌だった。


「まだ寒いのに攻撃を仕掛けてくるか」土方中尉はぼやいた。

 ここ海城に来てから1月余り、今日は2月16日になっていた。

 故郷とは質の違う寒さは骨身にしみた。

 故郷の山河が暖かくさえ夢の中では思えてくる。


 陸軍と海兵隊の合同作戦会議では先制攻撃案が優勢だったらしいが、土方中尉の意見としてはもう少し暖かくなってから攻撃を検討するべきだった。

 1月の極寒の中でも攻撃をかけてきた清国軍を見習えと某陸軍将校は会議の場で叫んだらしいが、兵のことを考えろ、凍傷患者が続出するぞ、と自分がその場にいたら反論したな、と土方中尉は思った。

 ともかく、清国軍は補給と再編制を完了したのか、再度、海城奪還を図って土方中尉の眼前にいる。

「充分に陣地に引きつけてから迎撃するぞ」

 土方中尉は部下の小隊の兵に命じた。


 清国軍の攻撃は教科書通りだった。

 まず、砲撃を加え、その後に歩兵が突撃をかける。

 だが、この寒さの中で強化された陣地を崩せるだけの大口径の重砲を運ぶのは無理だし、小口径の野砲で補おうにも数が足りない。

 土方中尉にしてみれば、1月の経験から検討を重ねて強化した今の陣地にこもっている限りは絶対に安全という自信があった。

 戦闘の推移もその通りになりつつある。


「にぎやかですな。砲声で」

 分隊長の1人が言った。

「全くだな。全員、無事のままか」

 土方中尉は言った。

「はい」

 兵は口々に答えた。


「砲声が止んだら、射撃の準備をするぞ」

 黒井大尉の腕なら、海兵中隊が敵陣地にかなり接近するまで砲撃を続けても大丈夫だろうが、清国軍の砲撃の腕はそれほどでもない。

 第一、味方の砲撃の中に突撃するほど勇気のある兵が清国軍にいるとも思えない。


 土方中尉がそんなことを考えている内に砲声は止んだ。

「射撃の準備をしろ。充分に清国兵を引きつけたら、各個に射撃」

 土方中尉は号令をかけた。


 2月16日の夕闇が迫っていた。

 海兵隊の陣地の前には清国兵の遺体が点々と散らばっている。

 土方中尉の率いる小隊は死者0、流れ弾で負傷した者2名といった被害で済んだ。

 2名とも軽傷だ、土方中尉は一安心してため息を吐いた。


「上は逆襲を命じますかね」

 分隊長が土方中尉に尋ねた。

「もう1回、清国軍が攻撃を加えてからにしてほしいな。もう一打撃を与えてから、攻撃に転じるべきだと思うが。または、清国軍が退却を決断した後に追撃を掛けるかにしてほしい」

 土方中尉は答えた。

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