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第3章ー8

 桂太郎中将による海兵隊と陸軍の比較です。

「海兵隊の奮戦ぶりは見事なものだ」

 桂太郎中将は、1月23日に海兵隊から送られてきた報告書を読み終えた後、つぶやいた。

 第3師団の部下からは、海兵隊に対して素直な賞賛とやっかみとが両方起きている。


 桂中将が見るところ、単なるやっかみと違うのは、何で海兵隊の方が陸軍よりも上の状況になっているのか、比較対照してみて自らに対する鑑にしなければならない、というのが部下から垣間見えるところだった。

 確かにな、と桂中将も思った、

 海兵隊を我が陸軍の鑑にしなければならない点が多々ある。


 そういえば、台湾出兵でもそうだった。

 マラリアに対する事前対策をきちんと考えていた海兵隊に対し、準備不足だった我が陸軍は海兵隊の倍以上の戦病死者を出す惨状を世間にさらしてしまった。

 屯田兵が海兵隊に取られてしまった最大の要因はあのせいだ。

 あの時、海兵隊と同様に事前対策をしていれば、戦病死者を海兵隊並みに少なくできたのだ。


 古屋提督の影響も多少はあったろうが、と更に桂中将は思い出した。

 司令官自らが医師として、病兵の治療に当たったのだ。

 この行動に新聞記者は好意的で呉起を思い起こさせるとまで報道された。

 医師の心得があるとは、大村益次郎先生みたいだな、

 最も大村先生は超やぶ医者なので、病兵の方から逃げ出すだろうが、桂中将はそんなことまで思い出していた。


 まずは凍傷対策だ、桂中将は海兵隊と陸軍を比較して思った。

 確かに屯田兵がいる以上、防寒対策に海兵隊が慣れているのはある程度はやむを得ない。

 だが、海兵隊では重傷者がほぼ0で軽傷で何とか防いでいるのに対し、陸軍は重傷者が軽傷者とそんなに変わらないほど凍傷を悪化させてしまっている。


 防寒用の軍服を十分に揃えなかったり、凍傷対策を軽視したりしたツケは余りにも大きかった。

 これは自らの責任でもある。

 冬季の満州がここまで極寒とは思わなかった。

 油断して外に出るとあっという間にひげも眉毛も凍ってしまうのだ。

 想像と現実は違うということを桂は痛感していた。


 だが、海兵隊は陸軍と肩を並べて戦っているのに、そんなに凍傷を重傷にまでせずに済ませている。

 やはり凍傷対策をきちんとしておくべきだった。

 桂は自らの責任を痛感した。


 そして、脚気対策は海兵隊に完全に我々は負けている。

 なぜ、海兵隊は脚気患者がほとんどいないのに一緒に戦っている陸軍は脚気患者が多発しているのか。

 伝染病なら海兵隊にも脚気が蔓延するはず、それなのに海兵隊に脚気患者はほとんどいない。

 どうみても脚気は伝染病ではないということではないのか。


 陸軍の軍医のトップの石黒を問い詰めねばいかん。

 新聞記者から海兵隊の方が脚気対策は上だと取材されて、新聞に載ったら、陸軍にとって台湾出兵の恥の上塗りだ。

 陸軍に徴兵されるなら、海兵隊に志願した方がよいという風潮が起こったら、我が陸軍の兵の質が落ちてしまう。

 台湾出兵の後で屯田兵を取られたように、優秀な兵を海兵隊を採られてはいかん。

 桂はそこまで考えを巡らしていった。

 ちょっと長くなったので、次話も続きます。

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