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第3章ー7

 1月23日の朝が来た。

 土方中尉は、目の前から清国軍が撤退の準備をしている様子を見てほっとしていた。

 さすがにのべ2日間にわたって行われた攻撃の結果、物資が欠乏したらしい。


 こちらは17日と22日に清国軍の砲撃と突撃とを受けた結果、50名程の部下の内の数名が負傷し、1名が亡くなった。

 土方中尉はこれ以上、部下を死なせたくなかった。


 それにしてもと土方中尉は思いを巡らせた。

 ここに来てから寒い日々が続いている。

 故郷の屯田兵村よりも寒いのではないか。

 先日は気象担当からの連絡によると氷点下30度近くまで最低気温が下がったらしい。

 そのおかげで、部下には凍傷患者が続出している。


 自分にも軽度の凍傷の兆候が手足の先に生じつつあり、これ以上酷くならないように全力を尽くしている状況だった。

 この極寒地獄の中で、清国軍は突撃をかけてくる。

 我々は陣地に籠っていて、屋根まであるので何とか耐え凌げているが、清国軍は野営である。

 よく耐えられたものだ。

 土方中尉は思わず撤退していく清国軍に敬意を覚えていた。


「何とか撃退したか」

 林大佐は清国軍の撤退の様子を見て、土方中尉と同様にほっとしていた。

 海兵隊は清国軍の攻撃正面の防御を担当した結果、かなりの被害を出した。

 22日は陣地を強化してひたすら防御に徹したので、17日より被害がかなり減少したとはいえ、それでも被害は出た。

 2日合わせると200名に死傷者は達するか、達しないか(全くの不運から両方で負傷した者もいる)といったところか。


 清国軍が一時の撤退を決断した結果、しばらくは平穏になるだろうか、と林大佐は思った。

 それにしても凍傷患者の続出には頭が痛い、と林大佐は思った。

 いろいろ防寒対策を講じてきた結果、指の切断等を検討するほどの重傷患者は出ていないとはいえ、軽傷患者が続出している。


 何とかせねばならないが、暖かくなるまでは辛抱せざるを得ないだろうか。

 とりあえず、この戦闘の戦訓を士官の間で検討の上で共有していかねばならない。

 ナポレオン1世以前の頃なら冬営というのがあったので、冬季戦闘というものは欧州ではなかったらしいが、と林大佐は思いを巡らせた。


 今は冬営は過去の遺物と化している。

 このように冬季にも関わらず戦闘を行うのが当たり前なのだ。

 また、この満州の地で冬に戦うことがあるかもしれない。

 そういった際には、今回のような被害が出ないようにいろいろと対策を検討しておこう。


 中村中佐も清国軍の撤退の様子を見て、ほっとしている1人だった。

 18日に林大佐の厳命を受けて、あらためて陣地を強化して、22日の清国軍の攻撃を迎え撃った。

 その結果、17日と自分の感覚ではそんなに変わらない程度の清国軍の攻撃があったが、被害は17日の半分以下に止まった。


 陣地が重要であることは中村中佐も理解していたつもりだが、実戦でその違いを思い知らされていた。

 清国軍の攻撃を撃退できてよかった、と中村中佐は思った。

 それにしても、強化された陣地に歩兵突撃をかけるのは最早、無謀な時代が来つつあるのだろうか、そんなことも中村中佐は思った。

 

 陣地をどうすれば突破できるのか、別の方法を考えないといけないのかもしれない。

 林大佐と違い、中村中佐は攻撃重視の性格である。

 そんな中村中佐にしてみれば、今回の清国軍の攻撃の結末は、何とも皮肉な自己否定を迫られる結果にもなっていた。

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