第3章ー6
1月17日の夜が来た。
清国軍の攻撃は何とか跳ね返していて、陣地の死守に成功してはいたが、林大佐は渋い顔をしていた。
「やはり死傷者が出たか」
各中隊からの報告書と舞鶴海兵隊からの報告書に全て目を通して、林大佐は思わずつぶやいた。
あれだけの砲撃を浴びせられて、清国兵の突撃もあったのだ。
それを思えば死傷者併せて100名余りというのは、冷静に考えれば少ない方だろう。
だが、やはり舞鶴の方が多く死傷者を出している。
横須賀海兵隊並みに死傷者を舞鶴海兵隊も抑えられれば、100名も出さずに済んだのだ。
そして、問題は、と林大佐は思考を進めた。
舞鶴海兵隊を率いる中村中佐に反省している様子がないことだ。
清国軍の攻撃を撃退して陣地を守り抜いているのだから、こちらが勝っているのは間違いない。
だからといって、死傷者を多く出していいということにはならない。
反省してもっと死傷者を減らすように努力しなければならないのに、中村にその様子はない。
苦戦しながらも初陣で勝てたと素直に喜んでいるようなのだ。
林大佐は考えを巡らせた。
「勝って兜の緒を締めよ、古人はうまいことをいうものだ。勝ち戦から反省するのは難しい。かといって俺から中村を叱責するのもどうかな。中村に自覚がないのに叱責しても逆効果になるだろう。攻撃が一段落したら、士官全員を集めて研究会を開き、俺の見解を示して、中村に自覚を促すか。だが、とりあえず陣地の修復を急ぐのが最優先だ」
林大佐はそのように決心した。
清国軍の攻撃は何とか跳ね返してはいるが、清国軍はまだあきらめた様子はない。
再攻撃が必ずあるだろう。
多分、明後日、19日にはあるはずだ。
林大佐はそう睨んだ。
清国軍は部隊の再編制と補充とに林大佐の予想より時間をかけた。
その間を利用して、海兵隊は陣地の修復を行った。
また、林大佐は中村中佐に対して、陣地をさらに強化するように促した。
「ともかく充分すぎるほど陣地を万全にしろ。この極寒の寒さの中で砲を運んできているんだ。清国軍にしても最大で12サンチ以上の砲は運んできてないはずだ。10サンチ以下の砲なら塹壕等の野戦陣地でも万全にすればしのぎきれる」
林大佐はあらためて中村中佐に厳命した。
中村中佐は完全には納得していないようだったが、林大佐の厳命である。
舞鶴海兵隊の部下に対して再度、陣地の強化を指示した。
そして、1月22日になって、ようやく清国軍は再攻撃を開始した。
それまでに海兵隊は陣地の修復を完了している。
「これなら何とかなるかな」
林大佐は清国軍の攻撃の様子を望見しながら言った。
突撃前に砲撃を浴びせて、海兵隊の陣地を破砕しようと清国軍は試みているが、前回の攻撃後に修復された海兵隊の陣地は崩される様子はない。
100門単位で大砲を集めているのなら別だが、清国軍は砲声から推測するに全部で30門も持ってきていないようだ。
それに口径にしても自分の推測があたっているようだ。
着弾によって上がる雪煙の量からしても12サンチもあるとは思えない、最大でも10サンチといったところだろう。
「突撃前に砲撃は止めないといけないからな。砲声が止んでから退避壕から塹壕に出ていけば十分に間に合うわけだ」
これなら死傷者は数十人で済むだろう。
林大佐はそう皮算用をした。




