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第3章ー2

「斎藤大尉、林大佐がお呼びです」

 林大佐の従兵が斎藤一を呼びに来た。

 何事か、と斎藤が首を傾げるとそれを見ていた土方少尉が言った。

「少佐への昇進の辞令が出たのでは」


「少佐だと。勘弁してくれ。定年による退役が遠のいてしまう」

 斎藤は笑いながら言った。

 そんなことあるはずがない。

 定年大尉の昇進など悪い冗談だ。

 斎藤は何事だろう、と思いながら林大佐の下に赴いた。


「斎藤一を海兵隊少佐に任命する」

 林大佐の声が響いた。

 斎藤はまだ目を白黒させていた。

「私が少佐ですか。聞き間違いでは」


「聞き間違いではない。ちゃんと辞令があるぞ」

 林大佐は辞令を示した。

「確かに私宛ですね」

 斎藤は辞令に目を通したが、どうも納得がいかない。

 わざわざ昇進させる必要はないだろうに。

 なぜ昇進させるのだろう。


「単純に言うと人が足りんのだ」

 林大佐がいきなり砕けた口調で言った。


「あくまでも内々の話だが、海兵隊は戦後に縮小してもらえないらしい。陸軍は朝鮮半島の治安維持のために常時、漢城等に駐箚部隊を置くことに部内からも部外からもいい顔をされていない。陸軍の部隊は基本的に郷土部隊だから、外国に常時、部隊を置くことは想定されていない。それに、表向きは完全な独立国になる朝鮮に、日本の陸軍部隊が駐箚しているようでは完全な独立国ではない、日本の傀儡だという非難が諸外国からなされるのは間違いないと外務省からもそういう声が上がっている。それで、目を付けられたのが海兵隊だ。海兵隊は、一朝事あらばすぐに出動する即応部隊だからな。諸外国でも海兵隊が自国以外に駐在するのはよくあることだ。朝鮮軍が軌道に乗り、朝鮮国内の治安維持や防衛が担えるようになるまでは海兵隊が朝鮮に駐在して朝鮮の支援をするという方向で政府内の話が進んでいるのだ。そうなると従前の海兵隊の規模ではとても手が回らない。足りない兵は志願を募るとしても、士官はそう簡単には育てられない。そこで、海兵隊専門の急速士官養成課程を設けることになったが、それでもできるのは少尉クラスだ。だから、今いる士官は基本的に昇進のうえ、予備役士官は当分、現役勤務ということになったのさ。さすがに去年昇進した面々は見送りになったがな。というわけで昇進した以上、定年は2年延長だ。精いっぱい現役士官として2年間は国に奉公してくれ、斎藤少佐」


「分かりました」

 斎藤は答えた。

 酷い話を聞いた気がする。

 戦争が終わっても、現役復帰の少佐として勤務することは確定と言うことか。


 本来の仕事に復帰できそうにない以上、本来の職場に退職願を出さなければならない。

 本来の職場にとっては迷惑極まりない話だ。

 斎藤は内心で溜め息をついた。


「斎藤少佐、昇進おめでとうございます」

 土方中尉がお祝いを言いに来た。

 横には岸大尉もいる。

「そういう土方も中尉に昇進か」

 斎藤は答えた。


「島田の伯父さんは素直に祝福しそうですが、永倉さんが羨みそうですね」

 岸大尉が言った。

「確かにな。後5つ若ければ、と言いそうだ」

 斎藤は苦笑いした。

「それでは、明日には遼東半島へ向けて出発だ。よろしく頼む」

「分かりました」

 土方中尉も岸大尉も揃って答えた。

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