幕間2-4
犬養毅元首相の演説ですので、もっと高尚な演説にしたかったのですが、作者に品が無いのでこんな流れになりました。
まことにすみません。
陸奥外相は完全に油断していた。
野党の対外硬六派の主な主張の通りに清国に対して強硬路線を貫いて日清戦争に突入したのである。
対清戦争の真っ最中に挙国一致を乱すようなことを対外硬六派がする訳もない、それは挙国一致体制を乱すことになり、対外戦争には挙国一致が必要という自己主張の否定になって自分の支持基盤を掘り崩すことになる。
そんなことを対外硬六派がするわけがないと思っていた。
だから、犬養毅議員が朝鮮問題について発言したいというのを聞いた時も大したことはあるまいと思い込んでいた。
「陸奥外相にお聞きします。昨今の新聞報道によると朝鮮政府の財政危機は極めて深刻なものがあるということです。朝鮮政府が日本政府に借款を依頼した場合にはどう対応されるおつもりでしょうか。まさか英露に遠慮して朝鮮政府に対する借款を断るという判断をなさらないとは思いますが、予めお考えをお伺いしたい」
犬養議員の発言を聞いた瞬間、陸奥外相の思惑は吹き飛んだ。
「日本の民間銀行からの融資を検討することになるかと思います」
思わず慌てたが、言質を取られないように慎重に陸奥外相は答えたつもりだった。
「ということは、担保を付けたり、高利回りを付けたりすることによる融資になるのは必然と考えます。そんな融資で朝鮮政府は満足するでしょうか。そんな日本の民間銀行による融資を朝鮮政府が受けるくらいだったら、英露に頼ろうと考えるのは必然と考えます。もし、それによって英露から融資を朝鮮政府が受けることになった場合、外相の責任は当然問われると考えますが」
それを聞いた対外硬六派の議員が一度に騒ぎ出した。
「当然、問わないといかん。いや、外相で済ますわけにはいかん。政府全体の責任だ」
「英露に遠慮して朝鮮に金を出さないとは国辱ものだ」
「朝鮮独立のために清国との戦争に踏み切ったのではなかったのか。英露から朝鮮政府が融資を受けたらそれが水の泡になりかねん」
油断していたこともあり、陸奥外相はますます慌ててしまった。
「いや、日本政府による借款も当然、検討に値します」
「検討に値するですか。どちらなのか、はっきりしていただきたい。朝鮮政府から借款依頼があった場合に日本政府による借款を行うのか、拒否するのか」
犬養議員はさらに追及した。
「それは条件次第です」
陸奥外相は答えた。
「つまり、条件が整わないということで拒否するということもあるということですね。よくわかりました。要するに日本政府は借款をするつもりはないのですね」
陸奥外相は思わずかっとした。
「借款をするつもりが無いとは言ってない」
「例えば、今回1億5000万円もの臨時予算案が提出されています。そのことから考えて、その1割にも満たない1000万円くらいの借款でしたら検討できると思いますが、この額でしたら陸奥外相はどう考えるでしょうか。朝鮮独立のためにこれくらい安い額だと思いますが」
「当然、借款に応じられます」
言ってしまった瞬間、陸奥はしまった、と思った。
売り言葉に買い言葉で思わず言ってしまった。
「議員諸君、陸奥外相の言葉を聞きましたか。朝鮮独立のために朝鮮政府からの借款依頼があったとき、1000万円くらいなら当然、日本政府は出せると陸奥外相は言われました。今後の政府の対応を注視しようではありませんか」
犬養議員は発言を締めくくった。
「そうだ」
「当然のことだ」
野党の対外硬六派の議員が口々に発言する。
陸奥外相は歯噛みをしながらうつむく羽目になった。




