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幕間2-3

 本多海兵本部長は、林大佐からの緊急機密電報と聞いて思わず身構えた。

 しかも海兵本部長必親展ということにもなっているので、電文を受けた担当者もろくに目を通さずに暗号文を翻訳して見直しもせずに慌てて持参してきた。

 何事か、と思って本多は慌てて目を通したが、復号の際に間違いだらけになったその内容を読んで、安堵と共に林らしいと苦笑いしたい心境になった。

 電文を持参した担当者は、本多海兵本部長のその様子を見て首を傾げた。

 とりあえず叱っておこうと本多は担当者の様子を見て思った。


「幾ら緊急機密かつ必進展の電報とはいえ、復号に間違いが多すぎる。今後、気を付けろ」

「まことにすみません」

 担当者は慌てて本部長室から退出した。

 独りきりになった本部長室で本多は考えを巡らせた。


 斎藤実は困惑していた。

 本多海兵本部長は自分に何をさせたいのか。誰か暇そうな奴を本多海兵本部長が至急、探しているらしいと聞いたのは、今朝のことだった。

 自分には関係ないと思っていたが、いきなり自分に白羽の矢が立つとは思わなかった。


 本多海兵本部長が自分を呼んでいると聞き、何事かと思って本部長室に出頭したら、いきなり手紙を渡された。

 これを持参して、至急、広島に赴き、犬養毅という名の衆議院議員にこの手紙を直接渡せという。

 なお、私服を着ていくこと、また、封筒を見せて田原から来ました、と犬養議員にいえば、封筒を何も聞かずに受け取ってくれるとのことだった。


 手紙は封筒に入っていて、封筒には何も書いていない。

 一体、何事なのだろうか。

 全ての指示は口頭のみであり、手紙以外の書面は一切、本多海兵本部長は渡さなかった。

 斎藤は首を傾げながら、広島へと向かった。


 犬養毅は日清戦争に伴い、広島で臨時に開催されることになった第7臨時議会の会場に向かう途中で、私服の男に出会った。

 その男は軍人らしく見える態度で、田原から来ましたと言って、封筒を示した。

 その男に見覚えは全く無かったが、田原から来ましたの一言でピンと来た。

 林大佐との間の秘密連絡の際の符丁である。


 一体、何事だろうか。

 封筒を黙って受け取ると、男は何も言わずに自然と去って行った。

 さすが、林大佐、こういうところにも抜かりがないと犬養は内心で思った。

 犬養は、封筒の中身に急いで目を通した。

 中身を読んだ後、犬養は思った。


 林大佐の筆跡ではないということは、余程秘密裏にしてほしいのだろう。

 それに確かに議会で私が言ってもおかしくない内容だ、後で何かお返しをしなければ。どんなお返しをすべきだろうか。

 林と自分との間柄は、友人同士ではあるが、貸しは必ず返すというのが暗黙の了解になっている。

 政府攻撃の材料を林から折角もらえたのだ。思い切り活用させてもらおう。


 斎藤は広島から東京に向かう列車の車窓から見える風景を見るともなく見ながら、黙って考えを巡らせていた。

 本多海兵本部長は一体、何を手紙に書いて渡したのだろう。

 犬養といえば、野党の対外硬六派の一角を占める中国進歩党の党首である。

 そんな人物に直接手紙を渡す。

 全く訳が分からないので、とりあえず封筒を犬養議員に渡すだけ渡して、去ってしまった。

 あれで本当に良かったのだろうか。

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