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幕間2-2

 井上公使は朝鮮政府からの借款依頼を早速、日本本国に電文で知らせると共に、伊藤首相と陸奥外相に長文の手紙を書いて、この朝鮮政府からの借款依頼に答えて、速やかに日本政府の金で借款を行うようにと示唆した。


 井上としては、日本の民間の金融機関から朝鮮政府に貸すという方法もあるが、現在の朝鮮政府の収入見込みでは、民間の金融機関が貸してくれるわけもない。

 利子は高めにしろ、担保を寄越せ、と条件を付けまくって、朝鮮政府の悪感情をあおるのがオチだ。


 今のところは、朝鮮政府は日本にだけ相談を持ちかけているみたいだが、時間が経てば英露に相談を持ちかけかねない。

 英露が好条件を示せば、朝鮮政府はそちらに飛びついてしまい、日本への借款返済を理由に朝鮮政府の内政改革に口を挟もうという計画が台無しになってしまう。

 従って、速やかに日本政府のお金で借款を行うようにと示唆した。

 だが、しばらく経って、陸奥外相から届いた手紙による指示は、井上を完全に落胆させるものだった。


「まず、担保として朝鮮政府に利権を提供させ、それを日本の民間金融機関に示して、朝鮮政府に借款を行うのが妥当ですか」

 林大佐は呆れ返った口調で言った。

 井上公使も呆れ返った表情を浮かべている。



「陸奥は海援隊の経験もあるし、商売のことから話をすぐに分かってくれると思っていたのだが」

「悪徳商人のやり口を知らないのでしょうな。陸奥外相は、外相は務まっても商人としてはすぐに破産してやっていけませんな」

 林大佐は混ぜっ返した。


「それにしても、そんなことを私に話してもいいのですか」

「ここには当てになる日本人が少ないからな。それこそ誰にでも知恵を借りたいところなのだ。折角の絶好の機会を逃してなるものか。朝鮮政府の首根っこを押さえたいところに、朝鮮政府自ら首を差し出して押さえてくださいと言って来ているのだぞ」

 井上公使は言った。


「確かにそうですね。借金をしたいと向こうから言って来てくれているのです。借金は後々、自分の首を絞めることになります。私の家も幕末の頃は借金まみれで年越しには苦労しましたよ。明治維新のために滅藩処分になりましたが、後で聞いたら藩の勘定方が「これで借金を全部踏み倒せる」と陰で嬉しさの余りにむせび泣いたとか。借金は一時はしのげても、後々で苦労します」

 林大佐はしみじみと言った。


「500万円というと大金にも思えますが、日本政府に出せるのですか?」

「1億5000万円もの臨時軍事予算を今度の第7臨時議会で編成するという話が出ているのだ。出せない訳がない」

 井上公使は断言した。


「ほう」

 林大佐は考えを巡らせた。

「臨時議会が開催されるのですか。では急いで電文を打ちましょう」

「どこに打つのだ?」


「海兵本部です。漢城にいる海兵隊の指揮官が海兵本部に至急の軍事機密電文を打つのはある意味日常業務です。但し、本当の宛先は別にありますが」

「何か悪いことを考えたな」

 井上公使はそうは言ったが、目元が完全に笑っている。


「国益を考えて行動するのが悪いことですか?」

 林大佐もとぼけて返した。

「ただ機密漏えいとかでトラブルになっては困ります。朝鮮政府が金に困っているみたいだくらいの話を何人かの新聞記者にしていただけませんか。それくらいなら機密漏えいとかにはならないでしょう」


「実際問題として、朝鮮政府が金に困っているのは周知の事実だからな。それくらい私があらためて話す必要はないくらいだ。だが、私の方でやっておこう」

 井上公使は言った。

「それでは行動を開始します」

「よろしく頼む」

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