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第2章ー20

 全琫準に対する刑が決まる数日前、井上公使は金弘集と会談した。

「全琫準をはじめとする東学党の幹部は立派な人物ばかりです。死刑にするのは誠に惜しまれます。かといって朝鮮王室に対して反乱を起こした者を無罪にするわけにはいきません。この際、国外追放と言うのはどうでしょうか」

 井上公使は提言した。


「それは」

 金弘集は言いよどんだ。

 高宗や閔妃からは全琫準以下の東学党の幹部は全員口封じのために密殺せよとの命令が秘密裏に下っているのだ。


「王室に対して反乱を起こした者を死刑以外にするというのは示しがつきません」

 金弘集は井上公使に何とか答えた。

「ところで、日本からの借款の返済はどうお考えで」

 井上公使はわざとらしく話を変えた。

「今、返済方法を検討しております」

 金弘集は答えた。


「月ごとに分けて借款をしておりますが、返済方法を明確にされないのでは、これ以上の借款を取り止めるべきと言う声が本国から上がっております。そのような状況下で日本政府の要望を断られるというのでは、これ以上の借款が困難になる可能性も」

 井上公使は深刻な顔をして言った。

 その瞬間に金弘集の顔色は激変した。


 日本本国からの借款によって、朝鮮政府の官吏の給料が賄われているのが現状なのだ。

 その借款が止まったら、その翌月から官吏の給料の支払いが不能になる。

 今、金弘集政権の最大の基盤は未払い分を含めた給料がすべて支払われ、末端の官吏に至っては袖の下無しで生活できるだけの俸給値上げが日本の借款によって可能になったことによる官吏の支持である。

 借款が止まれば、一遍に不満が自分に集中してしまう。


「全琫準らの処分について、朝鮮王室に対しては私から話しましょう。王室が温情を示す。麗しい話ではありませんか」

 井上公使は自分でも空々しいと思いながら金弘集に話した。


「全琫準らを殺せないというのですか」

 閔妃は金弘集に怒りをぶつけた。

 横にいる高宗も不満な顔をしている。


「全琫準らは日本の海兵隊が身柄を看守しています。海兵隊の目をかすめて殺すのは不可能です」

 金弘集は言った後、更に続けた。

「日本の要望を無視しては、借款が止まってしまいます。そうなったら、官吏の不満が爆発します」


「そんなこと、どうでもよろしい。給料が払われないくらい、官吏が自分で何とかすればよい」

 閔妃は平然と言った。

 金弘集は内心で呆れ返った。

 先日、給料値上げと引き換えに、官吏の不正(収賄や勝手な新税)は最高で死刑になると勅命で決まった。

 そんな中でどうやって給料無しで官吏が生活すればよいというのか。

「井上公使が面会を求めています。その上で決めてはいかがでしょうか」

 金弘集は何とか言った。


「いや、全く感服いたしました。全琫準らは憂国の念から挙兵したと申しております。これほどの義士は日本でも稀です。何とか国外追放にしていただきたい」

 井上公使は高宗に言上した。

「王室に対する反乱者を死刑にしないわけには」

 高宗は言った。


「日本が責任を持って身柄を預かります。言葉の通じない異国に追放はつらい刑です。その一方で、高宗陛下の慈悲を示すことにもなります。それとも慈悲を示せないご事情がおありで」

「いや、そんなことはない」

「では、国外追放でよいのでは」

「そうだな」

 高宗は思わず言ってしまった。

「では、早速そうしましょう」

 井上公使は言った。

 これでよし、全琫準らの身柄をこちらで確保できる。


 全琫準らは日本へと渡り、余生を日本で送った。

 全琫準は朝鮮王室の温情で死刑を免れたと信じて亡くなった。

 だが、実際には朝鮮王室はずっと全琫準を秘密保持のために密殺したがっていた。

 何とも皮肉な話である。

第2章の終わりです。次は幕間の章になります

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