第2章ー14
全琫準が単位をメートル法で考えるのはおかしいのですが、分かりやすくするためと言うことでお願いします。
「強攻策はどうにも無理です」
東学党農民軍の幹部の1人が幹部会の席で言った。
全琫準はそれに肯かざるを得なかった。
ここまで徹底されると、却って清々しくなってくるな。
海兵隊の公州籠城作戦は徹底していた。
公州に築かれた野戦陣地を強攻策で抜くのは無理と今日の攻撃からすると判断せざるを得ない。
せめて、誘いに乗ってくれれば、と思わなくもないが、野戦陣地から一歩も出る気配さえない、こんな中で、明日以降も同様の攻撃をかけても、同じことの繰り返しになるだろう。
では、兵糧攻めに託すか。そっちの方も見通しは明るいとは言えなかった。
海兵隊は大量の糧食を公州に搬入しつつ、更に公州近辺の穀物を買いあさっていた。
相場の3倍と言う高値で、漢城から公州までずっと買いあさってきたという話まで流れている。
東学党農民軍は食糧は現地調達と言うことで進軍してきた。
つまり通ってきた道はある意味で既に食いあさった後と言ってよかった。
本来からすれば1万を集めて進軍することすら、東学党農民軍にとっては補給を考えると難しい。
それなのに4万を集めたのだ。
最早、進軍してきた道に穀物の余剰は全くないと言ってよかった。
公州近辺で現地調達を図ることで何とかしようと考えて進軍してきたが、公州近辺は既に海兵隊が穀物を3倍の高値で買いあさった後だったのだ。
「金に目がくらむとは非国民め、売国奴め」
と幹部の1人がつぶやくが、全琫準はそれを押しとどめた。
穀物くずですら、相場の3倍で買いあさられては、公州近辺の農民の多くは売り急ぐだろう。
東学党農民軍はそんな値段で買ってくれないのだ。
どっちが得か、子どもでも分かる。
つまり、公州には余剰穀物はほとんどなく、公州に止まれば止まるほど、東学党農民軍は飢餓に見舞われるのだ。
一方で、海兵隊は現地調達分も合わせれば、3か月は余裕で籠城できるだけの穀物を確保している。
3か月とはいわずとも1月経って、海兵隊が攻撃を開始すれば、飢餓状態の東学党農民軍は一撃で崩壊するだろう。
では、漢城を目指して急進するか。
それも無理だ。
漢城までの道も同様になっている。
5日あればたどり着く、そうすれば王室を救援できると別の幹部は息巻くが、食うや食わずの状態で100キロ以上歩け、と言っても付いてくるのがどれだけいるだろうか。
そして、漢城を海兵隊は空にしていないのは間違いないらしい。
となると、漢城への急進策は、公州の攻撃の二の舞を演じたうえに、また、100キロ以上絶食状態で歩いて戻るという危険を背負うことになる。
東学党農民軍の餓死者の遺体が路上に点々と転がる地獄街道が現出するだろう。
街道上の民衆の何人かは助けの手を差し出すかもしれないが、万を超える東学党農民軍の参加者が助かるとはとても思えなかった。
進むも地獄、止まるも地獄か、全琫準は自嘲めいた想いすら抱いた。
更に気にかかる噂が流れていた。
朝鮮の中央軍全軍が洛東へと迂回し、そこから全羅道を目指しているという噂である。
これを聞いた東学党農民軍の参加者の一部からは、噂が本当だった場合に備えて、一部を割くべきではという声が上がっている。
中央軍の略奪は酷い。
東学党農民軍に遭うとも中央軍に遭うなというのは朝鮮の民衆の常識である。
噂が本当なら、公州攻撃にかかりきりになれば、中央軍の進軍に東学党農民軍は対処できず、東学党農民軍の最大拠点の全羅道は食い荒らされて崩壊するだろう。
後方が気になっては、公州攻めに集中できない。
噂が流れるのが早すぎることから、全琫準は海兵隊がわざと噂を流したと睨んでいた。
どうにも詰んだ状態になりつつある。
全琫準は苦悩した。




