第2章ー11
「東学党が蜂起したか」
土方少尉は覚悟を固めていたとはいえ、実際に東学党が蜂起したと知ると身震いがした。
上官の斎藤大尉から、いろいろ話は聞かされている。
厄介な敵と戦う羽目になったものだ。
林大佐から速やかに士官は全員集合するように指示が届いた。
土方少尉は走って集合場所に向かった。
「これより、東学党農民軍に対する軍事行動を開始する。基本的には横須賀海兵隊と佐世保海兵隊が三路に分かれて南下して、全羅道の制圧を目指す。また、呉海兵隊が釜山から西へ進み、同様に全羅道の制圧を目指す。舞鶴海兵隊は漢城の守備に当たる。朝鮮王室からは東学党農民軍を殲滅するように依頼があった。従って、朝鮮軍もこの行動には協力してくれる。基本的には地方警備の地方営兵と民堡軍なので、地元の後方警備にしか使えないが、近衛兵を含む中央兵2800は我々と行動を共にする。取りあえずの作戦は以上だ。何か疑問等はあるか」
林大佐が発言した。
「東学党農民軍の主力はどのように動くとお考えですか」
岸大尉が質問した。
「今のところは、東学党農民軍の主力は全羅道から忠清道へ更に漢城へと向かうと考えている。そのための鍵となるのが公州だ。この場合、我々横須賀海兵隊は全力をもって、公州に展開する。佐世保海兵隊は1個海兵中隊を除き、清州から連山へと向かい、公州を南から襲い、横須賀海兵隊と佐世保海兵隊で挟撃することにより、東学党農民軍の主力を崩壊させようと考えている。また、佐世保海兵隊の1個海兵中隊は朝鮮の中央兵と行動を共にして洛東へと進み、その上で全羅道へと向かう。この行動には間接的に釜山から全羅道へと向かう呉海兵隊も協力することになる。東学党農民軍の拠点となっている全羅道を最終的に制圧するのが目標だ。だが、まだ東学党農民軍の主力がどう動くのかは、完全に把握できていない。従って、今のところは最初に述べた案で動く。2、3日経てば、東学党農民軍の主力の動向が分かるだろう。どちらにしても輜重等の準備も考えるとすぐには動けん。幾ら兵は拙速を尊ぶとはいえ、兵站はきちんと確保する必要があるからな」
林大佐が答えた。
士官は全員肯いた。
「それから、川上操六参謀次長や井上馨公使は、東学党農民軍の参加者は我が軍に銃を向けている以上、断固として殲滅しろと言っているが、それは厳禁する。東学党農民軍に一時参加していても武器を捨ててしまっている場合等はすぐに殺してはならん。朝鮮の司直の手に委ねるように。下士官兵にもその趣旨は徹底するように」
林大佐は締めくくりの言葉としていった。
「なぜなら、朝鮮の民衆の恨みを必要以上に買うことはないからだ。確かに我々に銃を向けている以上、断固として殲滅しろと川上参謀次長等が言うのは分かるが、我々も後々のことを考えねばならん。怪しいからと言って殺したり、拷問を加えたりしてみろ、朝鮮の民衆は我々に反感を抱いて、東学党農民軍への味方が増えることになり、鎮圧にますます時間がかかることになる。いいな」
「分かりました」
士官は口々に答えた。
土方少尉も思った。
斎藤大尉も言われていた。
必要以上に恨みを買うと後が大変なことになる。
それにしても、どれくらい鎮圧に掛かるだろうか。




