プロローグー2
同じ頃、軍令部第3局長室には、海兵隊の3トップが秘密裏に会合を持っていた。
副官ですら、入室が許可されず、入室しているのは3人のみだった。
「すまんな、こんな形で会合を持つことになって」
本多海兵本部長が、林大佐に一言、詫びた。
「公然と呼び出せればよいのだが、余りにも微妙な情勢なのだ」
「情勢がどうにも微妙なのは承知しております」
林大佐が答えた。
「それにしても却って邪推されそうですね」
「しかし、これが一番自然だと私が提案したのだ。軍令部第3局長が横須賀鎮守府海兵隊の長に臨時の報告を求めるのは、そうおかしな話ではない。そして、海兵本部長が軍令部第3局長を不意に訪問するのもな。だから、これについては私が発端ということになる」
北白川宮第3局長が発言した。
「ともかく、本題に入りませんか」
林大佐が提案し、他の2人も肯いた。
一応、序列で言えば、本多、北白川宮、林の順になるのだが、林の実戦経験の功績が他の2人と同格の重みを与えていた。
「朝鮮にいる大鳥圭介公使は何と言って来ているのです」
林が尋ねた。
「朝鮮の東学党の反乱を鎮圧するのに、朝鮮政府は清国の派兵を求める可能性があるらしい。それで、大鳥公使は一度、帰国して陸奥宗光外務大臣と協議して、今後の方策を検討したいということだ。そして、朝鮮に再度赴く際には、場合によっては清国に対抗して、軍隊を随伴して赴くこともありうるとのことで、その際には海兵隊に同行してほしいとの希望があった」
本多が説明した。
「弱りましたな。大鳥公使も海兵隊の現状はご存じでしょうに。清国との衝突を行わないのなら、海兵隊で十分ですが、昨今の情勢で朝鮮に出兵したら、清国と一戦交えずには済みそうもありません。そうなると海兵隊だけではどうにもなりませんよ。退役されたとはいえ海兵隊の提督として、そのことは重々承知でしょうに」
林は大鳥公使を少し非難する口ぶりを示した。
「林の気持ちは分かるがな。出兵には備える必要があると思う」
北白川宮が仲裁に入った。
「海兵隊の現状について、林はどう考えているのだ」
「西南戦争の頃から比べたら、いろいろ強化されました。常設の海兵中隊が4個、各鎮守府に1個ずつ配置されており、横須賀鎮守府には常設の山砲中隊と工兵中隊があります。屯田兵が徐々に退役しつつある代わりに、予備役海兵中隊を設置して対処しています。屯田兵に山砲中隊が3個、工兵中隊が3個、西南戦争後に配置されたのも強みです。最大限に動員すればですが、海兵4個大隊、山砲1個大隊、工兵1個大隊を含む海兵旅団1個を編制できます。砲兵火力だけなら、陸軍の旅団より上かもしれませんね。その代り、歩兵ではなかった海兵が実質1個連隊しかいませんが。というか、こういうことはそちらがより把握していることでは?」
林が疑問を呈した。
「林が言うのも当然だが、いざとなると西南戦争時みたいに海兵旅団を編制することを考えねばならないのでな。それで、海兵旅団長の第一候補の現状認識を確認したかった」
北白川宮が言った。
長くなったので、分けます。