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幕間1-5

「依願退職ということになったよ。自分から辞表を出したので、情状酌量してやるとのことだ。現地の陸海軍を勝手に動かしたんだ。懲戒免職になって当然なのに、退職金がもらえる。本当にありがたくて涙が出るね」

 8月も半ばが過ぎ、朝晩は秋がどことなく感じられる中、公使室で大鳥公使は飄々としていた。


「はは」

 同室している林大佐は乾いた笑いをもらすことしかできなかった。

「林はどうなった」

「少将への昇任の内示が撤回です。後、戦争中なので実際の処分発令は当分保留するが、停職処分になるとのことです」


「二重処分じゃないか。昇任への内示が撤回ということは、事実上の降格処分だ。本多に俺から抗議してやろうか」

「いいですよ。海兵隊に残れただけで」

「林は欲が無いな」

 大鳥は林に温かいまなざしを向けた。


 大鳥は林にも秘密裏に本多海兵本部長と北白川宮軍令部第三局長に手紙を送っていた。

 大鳥が依願退職になったのは、西郷海相立会いの場で陸奥外相が北白川宮に外務省も何らかの処分を下すと言ったことからだった。

 大鳥は陸奥や杉村書記官の板挟みになり、外交官の仕事に疲れていて、そろそろ辞め時と考えていた。

 それに杉村を戒める必要がある。

 自分がクビになれば、さすがに杉村も目が覚めて、上司の命令に従うだろう。


 そういったことから、大鳥は本多と北白川宮に、自分が退職になっても構わない旨、丁寧に手紙を書いて送っておいたのだった。

 それに、大鳥が林や大島を動かした以上、首魁は自分になる。

 首魁が一番厳罰になるのは当然だった。

 後、もう少し思惑もあったがな。


「さてと、荷物を片付けて、速やかに漢城からおさらばするか。日本の料理が恋しいな」

 大鳥は言った。

「もう少し話せませんか」

 林は言った。


「どうもいろいろ裏で動かれていた気がするのですが。気のせいですか」

「気のせい、気のせい。現地の軍人が勝手に動くのはまずいという先例になったのは偶然だ」

「偶然ですか」

 

 林は底意地の悪い目をした。

 林は内心で思った。

 大鳥は意外と策士だ。

 現地の軍人が勝手に動いたら、結果次第で全部許されることは無い、という先例があったら、後の軍人は勝手な行動をためらうようになるだろう。


 大鳥はそこまで考えていたのではないか。気が付くと大鳥は自分から目をそれとなくそらしている。

 まあ、いいでしょう。海兵隊を動かすことを判断したのは自分ですし、辞表も自分から言い出したことですし、と林は自分から割り切ることにした。


「ところで、公使の後任は誰が来るのです」

「井上馨が来るらしいな」

「以前、伊藤総理の代理まで務めておられ、元老の一角を占める超大物ではありませんか」

 林は驚いてしまった。


「それだけ朝鮮改革に日本も本腰を入れているということさ。最も朝鮮自身が良くなろうとしないと、どうしようもないがな」

 大鳥は言った。

「確かにそうですね」

 林も同意した。


「林はしばらく漢城にとどまるのか」

「そうなりそうです。平壌に向けて出発したかったのですが」

 林は返答した。

 漢城から平壌への陸路は陸軍が進軍するだけで補給に苦しんでいる。

 海兵隊が参加したら、補給がもっと苦しくなりそうなので、海兵隊は漢城に未だにとどまっていた。


「そうか、いずれ前線に赴くこともあるだろう。その時は頑張ってくれ」

「はっ、奮闘するつもりです」

 林は敬礼して退室し、大鳥は答礼して見送った。

思ったより幕間1が伸びてしまいました。次から本当に第2章に入ります。

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