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幕間1-3

 陸奥宗光外相は顔面を蒼白にさせていた。

 宮様、北白川宮殿下が外務省に来てお話ししたいことがあるといった時点で、その内容を想像できてはいた。

 大方、林大佐も退職を願い出ているということだろう。


 外務省にも、大鳥公使から朝鮮王宮制圧事件について自らが主導した以上、自ら懲戒免職処分を望むという書簡が届いてはいたが、陸奥外相は認めるつもりは全く無かった。

 今ここで、大鳥公使の懲戒免職処分を発令したら、日清戦争は日本の謀略で始めたということを世界に公表するということになる。

 条約改正は当然失敗に終わるだろうし、陸奥外相は当然辞任することになる。


 いや、それで済めばまだしも、対外硬派の壮士は、陸奥外相は日本の国威を失墜させた国賊だとして、暗殺を公然と企むだろう。

 以前、大隈重信が外相を務めて条約改正を進めていた当時、その内容が国辱だとして対外硬派の壮士は大隈外相の暗殺を公言し、実際に暗殺未遂事件を起こしている。

 陸奥にも同じ運命が待っているのは間違いない。

 従って、大鳥公使を何としても慰留しようと陸奥は腹を固めていた。


 また、海兵隊にとっても、林大佐は英雄である。

 従って、海兵隊は何としても林大佐の退職を認めたがらないはず。

 そして、林大佐の退職を認めて公表してしまうと、日清戦争は日本の謀略で始めたことを認めることもなる。

 それは戦争に際して日本の正義を保つという大義に背いているし、愛国心の強い海兵隊は受け入れられないはず。

 従って、海兵隊は林大佐の退職を認めないと陸奥は北白川宮殿下に会うまで考えていた。


「海兵隊は林大佐の懲戒免職処分を発令することに決めました。事が外務省と陸軍も巻き込んだことだけに苦渋の決断ですが、海兵隊を護るためです。西郷海相も、林大佐は懲戒免職にせざるを得ないと言われています。これから、新聞記者を集めたうえで林大佐の懲戒免職処分とその理由である朝鮮王宮制圧事件の真相の説明を行う予定です。陸奥外相に対しては、事前に私がお会いして伝えるように西郷海相に言われました」

 北白川宮は淡々と話した。


「それでは、これで失礼します」

「待て、待たないか」

 陸奥は半分、悲鳴を上げながら、北白川宮を引き留めた。

「海軍は愛国心がないのか」


「そうは言われても、これは海軍省が決めたことですし。私は単なる伝令ですので」

「新聞は事の真相を発表するのか」

「それは分かりません。ただ、西郷海相は欧米諸国の新聞記者も集めて、彼らに対してもきちんと詳しく説明するようにと言われました」

 陸奥は顔面を蒼白にした。


 西郷がここまでの政治音痴とは思わなかった。

 欧米諸国の新聞記者は喜んで事の真相を本国に対して伝達し、新聞紙上に発表するだろう。

 西郷にはそれが分からないのか。

 海兵隊といろいろ経緯があるのは分かるが、それにしても酷すぎる。

 海兵隊を潰して、更に日本も潰すつもりか。


「ともかく待ちたまえ。西郷海相にすぐ来てもらう。私自ら西郷海相と話をしたい」

 陸奥は北白川宮に話した。

「分かりました」

 北白川宮は内心で舌を出した。


 実は、本多海兵本部長から山県枢密院議長の話を聞き、林大佐の正式な処分は日清戦争が終わるまで延期ということで、本多と自分との間では話し合いがついている。

 西郷には、単に林大佐が王宮制圧事件に取った際の行動について外相と協議したいと言っただけであり、西郷はまさかこんなことを自分が話しているとは思ってもいない。


 だが、今後のことを考えると西郷に対して林大佐の処分を話す際に、第三者を立ち会わせる必要があった。

 陸奥はそれにうってつけだった。

「それでは、陸奥外相と西郷海相の話し合いの場に私がいてもいいでしょうか」

「当然のことだ」

 陸奥は慌てるあまり、北白川宮の内心に全く気付かずに言った。

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