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幕間1-1 朝鮮王宮制圧事件の後始末

 第2章を前に、幕間を入れることにしました

「やはり、けじめはつけるべきでしょう」

 8月初めのある日、林大佐が言った。

「そうだな。けじめをつけないと、後世に禍根を残す」

 大鳥公使も同意した。

「では、進退伺と自分の意見を付け加えて、海兵本部に書面を送ります」

「俺も外務省に送るよ」


「林が、自分を、懲戒免職に、してくれ、と言ってきただと」

 北白川宮軍令部第3局長は海兵本部長室に駆け込み、息を切らせたまま本多海兵本部長に問いただしていた。

 朝鮮にいる林大佐から進退伺が届き、その内容が自らの懲戒免職を求めるものだと聞きつけ、慌てて、海兵本部に赴いたのである。

 いつも、丁寧な言葉遣いをし、時として部下にさえ丁寧な言葉をかける宮様ではあるが、さすがに言葉遣いを荒げてしまっている。


「本当だ。頭を抱え込んでいる」

 本多も本当に頭を抱え込んでしまっていた。

「林の言い分も正しい。幾ら現地事情があるとはいえ、勝手に部隊を動かしたんだ。これに対して、何らかの処罰を加えないということは、軍規の乱れに通じる。林でなかったら、俺はそいつを懲戒免職にしてもおかしくない」


「だからといってだな」

 少し息を整えた北白川宮も反論した。

「林は海兵隊の英雄で至宝だぞ。あいつをクビにできるか」


 林大佐は現在の海兵隊にとっては、英雄といって過言でなかった。

 戊辰戦争以来の戦歴を誇り、最後まで幕府に忠節を尽くした大名の1人として海兵隊以外の人に対しても知名度が高い。

 更に戦功も抜群のものがあった。


 西南戦争で横平山において土方提督の指揮下で奮戦したのを皮切りに、田原坂から熊本城救援、城東会戦、人吉奪還作戦に参加して城山の戦いまで戦い抜き、未だに海兵隊の指揮を執った戦いにおいては敗北を知らない。

 また、その戦歴において負傷したことは一度もないことから、今忠勝という異名もとっている。

 本多も北白川宮も戦歴はあるが、林に比べるとどうしても見劣りのするものだった。


 その林大佐を懲戒免職にする。

 理由を公表せずにこっそりやるという方法もあるが、その後が大問題だ。

 林大佐が懲戒免職になった理由は遅かれ早かればれるのは必至と思わざるを得ない。

 あれほどの英雄が日清戦争が始まって早々に前線に赴くどころか、クビになってしまった。

 新聞記者は理由を何としても探り出そうとするだろうし、海兵隊員全員が秘密を厳守できるとも思えない。

 そう考えると理由を公表して懲戒免職ということになるが、その理由がまた大問題だ。


「確かに米国海兵隊の指揮官が本国命令を無視して、皇居に乱入し、近衛兵と銃撃戦をした末に天皇陛下を一時監禁したみたいなものです。米本国が指揮官を処罰しないということはありえない。そして、英雄だからと言って特別扱いをしたら、他の人物まで増長して、同様の行動にはしる可能性があります」

 しばらく考え込んだ末に、自分の考えを整理しながら、本多は言った。

 その言葉を聞いて顔色を変えた北白川宮に対し、本多は続けた。


「ただ、この行動は外務省や陸軍も巻き込んでいます。外務省や陸軍の反応も確認したうえで処分を決めませんか。それから、まだ海軍大臣には話していません。話したら、林大佐の懲戒免職を認めかねませんから」

「確かに。西郷従道がまた海軍大臣になるとは思いませんでした」

 時間が経つにつれて気が落ち着いてきた北白川宮も言った。


 西郷従道は、過去の台湾出兵や西南戦争の経緯もあり、海兵隊とは上手くいっていない。

 下手をすると海兵隊を潰す発端として、海軍本体にこの件が使われる可能性すらあった。

「それではお互い動きますか。その上で、林大佐の処分を決めましょう」

 本多が言った。

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