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第1章ー14

 夜明けと共に、大鳥公使は朝鮮王宮に向かった。

 朝鮮が完全に独立するために朝鮮が清国の属国であることを認めた朝清条約を破棄すること、清国軍を即刻軍事力をもって朝鮮国外に追い出すことを日本に依頼すること、朝鮮政府は清国軍と戦う日本軍に全面協力し後方支援を行うこと、以上3点を朝鮮国王の命令で出してもらうためである。


 大鳥が参内すると王宮内には山砲1門がいつでも国王のいる場所に向けて発射可能な状態で据え付けられていた。

「どう見ても脅迫だな」

 大鳥は独り言を言った。


 その頃、杉村書記官は大院君に対して親日政権を樹立するようにと説得に努めていた。

 岡本柳之助ら民間の壮士も説得に加わっているが、大院君は中々同意しない。

「本当に日本に野心はないのか」

 大院君は逆に杉村書記官に問い返した。


「何でしたら一札書いても構いません。朝鮮の土地は欠片も要りません」

 杉村は言った。

「では一札書いてくれ」

「分かりました」

 杉村は大鳥公使の次に地位がある者として一札書いた。

「それなら政権を担おう」

 大院君は遂に同意した。


 杉村はこうして大院君の担ぎ出しに成功した、と意気揚々と後に大鳥に報告した。

 これを聞いた大鳥は林大佐に言った。

「不仲とはいえ、実の息子に大砲を向けられているんだ。それに伊藤首相との一札ならともかく、公使でもない人物の一札に価値があるものか。大院君はあくまでも抵抗したという姿勢を見せたかっただけさ」

 林もそれに同意した。


 海兵隊が朝鮮王宮を制圧し、更に大院君の担ぎ出しにも成功し、高宗の周囲は完全に固められたが、高宗は中々、大鳥の3点の要求に肯かなかった。

 大院君もさすがに大鳥の3点の要求の受け入れには難色を示した。


 3点の要求を受け入れるということは、朝鮮政府が清国に敵対するということである。

 高宗も大院君も最終的には日本と清国が戦争したら、清国が勝つと考えている。

 現状からすると大鳥の要求を受け入れるしかないが、後難のことを考えると、できる限り大鳥の3点の要求の受け入れを引き延ばす必要があった。


 一方、大鳥も焦っていた。

 牙山に駐屯している清国軍が漢城の異変を察知し、朝鮮国王の救援に動き出す可能性があった。

 海兵隊の王宮制圧作戦の計画が立案された段階で、万が一に備え、龍山に駐屯している陸軍にも一報し、海兵隊が失敗したときは救援するように依頼はしていたが、そのために陸軍は牙山の清国軍に対して動けていなかった。


 陸軍の大島混成旅団長からは、牙山の清国軍に対して先制攻撃を行いたい旨の主張も来ており、25日朝には進軍すると事前通告がなされたが、23日、24日と丸2日掛けても、大院君も高宗も大鳥の3点の要求に肯かない。

 結局、大院君も高宗も大鳥も疲労困憊の末、25日昼前にようやく大鳥の3点の要求は高宗や大院君に受け入れられた。

 既に混成旅団は清国軍攻撃のために出発している。


「至急、大島将軍に伝令を走らせてくれ。朝鮮政府が要求を受け入れたと」

 大鳥は龍山の駐屯地に残されたわずかな部隊に電文を打ち、龍山から伝令が馬で大島将軍の下に走った。

 伝令は何とか清国軍に対する攻撃前にたどり着いた。


 こういった綱渡りの末、何とか日本軍の行動について表面上の合法性は確保された。

 大鳥は思わず独白した。

「この場は何とかしたが、後でツケが大きく却ってきそうなことになったな」

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