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第1章ー13

 22日の日没を期して、海兵隊は駐屯地からの出動準備を開始した。

 完全な闇に包まれるのを待ち、星明りのみを頼りに朝鮮王宮に向かって行軍する。

 敵と味方の区別のために海兵隊員は白襷を左肩から掛けている。

 もし、それが無かった場合、味方から撃たれても文句は言えないことになっていた。


「全く」

 と土方少尉は内心でつぶやいた。

 父がこの光景を見たら、何というだろう。


 外国の王宮を武力制圧する。

 父の記憶は数少ないが、その中で覚えていることの一つが弱い者いじめは絶対に許されないということだった。

 公使館からの情報によれば、朝鮮王宮を警護しているのは警察に毛が生えた程度の部隊で軍隊と呼ぶのはおこがましいとのことだった。

 

 そんなところに大砲を装備した1200名の海兵隊が奇襲を掛けるのだ。

 どう見ても弱い者いじめにしか思えない。

 隠密性を重視して、事前の会議では大砲は不要という意見もあったのだが、不測の事態を懸念したというよりも砲兵中隊が留守番になるのが我慢ならなかった黒井大尉の主張により、砲兵中隊も出動することになった。

 少しでも静かに運ぶために臨時に山砲を分解し、ばん馬に駄載して運んでいる。

 あれではすぐに撃てないだろうにと思うが、黒井大尉は速やかに発砲準備を整えることで何とか対処できると主張して止まなかったのだ。


 道の途中で、林大佐が待っていた。

 林大佐は無言で自分の後に続け、と身振りをして、行軍の先頭に立った。

 土方少尉は行軍が止まらないことから覚悟を決めた。


 ありえないと考えられてはいたが、もしも朝鮮政府が日本の最後通牒を受け入れた場合、林大佐から中止命令が出ることになっていた。

 それなのに林大佐が合流して行軍がそのまま続いている。

 朝鮮政府は日本の最後通牒を拒絶したということだった。


 海兵隊は迎秋門から侵入することになっていた。

 工兵中隊の腕利きが迎秋門に爆薬を仕掛け、爆発させる。

 想像以上の爆音がし、迎秋門の扉は吹っ飛んだ。


「掛かれ」

 林大佐の無言の身ぶりに応じ、海兵隊は迎秋門から間髪をいれず、王宮に突入する。

 爆音に驚いた王宮警護兵が飛び出してくるが、完全武装した海兵隊員の前にすぐに相次いで投降か、名誉ある戦死かのどちらかの運命を選ぶ羽目になる。


「国王を速やかに探せ。海兵隊で身柄を確保する」

 林大佐の命令が事前に出されていた。

 海兵隊の侵入を少しでも防ごうと閉ざされていた光化門や建春門も相次いで海兵隊の工兵の前に爆破開放されていく。


 2時間余りの銃撃戦の末に、生き残っていた王宮警護兵全員は武装解除され、海兵隊の捕虜になっていた。

 国王も海兵隊が身柄を確保している。

 更に王宮制圧が順調に進むのを見た林大佐は王宮近辺の朝鮮軍の軍事施設にも制圧のための兵を割き、速やかに制圧させていった。


 夜が明ける頃、漢城内で抵抗している朝鮮軍の兵は誰もいなくなっていた。

 生き残っていた朝鮮兵は逃亡するか、海兵隊の捕虜になっていた。

「第1段階は成功といったところか」

 林大佐は独り言を言った。

 まだ、朝鮮国王から清国軍を追い出すようにとの依頼は出ない。

 だが、ここまでやった以上、朝鮮国王は依頼を出さざるを得まい。

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