エピローグー1
1901年の年の瀬、斎藤一は京の新選組の碑の前でしばらく瞑目して、祈念していた。
傍には2人の男がいる。
2人共、斎藤の祈念が終わるのを無言で待ち続けた。
「近藤さん、土方さん、新選組の旗が日本国外で、清国の北京で翻ることがあるなんて、あの京で過ごした日々の時に思いましたか。新選組の旗は日本国外でも翻りました。自分がそれを持っていくとは本当に思いもよりませんでした。あの世でどんな思いで見ておられますか。島田さんからあらためて会津で土方さんに別れを告げた後で、土方さんが本当は自分も会津を助けたいと言われていたと聞きました。その想いは少しでも晴れましたか。息子の土方勇志さんたちと北京にいた柴五郎中佐を助け出すことが出来ました。柴中佐は新選組の旗を見て落涙されていました。あの会津鶴ヶ城で救援軍の中にこの旗を本当に見出したかったと、ぽつんと言われたのが印象的でした。今の自分は、海軍少将、つまり土方さんと同格まで昇進しました。でも、あれから20年以上が経っての同格なのですから、何とも言えない気がします。また、あの世でお会いした際にはゆっくり語り合いましょう」
斎藤は祈念しながら、近藤や土方たちに語りかけた。
斎藤は祈念を終えて、待っていた2人の男と向かい合った。
「お待たせしてすみませんでした」
「気にせんでいい。それにしても、長いこと海兵隊員として現役を務めることになったな。ようやく予備役に編入されて休めるのか」
島田魁が言った。
「ええ、予備役です。日清戦争で動員されて現役復帰して、早く動員解除されたかったのに、7年間も現役でこきつかわれて。本当に人使いが荒いですよ。海兵隊は」
斎藤は苦笑いしながら言った。
「結局、7年間で極寒の大陸から灼熱の台湾まで働かされる羽目になったのか。しかも、台湾では富士山並みの山の中腹まで山登りを50歳を過ぎてからする羽目になったと。現役復帰しなくて良かった気がするな。あのときに海兵本部に現役復帰したいと掛け合わなくて良かったわい」
永倉新八が言った。
斎藤はその一言を聞いて、ますます苦笑いを深くした。
「今夜の晩餐は私がおごるので、あの時の話は勘弁してください」
斎藤は、日清戦争勃発を聞いて永倉が海兵隊の現役士官復帰を志願すると息巻いたときのことを思い起こした。
あの時は、本当に往生した。
「そういえば、北京で原田左之助に会ったか?」
永倉が斎藤に尋ねた。
「いえ、会いませんでしたが」
「そうか」
永倉はしばらく沈黙した後、また語りだした。
「原田は上野で彰義隊の一員として亡くなったはずなのだが、生き延びて大陸に渡ったという噂がある。しかし、斎藤を訪ねてこなかったということは、やはり間違った噂なのだろうな」
「仮に生きていたとしても、あいつも60だ。大陸に渡ったものの既に亡くなったのかもしれん」
島田が言った。
「そうかもしれんな」
永倉が言った。
「わしも古希を過ぎた。来年の桜をここで眺められるかな」
島田が更に言った。
「戊辰戦争から30年以上、西南戦争から数えても20年以上です。お互い年を取ったものです。私ももうすぐ還暦ですよ」
斎藤が言った。
「新選組で沖田と並んで若かった斎藤がもうすぐ還暦か。わしも老いるはずだ」
永倉が言った。
3人は黙って新選組の碑を見た。
3人共、目に涙を浮かべ、過ぎ去った歳月をしのんだ。
史実では島田魁は既に病死していますが、この世界では少し長生きしています。
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