第5章ー16
斎藤一は、第3海兵連隊の先頭に立って、目の前の清国正規軍と義和団の混成部隊に突撃した。
目の前の敵は目算する限り味方の5倍以上だが、質の面で圧倒している。
砲撃の急襲により、大混乱に陥っており、まともに自分たちを迎え撃つこともできない。
「全く弱い敵だ」
斎藤は腰に差していた軍刀を抜き放った。
白兵戦を行う際は銃剣術で戦うべきなのだろうが、斎藤にしてみれば、新選組の一員として戦って来て以来、白兵戦では剣術で敵を圧倒してきた。
50歳を過ぎて、今更戦い方を変える必要は斎藤は感じていない。
「寄らば斬る、逃げねば斬るぞ」
斎藤は大喝した。
それが聞こえた土方大尉は苦笑いする。
日本語で大喝しても、清国兵には分かるまい。
だが、斎藤の気迫に気圧されたのか、斎藤の大喝が聞こえただけで逃げ出した清国兵がいる。
土方大尉は思わず首を振った。
これが剣豪の気合というものか。
それでも、皆が皆逃げ出すほどの弱兵ばかりではない。
斎藤に対して、逃げ出さずに白兵戦を挑んでくる清国兵もいる。
いや、服装などからすると義和団の部隊らしい。
斎藤は不敵に笑った。
「貴様らの義和拳とわしの無外流、どちらが強いか試してみるか」
斎藤は刀を振るいはじめた。
清国軍の部隊に突撃してしばらく混戦した後、土方大尉は、銃剣術で目の前の敵を倒していた。
父なら剣で敵を切り捨てたろうが、自分の腕は父には到底及ばない。
素直に銃剣術で敵を倒すべきだった。
それにしても数は数だ。
一人十殺すればいい、と不敵に笑った斎藤大佐に思わず同意した自分を罵倒したくなる。
敵を何人倒しただろうか?
あれ、そういえば斎藤大佐は?
土方大尉は慌てて斎藤大佐を目で探した。
斎藤は敵に取り囲まれていた。
いや、敵の集団に自分から殴り込みをかけたといった方がいい。
「こいつはいい。右も左も敵ばかりだ。思う存分、刀を振るうまでだ」
斎藤は笑った。
斎藤を取り囲んで優位にあるはずの義和団の者たちはその笑いを見て、思った。
こいつは鬼だ。戦の神だ。
三国志に出てくる呂布や関羽だ。
自分たちがこいつを取り囲んでいるのではない。
こいつに追われているのだ。
「逃げて死ぬか、自分と戦って死ぬか、好きな方を選べ」
斎藤は言った。
義和団の者たちは、斎藤の言葉の意味は分からなかったが気配で分かった。
自分たちは、ここで死ぬしかない。
だが、仲間は助けねば。
せめて少しでもこの鬼に傷を与えられれば、仲間を助けることができるかもしれん。
義和団の者は半分泣きながら、斎藤に喚きかかった。
「そうか、戦って死にたいか」
斎藤は笑って剣を振るった。
「一度に1人に襲い掛かれるのは6人までだ。それも一斉に襲い掛かると自分の武器が味方に当たる。だから、時間差が出来てしまう。結局、1対1の戦いになるのだ。冥土の土産に覚えておけ」
斎藤の周りでは、義和団の者が次々と倒れていく。
だが、さすがに斎藤も息が切れてきた。
「斎藤大佐、無理なさらないでください」
土方大尉が部下を率いて、そこに駆け付けてきた。
それを好機に義和団の者たちは慌てて斎藤の周りから逃げ出した。
魔物に魅入られたように彼らは斎藤から逃げられなくなっていたのだ。
「すまん、つい熱くなっておった」
斎藤は土方に頭を下げて、大息をついた。
「そういえば、戦はどうなっている」
「斎藤大佐が本来把握すべきでしょうに」
土方大尉は思わず斎藤大佐を諌めた。
「敵は敗走を始めましたよ」
「そうか、よかった」
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