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第5章ー8

「最悪の事態が発生したか」

 清国の列強に対する宣戦布告の第一報を聞いて、本多海兵本部長は呻いた。

 万が一に備える必要があると嫌な勘が働いたので、内々に準備をさせていたが、本当になるとやはり衝撃が違う。

 その報を受けて、北白川宮殿下と林忠崇は海兵本部長室に駆け付けてきた。


「北京情勢はどうなっているのだ」

 いつも冷静な林が入室早々にわめいた。

「落ち着け、こういった状況だ。粛々と準備を進めるしかない」

 先に来ていた北白川宮殿下が林をたしなめた。

 だが、顔色は紅潮しており、本人自身が落ち着いていないのが明らかだった。

 本多は、自分以外の2人も興奮しているのを知り、却ってそれで落ち着いた。


「とりあえず把握している情報を言う。6月10日を最後に北京に駐在している外交団からの連絡は途絶えた。従って、情報の正確性を吟味せねばならないが、それが難しい」

 部屋にいる2人が肯くのを確認して、本多は続けた。


「6月3日に天津、北京間の鉄道が義和団による破壊工作により通行不能になったこともあり、6月10日に英海軍のシーモア提督を指揮官とする連合軍が天津から北京に向けて出発した。だが、どうも引き返しつつあるようだ。実際問題として、この連合軍には天津にいた横須賀海兵隊の1個中隊の残部を全員参加させてはいるが、全部で2000名程だ。それに鉄道を修復しながら進もうとしたので、遅々として進軍は進まなかった。更に厄介なことに連合軍に対峙した義和団は20万人以上が集まっていたらしい。さすがにろくな武装は持っていないとはいえ、100倍以上の数は数だ。引き返さないといけなくなったのはやむを得ない」


 本多はそこで一息入れた。

 北白川宮殿下と林提督の2人が続きを視線で促した。

「北京駐在の列強や日本の外交団の一部は既に殺されてしまったらしいという情報もある。だが、柴中佐もいるし、僅か400人余りとはいえ、北京にいる外交団には警護兵もいたのだ。むざむざ全員が殺されるとは思えない」

 本多の話に他の2人は肯いた。


「だから、我々は救援のための海兵師団を至急編制して、天津に送る準備を整えねばならない。同意してくれるか」

 本多は2人に尋ねた。

「当然のことだ。今度は救援を成功させてみせる」

 林提督は断言した。


 林は思った。

 戊辰戦争の時に会津藩と一時とはいえ自分は運命を共にしようとまでしたが、結局は別の道を歩んでしまった。

 今になって会津出身の柴中佐が北京で救援を求めているというのは何かの運命の導きというものではないか。


「名目上とはいえ奥羽越列藩同盟の元盟主としてずっと会津を救援できなかったのは心残りでした。今生の悔いを晴らす機会です。私も同意しますよ」

 北白川宮殿下は話しながら涙を目に溜めていた。


 本多は2人の姿を見て、あらためて思った。

 あれから30年以上が経つ。

 だが、自分も含めてあの戦争は皆の心の奥底に棘のように刺さってきたのだ。

 江戸の仇を長崎で討つではないが、刺さってきた棘を抜く絶好の機会だ。


「では、海兵隊は海兵師団を臨時編制しての北京救援を海軍省に意見具申し、全力でその準備に取り掛かる。だが、山県首相から直々に戒められたが、今回の行動は欧米諸列強との協調行動が必要不可欠だ。それは心して行動しよう」

 本多自身も今回のことについては精神の高揚を感じて止まない。

 自分の心を静めつつ話さねばならなかった。

 北白川宮殿下と林も本多の言葉に肯いた。

 北京への海兵隊の出動について、海兵隊幹部の意志が統一された瞬間だった。

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