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妖精は薔薇の褥で踊る  作者: うさぎのたまご
二章 薔薇は雨降る夜に狂い咲く
35/38

あなたのためなら

 遅くなって申し訳ありません!


 先日のものを一回見た人ももう一度見直した方がいいかと……



  

 昼下がりの庭、テーブルに薄らとレモンの味がする水の入ったグラスを置いて、向かい側に座っているアルに問いかけるような視線を送ると、こちらに気付いたアルトレルがテーブルに手を付いて立ち上がると傍まで歩いてきた。


「アル」


 気付いてもらったのが嬉しくて、ねだるように名前を呼び、手を伸ばすと、ゆっくりと腰に手が回されて前髪が横に退かされると額に口づけられた。


 触れるだけの軽いもの――少しでも触ってほしくてフェルニアがアルトレルに言ってやってもらっているものだ。まだぎこちないし躊躇いもあるようだけど、これだけは名前を呼ぶとしてくれる。


 満たすには足りないが、あたたかい気持ちになれるのでとても好きだ。

 少しずつ、慣れていってもらえばいい。


 足を固定して抱き上げてもらうと機嫌よく笑ってちぅっと音を立てて唇を吸い、舌先で擽るようになぞると薄らと唇が開けられてそっと舌を侵入させる。


何回かするとアルトレルも分かって来たらしく、前みたいに戸惑うようなこともない。最初は無理やり舌でこじ開けるまでずっと固まったままで唇も閉じたままだった、それが――自分が何も知らないアルに教えたと思うと素直に嬉しい。


フェルニアは先端が舌に触れたところで一度唇を離して首を傾げた。


「アル、喉渇いたの?」


 問うとぎゅうっ、と閉じられていた目があけられ、目線が少し彷徨った後に小さく頷いた。


 多分、口の中が乾いていたのは誤魔化せないので渋々という感じだろう。何故だか知らないが、アルトレルは極端に何かを自分に言う時に怯える、もしくは遠慮する。


 ちらっと目をテーブルの上に走らせて、先ほどまで自分が飲んでいたグラスを手に取り、小さく微笑んだ。


「飲みたい?」


 また頷く。

 声が聞きたいなと思いつつ腕から下りようとして、いいことを思いついた。


「アル、口開けて」

「……?」


 突然のことで驚いたのか軽く瞬き、一拍後に素直に口を開けて不安そうにグラスを見た。

 ……まさかそのままグラスをアルの口に入れて無理やり飲ませるとでも思ったのだろうか?


流石の自分でもそれはしない。絶対に口から溢れて服を汚すと思うし……あ、でもこれもアルトレルが飲み込めなかったら汚れる、かも……。


「ん」


 グラスに口を付けるとほんのりと甘いそれを口に含み、テーブルの上に置きなおすとそのままアルトレルの顔を上向かせて口づける。一瞬だけ唇が閉じられようとしたが、閉じられる前に唇を挟むようにして擦りつけるとまた元通りに開いた。


「んっ、ちゅ」


 ひざの裏に手を回して抱き上げてもらうと、自然自分の方がアルトレルよりも目線が高くなり、アルトレルが上を向くと口づけるのにちょうどよくなる。耳の所に手を合わせて覆いかぶさるように唇を重ね、ぴったりと食みあうような位置を見つけるとゆるゆると口を開け、少し温くなった中のものを流しこむ。


「う……ん、ぁ、はぁ」


 自分を支えていた手から力が抜けるが、気にせずにさらに繋がりを深くすると落とすまいとしたように身体に回されていた手にぎゅっと力がこもる。


「ふっ、くん、はっ、ぁ……ん、く」


呼吸ができなくなり苦しいのか、小さく喘ぎながら一生懸命飲み干すアルはすごく可愛い。喉が上下したのを確認するとちゅっと音を立てて口を離した。


 そのまま上気したアルの顔を唇で辿って鼻先にがぶりと噛み付く。


「んっ」


 驚いたように上げられた声には少しだけ甘さが混じっている。

 当初の目的であるアルトレルの声を聞けて満足したフェルニアは、鼻の根元の所を歯形が浅くつくくらいに噛んで離すと、唇が触れるか触れないかのところで囁く。


「目、開けててもいいよ」


 最初に目を閉じてと言ったせいか、アルトレルは口づけるときに必ず瞼を固く閉じるのだ。目を瞑っていても別に構わないが、アルトレルの目がどうやって溶けていくのかを見てみたいとも思う。


そのまま軽く唇を重ねるとアルトレルはどうしたらいいか分からなくなったように何度も瞬いた。しかし口の中にねじこむように舌を入れると、癖になったのかもう一度目を閉じる。


「はっ、ぁんんぅ……っ、ふ」


 髪の毛を軽く梳いて抱き込むように頭に手を回し、声を漏らす隙もないほどに強く食む。


 ぺろりと唇を舐めて見つめると、潤んでどこか虚ろな目があげられて目尻に口づけた。目が潤んだ時に固く瞑ったせいか少しだけしょっぱい味がして――とても嬉しい。


 これから流れるアルの涙も血も全部一人占めしたいなと少し思ったが、叶わないかもしれない夢を抱くのはやめようと、そのまま舐めようとしていた舌を引っ込めて口を離した。


 アルトレルは暫く赤い顔で荒い息を繰り返していたが、そのまま涙を食べる代わりに無言で顔に何度かちゅ、ちゅ、と口づけているとはっとしたのか抱きしめていた腕の力を抜く。


 別に痛いほど強く抱いてもいなかったのにと不満の声を上げ、赤くなった頬を両手で包み込むと目の下の皮を少しだけ伸ばしてクスクスと笑う。

 最後に頬を擦りあわせると手を首の方に回して抱き付いた。


「行こう」

「……ん」


 唇に残る熱、身体に感じる体温、一生死ぬまで離したくないなと思う。


 そして、そのために自分は何をできるか、アルトレルの首筋に顔をうずめたフェルニアは薄らと微笑んだ。


****************************


 レオノールは書類の整理をしている途中、休息がてらに窓からフェルニアがいるはずの木の下に目をやって――固まった。


「おーい、どうした。レオノール?」


 あそこは最近フェルニアが気に入っている場所で、よくアルトレルやレオンと一緒にお菓子を食べているのを見ていた。


 だから、この時間なら今日もいるだろうかと何気なく見たのだ。

 そう、本当に何気なく。


「なー、氷の大魔王様?」


 横でエリクセルがふざけたことを言っているが、それも気にならない。

 確かに――自分はフェルニアがアルトレルと口づけているのは知っていた。しかしそれはあくまでも情報として、だ。


 実際二人がしているのを見ると何とも言えない気分になる。

 木の下に白いテーブルがあり、木漏れ日の中で抱き合う子供は微笑ましくも見られるのだろう……多分。


自分だってただ抱きしめているだけならそう思った。が、これはいかがなものかと思う。


 遠目でもわかるほど明らかにフェルニアは舌を入れて口づけていたし、対するアルトレルも顔を赤らめて応えるように強く抱きしめている。


「おい、どうした?」


 流石におかしいと思ったのかエリクセルが近づいてきて、慌ててカーテンを閉じようとするが反応が遅れたために間に合わず、エリクセルが閉じようとしたカーテンを手で押さえて下を見るのが早かった。


「……」

「……」

「……俺としたのなんてキスの内にも入らないんじゃ……ぐっ」


 沈黙の後の気が抜けるどころか、あの時の怒りが再熱する言葉にレオノールは無言で手直にあった分厚い歴史書を投げつけ、足の甲を押さえてうずくまるエリクセルに目もくれずに椅子に座りなおしてペンを手に取ると、小さい文字の見過ぎでズキズキと痛む頭を押さえて昨夜から動かしっぱなしで力が抜けた手を握りしめる。


 バキリと手の中で音を立ててペンが砕けた。


****************************


 ―――欲しい。

 堪らなくそう思った。


 すべらかな頬にさらさらの黒い髪、純度の高い宝石よりもなお赤いその目、仕草の一つ一つまでが狂おしい程に愛おしいアルを引き留めて自分に繋ぐ鎖が、誰にも取られないように守り切れる強さが、そして自分の言うことを疑問にも思わずに実行する、ヒロインをアルから目を逸らさせる攻略対象という駒が――欲しい。


 そのためなら何でもできる、そう思えた。


***


「……奴隷市場に行きたいんです」


 そう言うと父様はガタリと音を立てて椅子から立ち上がり、肘でインクを思いっきり零した。じわじわと机の上にのこった書類が黒く塗りつぶされているが、退けなくていいのだろうか?


そわそわと意味なく手を動かす父様を疑問に思うとともに、床にうずくまっていたエリクセルを見ると、なぜか顔を青くさせてこちら――正確にいうとその後ろを見ている。


何となく室内の空気が凍ったように思えたフェルニアは、それほどおかしなことを言ったのだろうかと首を傾げた。


***


『奴隷市場に行きたい』

 フェルニアが、こう言ったのは一応、本人なりに考えて行動した結果なのだ。それに至るまでの経過もある。

 ただ、絶望的に言葉が足りなかっただけで――。


***


このままじゃ、駄目だと思った。

 何故とは言えないが、もっとできることがあると思ったのだ。


 例えば――思う。レオンはゲームの設定とは随分違うと、前から違和感は抱いていたが、冷静に考えると違和感どころかおかしすぎる。


 なぜならゲームの中でのレオンは病弱で大人しく、見るからに弱々しい薄幸の美少年、子供時代は孤独で寂しい日々を送り、姉弟で依存しあっている、が、今のレオンはエヴィータがいなくなったせいか最近では剣も習って相変わらず線は細いが弱々しくは見えない、に加え精神的負荷のせいかゲームでは良く体調を崩す病弱設定だったはずなのに、今では病弱どころか夜遅くまで起きてなにかしているらしく部屋の窓から明かりが漏れているし、今の所リゼリアにも依存しているようには見えない。リゼリアもレオンに依存していると言うよりは執着していると言った方がしっくりくるような気がする。


 丁寧な口調、というのも合ってはいるが、エリクセルとの会話を聞く限り口が悪い……と言えなくもないような喋り方だ。むろんこれもゲームではありえなかった。


 それにあの日フェルニアが助けたせいか、なんというか……とても丁寧な扱いをしてくれる。話し方も柔らかいし、こちらの話には真剣に耳を傾けてくれるし、途中で遮ったりもしない。

 気を使われているのだと思う。


 そしてその時思った。

 攻略対象全てにある程度恩を着せて、面識を持ってはどうかと……隠しキャラの隣国の皇太子などは無理があるとして、この国にいる貴族、もしくは平民とはどうにか会える。


 恩を着せればヒロインと多少無理やりでも早めに接点をもたせられると思うし、危ない方向に話が持っていきそうだったりしたら止めることも出来る。


 正直かなり役に立つはずだ。それに貴族の隠し子だったりする攻略キャラは幼い頃何度か餓死しかけているから、死にかけている所を救ったりしたら……恩はかなり着せられる。


 居場所は知らないが、幼い頃のトラウマになるイベントの場所なら詳細が分かるし、少なくとも何人かとは接点をもてるはず、


 その結果、レオンのこともあるし少しぐらいはシナリオが変わったとしても別にいい。約束はまずは全員を城に集めることだ。


 性格や過去が変わっても今更、いっそのこと全部壊してしまいたいほどだが、自分の全然知らないイベントが起きたりしたら嫌なので、窮地を助けた後に適当に似たようなものを起こすか、もしくは過去の危ないイベントは必ず助ける人物が存在するので自分がそれになり替わればいい。


 それに、いっそのこと自分が拾っても構わないし……。

 うん。


 そうと決まれば、早く行動するに限る。


 そういうわけで今、アルトレルに抱きかかえられて父様の部屋に向かっている。なぜなら一番今から近いイベントが、あと一ヶ月先位のこの領地で行われる奴隷市場の近くであるものだからだ。


 攻略対象は狼男の種族で、下町に住んでいたところ、それがばれて捕まえて売ろうとした奴隷商人の配下に追いかけられ、その時、同じ種族の仲間が殺されて心に傷を負った彼は人間を憎んで、その奴隷商人が貴族だったために復讐しようとある貴族に頼み込み、人間のふりをして城に仕え、まず奴隷商人の息子から殺害しようとするが、ヒロインの温かい心に触れて復讐を忘れていく……という大体はこんな感じのストーリーだったはずだ。


ゲーム通りなら。


そんな彼のヤンデレ版バットエンドは狼人間に相応しく、ヒロインを引き裂いて食べてしまうという、考えるだに恐ろしい怪奇エンドである。

 が、今は微妙にその心が理解できなくもない。


 最近アルを見ていると食べたくなる。

 精神的ではなく物理的に、特に今。


 肩口に顔をうずめているため、目の前には丁度白い首筋あり、噛み付こうかどうか迷って、痛くないようにそっと唇だけで食もうとすると、ぴたりとアルトレルが止まって床に下ろされた。


 ……どうやら父様の執務室に付いたらしい。

 少し残念に思いながら扉を叩いて中に入る。


「フェルニア?」


 扉を開けて中に入ると父様が驚いたように目を見開く。

 確かに自分がここに来くるのは外出が許されて初めてだが、それほど驚くことだろうか? 


 一拍後にふんわりと微笑んだ父様に要件を口にして――今に至る。


「……なんで?」


 掠れるような声、なんで、とはどういう意味だろう?


「なにが欲しいの?」


 フェルニアが悩んでいる間に調子を取り戻したのか、いつも通りに微笑む父様に重ねて聞かれて少しだけ考える。

 別に、奴隷市場に行きたいわけではない。


 用事があるのはその近くにある裏路地だ。が、裏路地に行きたいなどと言うのはどう考えてもおかしいだろう。


 100歩、いや1000歩譲って裏路地に興味がある奇特な趣味の人間だと理解してもらえたとして、なぜそこの裏路地がいいのかの説明がつかない。


 だから奴隷市場に行きたいと言い、適当に回って抜け出せばいいと考えたのだが、甘かっただろうか、まさか欲しいものを聞かれるとは思いもしなかった。


 奴隷が欲しいとは思わない。

 アルがいれば必要ないし、そもそも興味もない。


 ……。


「――犬が、欲しいんです」


 奴隷市場と言ってもそれだけではなく色々なものがあるし、大体それが催されるときは人が沢山集まるため、商人なども多くの露店を出品する。


 狼人間が変身できるのは狼か人型しかないが、狼が欲しい。これもまた一般的ではないので、狼姿の攻略対象を犬と言い張って強引に押し通せばどうにかなるはずだ。この世界でも犬を飼うのは一般的とされてはいるので問題はない、と思う。


 多少、ずさんすぎる計画と思えなくもないが、外に興味のなかった自分が何でそこに突然行くのかという時点ですでに綻びがあるのだ。


 少しぐらい怪しまれたりしても別にいいし、父様は最終的には頷いてくれるはず。なぜなら口論する時間すらもったいないと多分思っているから。

 そう判断して口にしたのだが、どうも反応が芳しくない。


「いぬ……?」


 ぼそりと呟いて落ち着きなく視線を彷徨わせると、ぴたりとフェルニアのとなり後ろにいるアルトレルに目をとめる。


「アルじゃ、駄目なの」

「……父様、アルは犬じゃありません」


 父様はとうとうおかしくなってしまったのだろうか?

 首を傾げるが、父様の顔はまじめで冗談を言っているようにも見えない。


 少し考える。

 吸血鬼は犬になれただろうか……否だ。


「いや、フェルニアが望むんだったら何でもするんじゃ……。というか、そもそも市場はオークションと違って綺麗じゃない。慣れない者が行ったら数分で気分が悪くなるようなところだよ。だから――」


 いかない方がいい。


声に出さずにそうつづける父様、てっきりすぐに承諾してもらえると思ったのにと苛々する。もともとあまり気が長い方じゃない。渋る父様にしびれを切らして、てくてくと机を回って傍まで歩いていくと半分立ち上がりかけた父様の頬に手を伸ばして、掌全体で肌の柔らかさを堪能するように撫でると首をくたりと傾げる。


「駄目ですか?」


 男性で、毎日徹夜をしているらしいにしては綺麗な肌を指の腹で撫でると、零れ落ちるほどに目を見開く父様、ふんわりと今まで一度も父様には見せたことのない笑みを浮かべる。


 顔をよせると周りの空気が動いたせいか、父様の髪から一拍おくれて花のような香りが立ち上り、少し驚く。男の人にしては珍しい匂い、と言っても少しの人数としか会ったことがないので比較しようがないのだが……。


「駄目、ですか?」


 これはこの間、授業中にエリクセルがぽろっと溢した言葉から拾ったものだ。曰く「可愛らしく笑っておねだりすれば何でも叶えてくれるんじゃねえの」を実行してみたのだが、反応が全くなかったので怒ったのだろうかと悩み、もう一度首を傾げて聞いてみると――かぁっと父様の頬が赤く染まって、驚いて手を離すと蜜色の髪をくしゃくしゃと掻き乱して、俯いて顔を隠してしまった。


 頭を抱えた父様にやっぱり怒ったのかと、余計なことを教えたエリクセルに非難のまなざしを向け――眉を顰める。


 なぜならエリクセルが肩を小刻みに震えさせ、机に突っ伏して大笑いしていたからだ。


「ぅ……ぁ、いい、よ」


 顔を赤くした父様が唇を噛みしめてエリクセルを睨みつけたが、そんなに怖くない。


「ありがとうこざいます」


 取りあえず許しをもらって踵を返し、扉の外に出るとともにこちらが手を伸ばす前にアルトレルの方から手を繋いできて驚きに目を見開く。


 いや、普通ならアルから触ってきたことに喜ぶところなのだが、こちらから見えるアルの顔は怒っているように見えなくもない。強引に引っ張られて困惑しながらついていくと自分の部屋に連れて行かれ、部屋に押し込められるように入れられる。


「アル……?」


 どうしたのと問いかけるが、感情がそぎ落とされた顔はいっそ冷たいほどで、強引な行動は少し苦しそう。


 こんなことは今までになく、どうしていいか迷っているうちにゆっくりと大きなクッションの上に押し倒され、床に膝をついたアルの手がそっと服の上から太腿を撫でて下りていった手にドレスから出た素足をやんわりと撫でられる。


 小さく震えるとアルトレルは少しだけ嬉しそうに喉を鳴らし、足首を一度円を描くようになぞると、なぞったその手で右足の靴を脱がせてレースのたっぷりと付いた靴下を取り去る。


 唇を湿らせるように舐めたのが酷く扇情的で、思わずじっと見入ると足が軽く持ち上げられて前髪が肌につくほど近くに顔が寄せられた。


「っ、ア……ル?」


 露わになった指先にちゅっと口づけられ、そのまま親指を躊躇いもなく咥えたアルトレルに驚愕したが、下手な反応をしたら傷つけるかもしれないと、ぴくりと跳ねそうになる身体を抑え込んで好きにさせる。それに反応を窺うようにこちらを上目づかいで見ていたアルトレルは何故か辛そうな顔をしてドレスの裾をまくり、足をさらに持ち上げると腿の内側にはむりと噛み付いた。


 甘噛みだったため痛いわけではないが、舌先でひらひらとくすぐるように舐められると背中がぞわぞわして思わず逃れるように足を引き、一瞬だけ強い力で掴まれて眉を寄せる。


「いたっ……ぁ」


 声を漏らすと足を掴んでいた手から力が抜けて、アルトレルの目が泣き出しそうに揺らいだ。


 謝るように何度も足の甲に頭を擦りつけられ、痛々しくてもういいと言うように頭を押しのけると拒絶されたとでも思ったのか、アルの手――私の足から離したそれに力がこもり、顔が苦痛を堪えるように歪んだ。


「……」


 何でこんな顔をするのかよく分からなかったが、アルが苦しそうにしている姿はフェルニアも好きじゃない。直前までのアルの行動を思い出してそっと足を差し出すと、縋るような目が向けられて、ちょんっと軽く指先でアルの唇をつつく。


 すぐには口の中に含まず、いいのかというように目で聞いてくるアルは愛らしい。目の前でゆらゆらと揺らしてみるとアルトレルの視線もつられて左右に動く。


 ……可愛い。


「ん……」


そっと口の中に押し込むように動かすと、戸惑いがちだった顔が蕩け、フェルニアが自分で動かしていた足を両手で包み込むと。入口のあたりで止まっていた指をはぐはぐと食べ始める。目を伏せてくちゅくちゅと奥歯で噛まれて、爪の間を熱心に舐められ、そんなに欲しいならいっそ切ってあげようかとも思ったが、痛いのはいやだと断念し、はぁっと一旦咥えた指を出したアルトレルの赤い唇をぬるりと指の腹で撫でてみた。


 唾液でぬるついたそれは思いのほか滑りが良く、唇から離すと銀色の糸を引いて少し楽しい。戯れるように薄く開いた唇を軽く叩き、歯列を爪で傷つけないように慎重になぞる。


 少しの間そんなことをしていると踵の部分を持ち上げられ、土踏まずのところを舌で優しく舐められた後、ちゅぅぅと音を立てて強く吸われた。


「っぁ……んっ、く」


くすぐったいのとぞわぞわしたのが合わさって、軽く足が跳ねる。


それがわかったのか、それとも押し殺した声が耳に届いたのかアルトレルが顔を上げ、とろんとしていた顔が苦しげなそれにかわると、小刻みにふるえていた足をとられて甲に柔らかく口づけられる。


「……あなたのためなら何でもできる」


 だから、他のものを側に置かないでほしい。


 唇が甘い言葉を紡ぎ出し、何かを乞うような声音、伏せられた目は憂いを帯びていて、押し付けられた唇からは赤い舌がちろりと覗いた。




 甘い部分を削ろうと書き直したら増えた。……何故?


 それから前書きにも書きましたが、遅くなって本当に申し訳ないです。内容も大幅に変えるつもりだったのに、変えた奴と見比べるとこっちの方がいいのではないかと、結局元に戻ってしまいました。(多分、これは21日のを見た方でないと分かりません)


 次回はフェルニア視点で新しい人? が出てきます。


追記→10月18日

次の更新は10月24日の朝7時と夜11時の二回になります。

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