厭わしいもの
『行くところ』と『永遠に』の間に一つ、『傷ついたもの』を割り込み投稿しますので、そちらを先に見た方がいいです。
手を動かすとシャラリと涼しげな音が鳴り、フェルニアは音を響かせるそれをゆっくりと手でなぞって口づけた。
銀色の輪に小粒のルビーとアクアマリンがあしらわれたそれは美しく、フェルニアはそういえばゲームの中でもこんなものがあったなと首を傾げた。
このゲームのエンドは大きく分けると5つでハッピーエンドにバッドエンド、ノーマルエンドと逆ハーレムエンド、略奪エンド、これに分かれている。その中でも逆ハーレムエンドでは必ずしも全員を要員にしないといけないわけではなく、父様が出てくるためには全員じゃないといけないが、たとえ攻略したのが二人でも逆ハーレムという位置づけになるのだ。人気だったのはレオンと父様の組み合わせ……いやこれは必要ない。
ともかくエンドはこれだけでも、途中で相手がヤンデレになるかならないかのイベントがあるので正確には10こと言ってもいい。
その他にもたくさんの選択肢が出るので細かく分けるともっといくはずだ。
ちなみに逆ハーレムをした場合は全員をヤンデレか普通に統一しないと、ヤンデレに普通の人が殺されてヤンデレだけが残るか、普通の人にヤンデレが追い出されて普通の人だけが最後には残る……となる。
ちなみにこのゲーム……攻略対象だけではなく、ライバルキャラ、果てにはサポート役まで選択肢次第ではヤンデレになってしまうとういうある意味怖いゲームだ。ちなみにサポート役がヤンデレになった場合は爽やかだった容姿が思わず別人だろと突っ込みたくなるくらい根暗な格好になる。そして私は本当の姿は――オタク、もしくは腐女子だとお茶会で皆の前でカミングアウトするのだ。
変わらない場合は趣味を隠してサポートしてくれて、変わった場合はつまり好感度が最上値ということで、勿論友人としてだがライバルキャラや攻略キャラの過度なスキンシップから守ってくれて、こうなるとライバルキャラの悪事がばれて没落するときは結構エグくなる。つまり中身が黒いと言うことだ。
ライバルキャラもライバルキャラで、このゲームには4人いるのだが、攻略対象一人を攻略するには色々なつながりでライバル二人を相手にしなくてはいけなくなる。しかも主人公が攻略できないとなると相手はライバルの方へと去って行ってしまい、これが略奪エンドだ。
略奪エンドはステータスが足りていても好感度が少ない時に起き、バッドエンドは好感度が多くてもステータスが足りない時に起きる。もしくは略奪の方では長期間放っておいたり、逆ハーレムの場合、全員好感度が同じじゃないと少ない人から順に奪われていく。
つまり逆ハーレムがこんなにも難しいのはこのライバルキャラ達をその場合全員相手にしなければいけないからだ。
必ず途中で誰か一人は一回とられる。
この場合、取り返すことは不可能なのでぶち切りしてロード。
話が逸れたが、取りあえず同じハッピーエンドでも相手がヤンデレかそうでないかによって大きく変わるのだ。
例えばレオンの通常のハッピーエンドではレオンが家督を継いでヒロインと結婚、ヤンデレの場合は結婚した後監禁されて、普通のハッピーエンドは結婚初夜で終わるが、ヤンデレハッピーエンドでは結婚した後も少し続き、通常よりもかなり甘くなる。
それからヒロインは庶民でも下級貴族でもなく、小国の王女だ。
国といってもとても小さく、吹けば飛ぶような弱小王国で主人公は援助を得るための贄としてこの国に贈られた。最初は国王の愛妾候補だったらしいが、そんな国守っても利益にも何にもならないと言うことで一時保留、そのまま放置され人質と言うことで王宮内で肩身の狭い思いをし、つらい日々に耐えながらもまっすぐとした芯を持ち凛と輝く彼女に攻略対象たちは次々と惚れていくと言うストーリー。
ハッピーエンドでは大体、結婚して祖国もヒロインも幸せ。
バッドエンドでは攻略対象が死ぬか、ヒロインが死ぬか、もしくは攻略対象が地位を放棄して留学するか、そしてヒロインが生きていた場合は国王の愛妾となる。
ヤンデレ版・バッドエンドでは祖国が滅ぼされ、結婚もすることなく、監禁もどき、殺害が半々。もしくは記憶に残ってほしいと攻略対象が目の前で自害、などなど。
ノーマルエンドではみんなと友人、祖国への援助の約束をとりつけ、主人公は国に帰る。
逆ハーレムエンドでは誰とも結婚せずに、皆と関係を持って、国は守られるが、ヒロインは世紀の悪女と言われる。失敗して近くに誰もいなくなったら略奪エンド、逆ハーレムをする時は途中で誰か一人を選ぶか全員を選ぶかの選択肢が出るので、一人だけ残ったとしても失敗。
略奪エンドではヒロインは国への援助を断られて国に帰り、どこかの国の3回りも年が離れ、しかも加虐趣味の男性と結婚させられる。
どれも相手がヤンデレだと話が少し伸び、甘くなる。
そして、これまでの流れで分かったかもしれないが、このゲームは前世で18禁に指定されていた。つまり中身がかなり過激でハード、流血模写も結構ある、お子様は立ち入り禁止のゲームである。
これでフェルニアがしなきゃいけないことはヒロインのエンディングをヤンデレでも普通でもいいから、必ずハッピーエンドにすること、終わらせるだけなら簡単だが、これは難しい。
なぜならこのゲームは攻略条件が難しいし、バットエンドが多すぎる。正直ヒロインを殺すか監禁するために生まれてきたようなゲームだ。
そのバッドエンドやヤンデレハッピーエンドではこれ――今フェルニアが手に付けているものと同じようなものをヒロインはつけさせられる。
手枷――だ。
フェルニアがこれを付けているのは半分趣味、もう半分はアルトレルの精神安定を計るため、あの日以来、アルトレルは自分が眠っている間にフェルニアが勝手に消えて、危険な目に会ったことが余程堪えたのか、強く抱きしめてもらえるのは嬉しいが、眠らなくなった。
前は昼に寝ていたからよかったものの、今は昼にも寝ずに起きている。
試しに特注した手枷を嵌めてみて、鍵をアルトレルに渡すと安心したように眠り――鍵は手から決して離さないが、ちゃんと眠れるようになった。
フェルニアもアルトレルから離れたいわけではないのでそのまま定着し、今に至る。
冷たい鉄の鎖でも、そういう背景があると愛おしく思えてくる。が、今ここにアルトレルはいない。
鎖をつけて数日してからアルトレルは頻繁にフェルニアと離れるようになった。
今までは入浴の時以外離れることがなかったのに、自分がいない時でも私がここから離れることがないと分かったからなのか、最近は寝食と後はお茶の時間ぐらいしか近くにいない。唯一の誤算と言えばこれだろう。
溜息を吐いてテーブルの上に置いてあったチョコレートココアをこくりと飲み干す。
ちらりと窓の外に目をやると、誰かがこちらを見ているのに気付いた。
茶色い髪――どこかで見たような顔だが、思い出せない。
どうでも良いかと思い、それから視線を外して、隅の暗い方に目を向けると手枷を嵌めた自分の姿がくっきりと映って、視界が二重にぶれた。
ぐらぐらと頭が揺れ、手を強く握りしめるとともに目を閉じた。
フェルニアの前世の記憶は曖昧で、それでも時たま強く自分の中で荒れ狂う時がある。
うらぎ、られた。
誰とはわからない。
ただいつも一人だった自分とは違い、皆の中心にいるような人だった。
閉じた瞼にちらつくのは白い部屋、歪んだ笑顔に身体に加わる容赦ない力、絶え間なく続く苦痛と揺れる視界、身体を這う手、首にかかった手に力がこもって――。
『誰よりも何よりも愛している。なのになんで――』
『……が――ない、せか―――……みは、な――……』
遠くなってゆく意識に語りかけたのは誰か――左目がずきりと痛んでそのまま壁に拳を叩きつけた。
窓に映る自分の顔。
前世と同じ容姿――今までは何とも思わなかったそれが酷く厭わしく見えた。
次の投稿は8月30日、視点はフェルニア付きの元メイドで、一般人から見たフェルニア達を書きたいと思います。
エリクセル視点も入れます。




