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妖精は薔薇の褥で踊る  作者: うさぎのたまご
一章 妖精が踏みしだくは薔薇の花
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氷の刃

 今回の話は視点が3人に分かれています。


 最初は世界を作った少年ですね。


 次はフェルニア


 最後はまだ特には紹介されませんが、攻略対象のエリクセルです。

 年齢は不詳、レオノールが信用している数少ない人物の一人で、あることの協力者でもあります。



「我は酷いことをしたのだろうか?」


 暗闇の中で彼は瞼を固く閉じた。

 彼女のことは本当に、幼い頃から、ずっと前から見てきた。


 どうしようもなくその孤独に惹かれ、その愛し方に焦がれた。


 彼女は何度も転生を繰り返し、何百という中で彼女が寿命をまっとうしたことは一回もない。あの世界の創造主は一度として彼女に愛を与えなかった。


 与えたのは美しさだけ……。


 彼女に伝えたことは半分嘘で半分本当、自分は彼女を自分の元へ呼ぶためにわざわざ何十年もかけてこの舞台を用意したし、彼女は失敗しても奈落の底には行かない。自分の元に来るのだ。


 そのためならあと十年かそこらくらい待てる。


 初めて彼女の声を直で聞いたが、想像よりも透き通って綺麗だった。

 そんなことを思い。彼はクスクスと笑いながら未来の映った水盤を覗き込む。


 あちらの世界から奪ってきた彼の愛し子、

 彼女はどんな選択をするのだろうか?

 ゆっくりと水盤を掻き混ぜる。


そこに映っていたのは、桜色の髪の少女と黒い髪の青年がお互いを強く抱きしめあっている光景だった。そして遠くには彼女の姿。

 くすくすと笑みが漏れる。

 ――ひたすら自分の手の上で踊って踊って、そしてやっと堕ちて手に入るはずの彼女。

 その時彼女はどんな顔をしているのか――考えるだけでも楽しくてしょうがない。


 なんの音もしない、彼以外誰もいない空間にはいつまでも空虚な笑い声が響いていた。



**************************



「ん……」


 寒い。 


フェルニアはいつも腕の中にあるものを探して手を動かした。

しかし見つからずに眉を顰める。


「アル……?」


 夢うつつで名前を呼んでから、もう一度手を伸ばすとふと影が差して薄らと目を開ける。


 唇に何か温かいものが触れ、アルトレルかとふわりと笑うが、目に入ったのは見慣れた漆黒の髪じゃなく光に透けた赤色の髪、


 そうだ。最後に見たアルは首に剣を押し当てていて……。

 これは、アルじゃない。


 認識すると同時にフェルニアは力いっぱい相手を突き飛ばした。

 部屋に轟音が響き渡る。


**************************


 目に映るのは天使や小鳥、雲や空を描いた天上、水色と淡いピンクで纏められた部屋は年頃の少女に相応しく、調度も白を基調にしていてとても美しい。


 強かに打ち付けた背中は、今は床にありえないほど敷き詰められたクッションに受け止められている。


そう、少女に先ほど突き飛ばされた自分は部屋に綺麗な放物線をかいて飛び、壁に打ち付けられてクッションの上に落下した。


 ……最初に弁解して開くと、別に自分――エリクセルは少女の寝込みを襲おうとしたわけではない。いや、今も別に寝込みを襲ったわけでは決してないと言いたいのだが、この状況でその言い訳が通じるかどうか……。


 さっきまで眠っていたはずなのに、信じられない力で自分を壁へと叩きつけたその少女は友人の娘で、自分を突き飛ばすと同時にすごい勢いで部屋から走って出て行ってしまった。どうしてあんなことをしたのか自分でもよく分からない。


 エリクセルの年齢は二十一ということになっていて、本来はもっと高く、今まで数百年生きてきたが一度も幼女に走ったことはない。せめて十六からと自分なりの決まりも持っていた。しかしあの少女はそういう次元を超えた可愛らしさだったのだ。


 何かを求めるように伸ばされた手と、探したものが見つからなくて迷子になったような顔、その声すらも愛らしくて、名前を呼ばれた人物、先ほどあった少年が羨ましくて――気付けば口づけていた。


 傷を負って手入れに限界があったのか、貴族の令嬢らしかぬ少し荒れた唇はそれでもしっとりと暖かく、何よりもその後に浮かべた笑顔に息を呑んだ。


 それに気を取られて、国一番の魔術師と謳われる自分が防御も間に合わず壁際に叩きつけられた。たとえ子供でも嫌がられたのは間違いない。


 そこまで嫌だったのかと床に倒れ込んだままぼぅっとし、ドアがキィと不気味な音を立てて開いたので身体を起こす。


 おかしい。この部屋の気温はそんなに低くなかったはず。


 そして自分は今、機嫌次第でどこまでも気温を下げることのできるという特技を持っている友人の屋敷に滞在している。


「れ、レオノール?」


 エリクセルの言葉にどこまでも青年――レオノールは柔らかく微笑んだ。


 嘘か真か昔この笑顔を見たものは一瞬で凍り付いてしまい。その後ろに見える猛吹雪の幻覚のせいか、いつしか友人には氷の魔王という二つ名がつけられているという。


「やぁ、エリク。僕の娘に何をしたのか教えてもらってもいいかな」


 優しい声の裏に異様な冷たさを感じるのは気のせいではないのだろう。首筋に冷たい氷の刃が押し当てられているのも幻覚ではないはず。


 レオノールが長女を溺愛しているのは周知の事実だ。


「……」


 エリクセルは黙って手を上げた。




 


 今日は2話投稿したので、次の投稿は明後日になります。

 視点はフェルニアです。



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