前世の記憶
もしかしたらこれは後日大幅に改稿するかも知れません。
物心ついた時にはもう既に傍に両親はいなかった。
誰もいない家でゆっくりと心だけが死んでいくのが分かった。
食事を出されなかったわけではない。
暴力を振るわれたわけでもない。
ただ、『私』を見てもらえなかっただけ、抱きしめてもらえなかっただけ、
外に出れば、親しく、私を愛してくれる人がいると思った。
でも、そんなことは起きなくて――
泣いて喚いて『私』は全てを受け入れた。
ただ誰の目にも映らず、温もりを求めることもなく
それは、今考えると気が狂いそうな毎日だった。
でもずっと、心の奥では望んでいたのだろう。
愛されることを、溢れるくらいに溺れるほどに……。
そんな私の最後はよく覚えていない。
誰かに愛された気もするし、最後まで一人だった気もする。
よみがえるのは『私』の名前を呼ぶ声と、泣きそうな彼の顔。
馬鹿な人、触らないでほしい。
自分で殺したくせに。
あぁ、そうだ。
前世で『私』は愛された。
それはもう狂うほどに、少しも嬉しくなかった。
だって『私』は彼のことを全く愛していなかったのだから――
前世で『私』は殺された。
彼だけしかいない部屋に監禁された気もするし、誰もいなかったような気もする。
これが覚えている『私』の全て。
これ以上でも以下でもない。
『私』の全て――。
ぱちりと瞼が開く。
ここは、どこだろう。
床に銀色の液体が溜まった真っ黒な空間でフェルニアは立ち上がった。
気付けば頬が濡れていて、乱暴に擦って拭う。
多分、自分は死んだのだろう。
あれからあそこから誰も出られないように結界を張って、あれは私の意識がある限り持つもの、漏れ出る魔力をかき集め必死で作った。
魔力がなかったため、狭い範囲にしか作れずに、また自分がそこから出てもいけない。
だせ、と幾つもの声が聞こえる。もう動く力も残ってなかった。
振り下ろされる拳も、投げつけられる言葉も、ただ見ていることしかできなかった。
アル、は逃げられただろうか?
誰にも、何もされていないだろうか?
私がいなくなって――少しは悲しんでくれただろうか?
『アル……』
誰もいない空間に自分の声が溶ける。
唐突に後ろで声が上がった。
『戻りたいのか? 我はおまえの生まれてすぐからずっと願っていたことをかなえてやったのに……嬉しくないのか?』
私がずっと望んでいたこと――心がなくなってしまえばいい。
感情など、消えればいい。
どうして彼がそれを知っているのか……フェルニアは小さく首を傾げ、相手を見た。
『そうだね。でも……なんで知っているの?』
大きな目に白い肌。薄い水色の髪に銀色の目、その姿は十六かそこらの少年に見える。なのに、声は威厳を持ち、視線は長く生きているもの特有の達観を含んでいた。
『そなたのことなら何でも知っている』
なんでも……。見ていると言われて素直に喜べないのは前世の記憶の中にストーカーと言う言葉があったから。
『違う』
顔に薄らと赤みがさす。声には出していないのだがそういう仕組みなのだろうか?
まぁいい。聞きたいことがあるのだ。
『どうでも良いよ。それよりもさっき、戻りたいのかってきいたよね。戻れるの?』
前世の記憶? そんなものどうでも良い。
過去は過去で今じゃなく。自分もまた、××ではなくフェルニアだ。
『戻りたいのか?』
不思議そうな声、当たり前だ。
少し前だったら喜んだかもしれないが、今は嫌だ。
まだ、やりたいことがある。
会いたい人がいる。
触れたい人が、もう一度、声を聴きたい。
こくん、と頷く。
『――……がそんなに好きか?』
また頷く。
『たとえ……あやつがそなたのことを好きにならなくてもか?』
その言葉は不思議なほどこの空間に反響する。
フェルニアの心に響く。
『……別にいいよ』
一拍後に答え、にっこりと笑う。
その顔が泣きそうに歪んでいたことに、フェルニアは自分で気付けない。
ただ、目の前の少年の顔が苦しそうになり、どうしてだろうと思っただけだ。
作中で少年が出てきますが、これはこの世界を作った人とでも考えてください。名前が出てこないのはフェルニアが興味がなかったたから、
それからすこしこれからの話のネタバレになりますが、フェルニアは前世である人に監禁されて殺されています。
彼はフェルニアのことが本当に好きだったんです。
フェルニアのことを世界が違っても追いかけてくるほどに……
次の投稿は明日の夜8時です。




