一緒にいた時間
レオノール、忘れた人は……いないと思いたいですが、一応簡単な紹介をします。
フェルニアの父でブラットベリー公爵
フェルニアのことを溺愛してます。
『父様! 姉様が……‼』
いつも通り書類の片づけをしているときに聞こえた悲鳴、レオンから話を聞いたレオノールは椅子を蹴って立ち上がった。
冷たい雨が降る中、レオンの後を走って付いていく、胸の中に渦巻くのは後悔と怒りだ。
なんで自分はもっと早くあの女と離婚しなかったのだろう。
なんでもっと早くに殺さなかったのだろう。
そしたら――こんなことにはならないはずだった。
アルトレルに血を与えなかったこと、もう少し早めにすればよかった。
全部、全部、自分のせいだ――。
でも、アルトレルと一緒に居ればフェルニアは傷つかない、彼はその命に代えても守ってくれると信じていた。
雨の中――フェルニアを抱きしめて自害しようとしたアルを見るまでは……。
外に、出た時は守ると言ったのに……。
自分のことを差し置いて、怒って詰ることも出来た。
非難して、手を上げることも出来た。
今のアルトレルだったらどんなことでも甘んじて受けるだろう。
でも、両手を真っ赤に染めて、瓦礫の中からフェルニアを見つけ出した彼を誰が責められるだろう。泣いて抱きしめて、自分の命を絶とうとした彼を誰が非難できるだろう。
フェルニアが生きていると分かり、寝台に抱いて運ぶなり気を失ったアルトレルを誰が詰れると――自分は何もできなかったのに……。
レオノールにできたのは傷ついたフェルニアの体を癒すことだけ、
危機も脱していないのに、事後処理と仕事、準備のためにアルトレルのようにその手を握ることさえできなかった。
すべてはフェルニアのため――彼女の怪我さえも利用して自分の味方はまた増えた。全てはフェルニアの為に、もう誰もフェルニアを無下に扱うことも出来なければ、たやすく傷つけることも出来ない。
でも、時たま思う。自分がやっていることは本当にフェルニアのためになるのだろうか? と、彼女の父親でなく赤の他人を見るような目……守りたくて閉じ込めたのに、毎日死んだような目をする彼女を見るのが辛かった。
今思うと、彼女に必要だったのは贅沢な暮らしではなく温もりだったのだろう。見えない所から力のある手で守ることではなく、非力でもいいから傍についていることが大事だったのだろう。
全てはもう遅い。
自分はこれでいいのだ。
傍にはアルトレルが付いてやればいい。
寝台に寝たフェルニアの姿を見る。
あれから一週間、ずっと寝たきりなのだ。
アルトレルは逆に気を失って起きてからずっとフェルニアから離れない。
まるで――少しでも離れたら彼女が消えてしまうと言うように……
血も飲まない。飲んでも吐いてしまう。
食事もとらない。彼はこのままで生きていけるのだろうか?
ここ数日、見るもの全てが痛々しいと評する程に彼は憔悴していた。
フェルニアを見つめる目はフェルニアを映しておらず、
フェルニアの手を握るそれは、手首が一回り細くなった。
顔も幽鬼のように青白く。
嫌がるアルトレルを押さえつけて地下へ連れて行く。
このままじゃフェルニアの目が覚める前にアルが死んでしまう。
それはこの子も望んでいないだろうから……あの時から色の変わってしまい、汗で張り付いた髪の毛を退けると、小さな手に握りしめられてどきりとした。
しかしすぐに求めたものじゃなかったように離され、乾いた笑みが浮かぶ。
会った日も一緒にいた時間も遥かに自分の方が長い。
なのに、なぜフェルニアの中でこんなに自分たちは違うのだろう。
答えは分かっている。だけど……自分が一体どこで間違えたのか、レオノールは痛みを堪えるように胸を抑えた。
「フェルニア、君が僕のことを嫌いでも……それでも僕は君のことが好きだよ」
生まれて初めて彼女の前でその名を呼ぶ。
緊張で掠れた声はまるで自分のものではないように聞こえた。
次の投稿は明日の夜7時30分です。
フェルニアに前世の記憶が戻ります。
それから作中に色の変わった~とありますがそれはそのままの意味です。
フェルニアは髪と目の色が変わりました。




