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妖精は薔薇の褥で踊る  作者: うさぎのたまご
一章 妖精が踏みしだくは薔薇の花
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魔石の洞窟2


「か、はっ」


 フェルニアは吐血し、口の中が鉄臭くなるのを感じて目を瞬いた。倒れそうになる体に力を込めて耐え、そのまま後ろにいた魔術師を洞窟の壁に叩きつけ、胸に刺さっていた剣を抜く。それなりに重量もあって幅も広かったため、抜くのには苦労したし新たな鮮血が溢れ出たが、そんなことは気にならず、緩慢な動作で一同を振り返った。


 その目に映るのは驚愕、戸惑い、畏怖、当たり前だ。


 胸を貫かれたら普通の人間は生きていない。


 生きていたとしても立つことは無理だ。


(助け、なきゃ)


 あそこにいては駄目だ。アルトレルの方へ一歩踏み出すと、アルトレルも引き寄せられたかのようにふらりとこちらに来る。


「来るな‼」


 突如洞窟に悲鳴が響き渡り、フェルニアは走ろうとしたが、胸から新たな血が流れてきて貧血の為か一瞬目の前が暗くなった。


「来るな! もしも来たらこいつを殺す‼」


 気付けばアルトレルが目の前の魔術師にとらわれていて、その手には何か光るものが握られている。


 あれは……爆発系、もしくは体を貫通させるほどの威力を持つもので、普段のアルなら多分くらっても一瞬で治っただろうが、今のアルトレルの状態は非常に悪い。


 不死身のはずの吸血鬼が死ぬ方法は三つ、一つは同じ吸血鬼につけられた傷は簡単には治らないので、心臓を突かれたりしたら一巻の終りだ。二つ目は頭と体を切り離すことで、基本吸血鬼は手や足を切り取られても生えてきたりはしない。よって死亡。最後の三つめは血の枯渇だ。長時間血を摂取しないと傷の治りが遅くなり、魔力も無くなる。つまりは普通の人間と何ら変わりなくなり、最後は栄養失調になり死に至るのだ。


 アルトレルのこの状態からしてここ7~9日は飲んでいないだろう。


 高位吸血鬼になればなるほど飢えは激しく、普通ならもう立てなるはずがない。

 傷の治りも普通と変わらないし、きっと今なら彼ら程度の魔力で傷つけられる。


 そんなのは――駄目だ。


 ピシリ、どこからか何かにひびが入る音が聞こえた。


 普通なら聞こえるはずがない音だが、刺されて極限状態にあるせいか大きく聞こえる。


 そういえばここは、へパイトスの魔石がある洞窟だったな。へパイトスの魔石の特徴は魔力と共鳴してその力を増幅させること、だから採掘するときに魔力は使えないのだ。ちょっと石を掘り出すくらいの力でも壁が抉れる。

そしてその時に出た魔力が共鳴して壁は砕け、それも共鳴して――洞窟は崩れる。


 たらり、と背中に冷や汗が流れた。


「剣を置いて手を上げろ!」


 冷静さを欠いた声を聴きながら思う。

 たとえ世界が変わっても人質を取った犯人が言うセリフは変わらないらしい。と


 あれ、今、自分は、何て思った?

 頭が痛い。


 剣をおいたら彼らは自分をどうする気なのだろう。

 アルトレルだけでも逃がしてはくれないだろうか?


「アル、動いちゃ駄目だよ」


 動いたら殺されるにも拘らずアルトレルが魔術師の腕の中で身じろぎしたので止める。多分自力で出ようと思ったのだろうが、立っているのがやっとのアルじゃどうしても無理。首を振っているのは助けなくてもいいと言いたいのだろうか?


 私がアルを見捨てられると――本当に、思ったのか。


「貴方たちッ、なんで刺したの!」

「ちがいます。ただ眠らせるだけのはずなのにどうしてこんなことになったのか……」


 あの女と言い訳する魔術師の声が聞こえる。

 眠らせて、捕らえて、どうする気だったのだろうか?


 私の目の前でアルを拷問にでもかける気だろうか、アルの目の前で私を殺してアルを手に入れようと思ったのだろうか、あの女が考えそうなこと――

 絶対に駄目だ。


 今この場で自分とアルが助かる方法、

 自分と、アル。


 思いつかなくて焦る。

 アル。


 もう一度どこからかヒビの入る音が聞こえて、フェルニアは安堵の息を漏らした。


 あぁ、なんだ。あったじゃないか、アルが助かる方法。


 カランッ、と剣の落ちる音がやけに大きく響いた。




 次の投稿は明日の午後8時になります。少し甘めです。

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