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妖精は薔薇の褥で踊る  作者: うさぎのたまご
一章 妖精が踏みしだくは薔薇の花
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魔石の洞窟

「あなたは……?」


横から幼いが大人びた声が聞こえてフェル二アは一瞬誰だろうと思った。しかしこの場には自分とレオンしかいないから、自分でない限りはレオンだ。


「……あなたの、腹違いの姉、かな?」


 思ったよりも綺麗な声だ。澄んでいても深く響き、聞いているものを酔わせるようなアルトレルとは違う声、繊細な硝子細工のようで高く、子供らしい。


先ほどのしゃがれた声とは大違いだった。


 そんな彼にフェルニアはどうこたえようかと迷って、結局名前を教えずに自分と彼とのつながりを示した。


「え……」


 丸く開いた眼は零れ落ちそう。何をそんなに驚くのだろう?


「聞いたこと……ないです」

「そうだね。私も知らなかった」


 今日までは……、名前も年齢も初めて知った。


「私はずっと南の部屋に居たから」

「南の部屋……」


 俯いて何かを考えているレオン

 何だろう。もやもやする。


レオンのこの口調のせいだろうか、フェルニアはさっきからずっと誰かが頭の中で叫んでいる気がする。


「雨が止んだら帰るね」


 雨が降って来たので、壁を張ろうとしたフェルニアに彼は言ったのだ。


『まだ戻りたくないです。雨が降るまででいいから僕の我儘に付き合ってください』

『……いいよ』


 不安そうな顔、気付けば頷きを返していた。


 アルの所に戻ったら、父様に会ってあの人のことを話す。レオンは跡取りだからきっと父様は何とかするはずだ。


「はい!」


 従順に頷くレオン、やはり違和感が付きまとう。

 フェルニアは濡れた髪を軽く振った。


 それにしてもこの洞窟、雨宿りに選んだ洞窟だが、奥の方に魔力がいっぱい溜まっているのを感じる。ジャリ、足を前に出して奥の方に足を進めた。


「あ、どこに行くんですか?」


 動いた瞬間声をかけてきたと言うことはずっと見ていたのだろうか。


「奥」


 それに簡潔に答えてもう一歩踏み出した。


「そっちは危険です。この洞窟はヘパイトスの魔石が取れるところだから、取り過ぎて地盤が緩んでいるんですよ」


 無表情のまま止めるレオン、フェルニアはいかせまいと広げられた手を取った。


「レオンは物知りだね。でも、少し見るだけだから」


 いいでしょう、と首を傾げればレオンは躊躇うように頷いた。

 魔力で作った光を空中に浮かせると、足元を照らして慎重に進む。


「駄目」


 途中、レオンが光を触ろうとしたので鋭い声で静止した。レオンは大げさなほど体を大きく揺らしてこちらを振り返る。


「それ、駄目。火傷するよ」


 魔力を凝縮させた玉なので触ると火傷する。ましてやフェルニアの球は触ったら火傷どころか手が解けるくらい熱いので不注意じゃすまされないのだ。この球は近くに手を翳しても熱さを感じないので勘違いして火傷をする人が多い。


 そこからはぽつぽつと会話をしながら進み――


「綺麗……」


 赤い石が壁一面に埋まっているのを見てフェルニアは思わず感嘆の声を上げた。しかも一つ一つが淡く発光しているので、光の玉を出さなくても十分明るい。


「アルの目みたい」

「アル?」


 呟きは口から零れ落ち、隣でレオンが疑問の声を上げたが気にならない。

 そう、これは本当にそっくりだ。


 アルトレルの機嫌がいい時や気分が高揚した時、フェルニアを噛んだりするときはアルの目はこれと同じ色になる。


理性が溶けて混ざったような色。

 フェルニアが一番好きな色だ。


 うっとりと洞窟に埋まっていた赤い石を手でなぞった。表面はすべすべしていて気持ちがいい。これで、アルの人形を作ったらどうだろうか、この石を目の部分に嵌めればきっと映えるに違いない。


 この石が嵌ったアルトレルの人形を想像してフェルニアは唇の端を吊り上げた。


 その途端近くで息をのむ音が聞こえ、くてんと首を傾げる。


「どうかした? レオン」


 人形を想像するのを邪魔されて少し不機嫌だったが、これくらいならば許せるくらいにはレオンのことを気に入ったので、表には出さない。


「いえ、なに、を考えていたのかと……」


 レオンの声が途切れる。フェルニアは洞窟の向こうから数人が来るのを感じて顔を上げた。

 蝶を放っていたので多分エヴィータだろう。


「時間、終わったね」


 レオンは彼女の元へ戻る。


 フェルニアは帰ったらすぐ父に言ってレオンと彼女を引き離すように言わないと、と改めて意志を固めた。なぜならフェルニアの言葉にレオンは肩を震わせたから、戻りたいのだったら好きにすればいいと思ったが、怖がっているのならば見過ごせない。


 そう思い。振り返ってフェルニアは固まった。


「……アル?」


 顔が異常なほど白いアルトレルがそこにいた。後ろにはエヴィータと魔術師たちもいる。


「アル‼」


 心の中で歓喜した時、微かに警戒が緩んだ。

 これがいけなかったのだ。


 後ろに魔力の気配を感じ、咄嗟に身をよじらせたが遅い。

続いて心臓の近くで激痛が走った。


 何が起こったかよく分からないが、現実から遠ざかったように全てが遅く見える。


「まだ刺してはいけないって言ったじゃない!」

「母、様? あなたは何を……」


 金切り声やレオンの絶望した声が聞こえるがそんなことどうでも良い。


 呆然としたアルトレルの視線を辿ると口元に自嘲の笑みが滲んだ。


 あぁ、自分は何をやっているのだろう。エヴィータの様子がおかしいことには気づいていたはずなのに……。


 フェルニアが着ている赤く染まったドレス、丁度胸の真ん中あたりから洞窟の僅かな明かりでも鈍く、凶悪に光る白刃が突き出ていた。


 ――細い体がゆっくりと傾ぐ。





 今日は2話投稿したので、次に投稿するのは明後日になります。

 午後6時30分予定。

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