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妖精は薔薇の褥で踊る  作者: うさぎのたまご
一章 妖精が踏みしだくは薔薇の花
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白い輝き




 藍色の髪に金と紫の目、返り血を浴びて真っ赤に染まっているが、その姿は紛れもなくあの日庭園で見た妖精だった。


 あんなに幸せそうだった彼女がなんで血まみれになっているのだろう?

 汚いことなど知らないような無垢な顔をしていたのになぜこんなところに来たのだろう。


 なぜ、自分にそんなことを言うのだろう?


 手を伸ばそうとしたが、ずきりと痛んで動かすのを諦めた。

 そうだ。折れているのだった。


 あれからレオンは男たちに暴行を加えられ、足も手もヒビが入り折れているし、顔もきっと腫れている。急に今の自分の状態が恥ずかしくなった。


「ちが……っぅ」


 何が違うのかもわからない。

 カラカラに乾いた喉から声を絞り出すが、肺が激しく痛んで胸を抑えた。


「大丈夫だよ。無理しないで」


 頬に手が添えられ、暖かい光に包まれる。


 レオンは白い輝きの中で瞬いた。


 なぜ自分があの時死にたいと思ったのか、本当にわからない。


 こんなにも世界は美しかったのに。


**************************


 苦しそうに胸を抑えたレオンの顔をフェルニアは手で触った。


 傷が沢山ついて、腫れた頬。


 腕も足も折れていてこれでは歩くのに支障をきたすだろう。そしたらアルのところへ戻るのが遅くなる。


 そして、何よりも可哀想で痛々しかった。傷がなかったら美しいであろうことが十分に分かる顔に浮かぶ笑み、痛くないはずはない。怖くないはずがない。


 だってこんなにも小さいのだから……。

 

 腕に白い光を集中させて癒しの力を込める。

 白く発光する粒子がレオンの身体に纏わりついて消えた。

 

「もう、いいよ。笑わなくて」


 少年の腕に残った無数の傷跡を見てフェルニアは言った。治癒魔法では古傷までは直せないのだ。これはここ数日で付いたものではない。だったらあの人が付けたのだろう。暗く淀み、人を妬んで呪うような目をした女だ。我が子を傷つけても不思議ではない。


 それでも普通、子は親を求めるものだ。


 笑うのはこれ以上殴られないように、好きになってもらえるように――何故か痛いほどレオンの気持ちが分かった。頭がぐらぐら揺れて吐き気がする。


 血の匂いのせいだろうか?


「ここから出よう」


 驚かないようにゆっくり手を繋ぎ、立たせる。


 外に出ると死体と血は綺麗に土に埋まっていた。まだ微かに死臭がするがそこはしょうがない。彼らが土にかえるときに覆い隠すように命じた。


 最後の土人形がフェルニアの前で崩れる。


 ひび割れた唇が紡ごうとしていたのは何だったのか?


 馬鹿馬鹿しい。


 魔法で作ったのだから、心なんてない。


 壊されたって痛くはないのだ。


 今のは目の錯覚。




次はすぐに投稿します。

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