ある女性が言った
ある女性が言った。
『これは呪われた子よ』と
赤子はそれをまどろむ意識の中で聞いていた。
乳母はそれに赤子を取り落とし、
賢者は祈るように目を閉じた。
床に落ちた赤子はそれでも泣き声一つ上げない。
これがこの世界に来て初めて聞いた声
そしてこの先、一生聞くことのなかった声でもあった。
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鏡に映るのは腰までのばした藍色の髪に金と紫のオッドアイの目を持つ少女、顔立ちは妖精も恥じ入るほど美しいのに雰囲気は暗く沈んでいる。
その姿を見て、私、フェルニア•ブラッド
ベリーは小さく溜息を吐いた。
『母様はなぜ会いに来てくれないの?』
以前父に聞いたことがある。父は困った顔をして無理やり微笑んだような顔を形作った。
『母様は体が弱い人なんだ。だから無理をさせてはいけない』
冷たい目、冷たい口調、暖かい笑顔には騙されない。
嘘だとすぐにわかった。当たり前だ。どこの世に体が弱いからという理由で一度も子供に会いにこない母親がいると言うのか、でも首を縦に振るしかなかった。
私は呪われた子らしい。らしい、というのはあまり覚えていないからだ。
私には珍しいことに赤ん坊の頃の記憶があった。だから生まれたばかりの記憶も多少は残っている。そこで、多分、母が言った。呪われた子とーー。
だから私は母に会えない。父は冷たい目で見る。友達もいない。侍女は私を恐れる。兄妹がいると聞いたが、会ったことがない。いるとしたら彼らも閉じこめられているのだろうか? 美しい朽ちることない檻にーー。
カチャリとドアが開く音がする。
「だあれ」
少し拙い感じになってしまったのはあまり喋らないから、誰だろうと思い、どうせ父様か家庭教師だろうと期待を打ち消した。
どうせここから出すつもりがないのなったら家庭教師なんていらないと思うが、他の誰でもない『父様』からの『お願い』だ。
振り返って大きく目を見開く。
そこにいたのは息が止まるほど美しい顔をした少年だった。