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一家の主、ゼノアール・デモニクスだ。

 連合国家ニブルヘルム第七都市バチスタ。

 

 その入り口である巨大な門の傍ら妻であるディーバ・デモニクスからの手紙の返事を書いていた。

 今日はロドリゲスさんに指名された事により、一緒に依頼を受ける事になった。彼は今ギルドで手続きをしているのでその間に俺は必要物資を二人分揃え、こうして彼を待っている。

 妻からの手紙の内容は最初は第七都市へ買い物に出ようと思っていたのだがレーエンに新しい服を買ってあげたくなったので第六都市に向かうことにした。だから今晩戻れる事になっても家には誰もいないので宿に泊るようにとのこと。あと、浮気はするな、女を近付けるなといった内容が書かれていた。


 思わず背筋が寒くなったが。その事の了承をいま、書いている。


「待たせたな小僧」


 丁度その時にやってき大柄な男。引き締まった筋肉、スキンヘッドとイカツイヒゲ、そしてそれらを引き立てる鋭い目付き。背中に鉄板と見間違う程の大剣を背負うかれは第七都市唯一のSランク冒険者、人呼んで魔人ロドリゲス。子供が対峙したら間違いなく泣く彼の言葉を受けて俺は立ち上がり頭を下げる。


「今日はよろしくお願いします」


「・・・嫁への手紙か?」


「はい。家内はなにかと心配性なもので」


 苦笑しながら書き終えた手紙を手に俺。それに逢わせて、空から舞い降りた一羽の鳥。


「ピー、ディーバに届けてくれ」


 手紙を受け取った鳥の魔獣、ピーは再び空へと舞い上がって姿を消した。


「そういや小僧は魔獣使い(テイマー)だったな」


 その光景を見たロドリゲスは小さく頷いて俺の背後に視線を向ける。


「そのクリムゾンウルフも小僧のか」


 視線の先には地に伏せて寝息を立てている全長四メートルはある赤銅色の毛並みを持つ一匹の狼。大陸の南にある火山帯に生息する魔だ。


「えぇ、娘お気に入りの一匹ですよ」


「そうか。んじゃ依頼の内容を説明するぞ」


 今回の依頼は第七都市から西に半日程移動した場所にある街の貴族らの依頼だ。なんでも近隣の森でキラーベアが多数目撃されたからこれを駆除して欲しいとのこと。キラーベアとは愛くるしい外見とは裏腹にもの凄く狂暴な魔物で集団で行動する習性を持っている。その森は貴重な薬草の群生地であり、近くの村はそれで生計を立てているのでキラーベアが居座っていると生活に支障が出るとか。報酬は出来高。つまり狩った分だけ報酬が上がるということだ。


「これはなかなか帰れそうにないな」


「なにかあんのか?」


「家内と娘が今日、第六都市に向かっているんですが。明日か明後日に合流しようと手紙を送ったんですよ」


「娘と二人だけで向かったのか?」


「家内はあれでも腕利きのAランクですから問題はないんですけど。参ったな、約束を破りそうだ」


 困ったように苦笑する俺を見てロドリゲスは移動用に借りてきた馬車に乗り込む。


「だったらこんな場所でぐだぐたしてねぇでさっさと行くぞ。さっさと済ませればそれで済むだけだ」


 それに、と彼は続ける。


「嫁ガキかに吐いた約束は死んでも嘘にすんじゃねえ。気張って行くぞ」


「・・・ハイ!」











「よく来てくれた。キラーベアの出没のせいで民が森に入れずにいるのだ。報酬は依頼の通りに狩った分だけ上乗せさせてもらうからよろしく頼む」

 

 目的地に日が少し傾いた頃に着いた俺達は依頼主である貴族の別荘に足を運んだ。彼はここの領主の長男。なかなかの好青年。冒険者の俺達にも当たりの良い対応をしてくれる。


「まさか“魔人”と名高いロドリゲス殿が来てくれるとは。これなら何も問題はないだろう。君もよろしく頼む」


「全力を尽くします」


「俺達はやることをやるだけだ」


「これは頼もしい。だが遠路お疲れのことだろう。部屋を用意したから今日はゆっくりと休んでくれ」


 その申し出に俺は少しばかり表情に難色の色を浮かべる。それはロドリゲスに気付かれたようで頭に拳を降ろされた。


「休むのも仕事だ。明日、日が昇っている間にけりをつけるぞ」


「ハイ」


 確かに物事を急いでは事を仕損じるという。今日はゆっくり休んで明日に備えた方がいいだろう。そう自分に言い聞かせた時。


「お話し中失礼します兄様! お伺いしたい事があるのですが!」


 いきなり部屋に掛け込んできた一人の令嬢。兄様と依頼主を呼んだ所から彼の妹だろう。なにやらあわてているようだが。


「フランソワ。お客人の前だぞ」


「に、に、庭にいるクリムゾンウルフなんですが!!」


 その言葉を聞いて俺は察した。貴族は自分の敷地に魔獣が入る事を極端に嫌う。というか魔獣が庭にいたら誰だってビビるだろう。現に庭にいる警備の人間もあの赤銅色の狼にビビっている。


「申し訳ありません。あのクリムゾンウルフは私の従属です。直ぐに敷地外に移動させますので」


 立ち上がり彼女に頭を下げる。すると彼女は一瞬ぽかんとしたが


「貴方様は第六都市の魔獣使い(テイマー)なのですか!?」


「は、ハイ」


「素晴らしいです!」


 目を輝かせて詰め寄られた。


「フランソワ。テイマーというのはそんなに珍しいモノなのかい?」


「なにを仰られますか兄様! 公式の記録で魔獣使いは大陸で100人に満たない人数しか確認されていません。我がニブルヘルムに属する魔獣使い(テイマー)は12人。国からの要請で各都市に一人ずつ配置されていると聞きます。その中でも第七都市バチスタ。第一都市オリンピアの魔獣使い(テイマー)は我が国でも一、二を争う使い手。そのお一人が今此処に!」


 ものすごいテンションのお嬢様。彼女はジョブマニアなのだろうか?


「お前、国から依頼されるのか?」


「ほんとたまにですけどね」


「ハハハ、なら一緒に夕食でもどうかね? 妹に話を聞かせてやってほしい」


「まぁ、話しくらいなら」



 その場のノリで夕食に招待された俺達は依頼主兄妹と夕食を取る事になった。


「やはり何度見てもあのクリムゾンウルフは見事なモノですね。個体数が少ないのに、あれほど見事な赤銅色の毛並み。あれを従えるゼノアール様の技量が見て取れますわ」


「ほう、お嬢はアレについて知っているのか」


「ハイ。クリムゾンウルフは別名、灼炎狼ともよばれ、南の火山帯に生息しています。火に対する耐性が恐ろしく高く。またその体毛は王宮に献上される程の美しさと質を持ち、工芸、装飾品の材料としても高価で取引されています。ちなみに赤い毛並みの個体は若く、赤銅色で艶を持った毛並みの個体は長年を生きている群れの長と云われています。しかし、その体毛の価値故に乱獲が相次ぎ、以前までは火山帯の衛兵とまで云われた群れは姿を消し、今では希に単体を見掛ける程度しか生き残っていません」


「驚いた。そんな事まで知っているのか」


 素直に感心の意を示す。まさかここまで魔獣に詳しいとは思わなかった。


「ゼノアール様は他になんの魔獣を従えてらっしゃるのですか?」


「あと黒翼鳥(ブラッククロウ)宝石獣(カーバンククル)だな。珍しい奴といったら」


「宝石獣ですか!? 額の宝石は! ?」


「ブラックダイヤだ」


「絶滅種じゃないですか!? ほ、本日はお連れに!?」


「いるじゃないか。そこに」


 そう言った後、俺を除く三人は首を傾げる。分かりにくいか。と苦笑した後に俺はソイツに言った。


「おい、彼女に挨拶しろ。くれぐれも粗相のないように」


「クー♪」


「キャッ」


 小さい鳴き声と同時に上がる彼女の悲鳴。鳴き声の主、宝石獣(カーバンククル)は彼女の肩にいた。小さく愛くるしい緑色の獣。額に鈍く輝くのは黒い金剛石。宝石獣は驚いた彼女の頬をチロリ舐めたあと、ふさふさの尻尾を揺らしながら再び姿を消し、今度は俺の頭の上に姿を見せた。


「本当にブラックダイヤの宝石獣。生きてこの目で見られるなんて・・・」


 うっとりと宝石獣を眺める彼女。俺を含める三人は苦笑しながら食事を再開する。


「俺より第一都市にいる竜使いの彼女の方が凄いと思うけどな」


「私はゼノアール様の方が素晴らしいと思います。それに私もいずれ魔獣使い(テイマー)になって一角馬(ユニコーン)を従えるのが夢なんです」


一角馬(ユニコーン)といや、この地方にしか生息しない絶滅危惧種の魔獣じゃねぇか。人前に滅多に姿を見せねぇがま、頑張れやお嬢」


「ハイ。あとよろしければお願いがあるのですが」


 会話の最中、唐突に切り出した彼女。依頼主は首を傾げているが俺とロドリゲスは彼女が何を言おうとしているのか察して視線を合わせる。


「言っておくが明日の依頼に同行させてくれと言うのなら、ダメだ」


「決してお邪魔になるような事はしません! 魔獣使い(テイマー)を目指す者としてゼノアール様の使役する様をこの目で見たいのです!!」


 案の定、彼女は依頼の同行を頼んできた。もちろんロドリゲスはそれを良しとしない。


「明日の依頼であるキラーベアはBクラスからAクラスに上がる為の登竜門と云われる魔獣だ。その習性から俺も、小僧も好んで相手したくねぇ程のな。それにお嬢を連れて行くと俺達の生存率が大幅に下がる」


「自分の身は自分で守れます!」


「お嬢を過小評価しているわけじゃねぇ。なにかあった時に責任を持てる程に俺達は強くねぇから云ってるんだ」


 その言葉に彼女は反論できずにすがるように俺を見てくる。だが俺は首を横に振って言った。


「すまないが。連れて行く事はできない」



 翌朝、日が登る前にキラーベアのいる森へと足を踏み入れた俺達は周囲に気を配りながら奥へと歩みわ進めていく。昨晩フランソワ嬢は最後まで連れて行ってくれと頼んできた。だが俺達はキラーベアの危険性を知るが故に連れて行く訳にはいかなかった。朝の見送りに来なかったから諦めただろうと結論付けた俺。後からついてくる。影に気付かなかった。







 

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