教師やってるアスティア・ルッケンブルムよ
タイトル変えました。
宗教国家イエステン。その属領である小さな田舎町ラムーン。わたしティアことアスティア・ルッケンブルムはそこで小さな学舎を営んでいた。
学舎と言っても別にお金を取るわけでもなし、生活するに少しだけご近所さんに助けられればそれが十分な報酬となる。また本職はAクラスの冒険者なのでいざとなれば大きい街の冒険者ギルドで依頼を受ければ済む。
それにわたしは子供達に勉強を教えるのが好きなのだ。
だが学校に行くにはお金が掛かる。この世界での一年の学費は銀貨100枚。一般階級と呼ばれる家庭の年間収入は食費等を抜いても銀貨80枚前後。はっきり言ってぼったくりだ。家族の誰かがAクラスの冒険者ならまだなんとかなるだろうが不安定な職業柄収入も安定しないし、命の危険が付き物だ。
故に学校に行っているのは貴族か商人の子供、もしくは主要都市に居を構えれるような親を持っている人間だけだ。しかも、その学校では物事を教えるのに無駄が多すぎる。読み書きや算術といったものは必須なのだからまぁいい。剣術や魔法の教師は授業の度に自分の過去の栄光とやらを長々と演説する。そんなもんで10分以上費やすとか手前ら本当に教師やる気あるにのか。
そして極めつけは生徒達である。君たちは学校にお見合いに来ているのかい?と聞きたいくらいに指定の制服を金にモノを言わせて私服で登校し、自分の家の凄さを吹聴してまわる始末。その割りには物覚えが凄まじく悪く、対して才能も努力する気概もないのに初級魔法は嫌だ中級、上級魔法を教えろ。発動しなければやれお前の教えかたが悪いだの
「お前ら学問なめてんのか~!?」
とある一室にわたしの怒りの声が響く。周囲は相当な価値がするであろう調度品の数々。ここはイエステンの首都、ハーメルンにある国立ダルタニア学院。その来客貴賓室である。
「お気持ちは分かりますよ。えぇ、よ~く分かりますよ」
正面では親友のクロアがドス黒いオーラを身に纏いながら不気味な笑顔で頷いている。
わたし達は今この学院に教師として招かれている。それもこれもわたし達の住むラムーンの領主、ハロルド・ウイン辺境伯からの要望のせいである。
ハロルド卿は良き領主として地元の住民から支持を受けている。また、彼はこの学院の出でもあり、住民からわたしの学舎の評判を聞いて授業を何度か見学に来ていた。ある日、彼はダルタニア学院で教鞭を振るわないかと持ち掛けてきた。
ラムーンを気に入っているわたしはこの地を離れる気はないのと教え子を途中で放り出したくないという旨を伝えたのだが、いい意味にも悪い意味にも、わたしの意見を尊重して、月に5日だけの臨時講師としてでいいから頼むと言ってきたのだ。頭まで下げられたわたしはご近所さんからの後押しもあって渋々了承。正面にいるクロアは私と同じAランク冒険者。しかも剣術の腕は折り紙付きだと言って無理矢理連れてきた。彼女もまた経営する酒屋“黒揚羽”には領主もラムーンに寄った際には必ず寄ってくれる程、贔屓にされているので渋々了承。二人して学院までやってきているのだ。
「あのガキども人を小娘呼ばわりしてからに。教師相手にあの態度、どんな教育受けてんのよ」
「好きな子が剣術を取ってるから自分も受けるのは女の子として微笑ましいですが。短剣も持ち上げるのが一苦労なのに只のトレーニングで文句言わないでくださいよ。あと男の子も教官である私にメニフィスト発揮しないでください。私の方が圧倒的に強いのに手を抜かないでください。注意して逆ギレってなんですか」
「あんたも苦労してるわねクロア」
ソファにグッタリと腰かけるわたし達。終いにはあのガキどもを一掃してやろうかという危険な思考まで沸いてきた。
「アスティア先生。次の講義をお願いしたいのですが」
そんなわたし達のいる貴賓室にノックも無しで入って来たのは学院の教授である少し年配の貴族。
先程までだらけていたわたし達は既に住まいを正しており紅茶に舌鼓を打っている。
「分かりました教授。今度はどのクラスに教えればいいのですか?」
「本館とは別棟にあるクラスですよ。クロア先生も後程そのクラスに指南して頂きたいのでそれまでゆっくりしていてください」
「でしたら私も一緒に行きます。ここはなにかと暇なので」
わたし達は教授の案内の下、歩きだす。そういえば別棟のクラスに教えるのは初めてだ。どんなクラスなのだろうかと思い教授に訪ねてみた。
「平民上がりの落ちこぼれが集まったクラスですよ。ハロルド卿ご推薦の講師であるお二人が教えるには出来損ない過ぎる連中ですが」
出来損ないは本館の連中ですよ、と溢しそうになったが無理矢理作った笑顔で我慢する。道中を聞きたくもない自慢話を聞かされつつも目的地に到着したわたしは背伸びして教室の中を覗き込む。
「ティアさんみんないい子達みたいですよ」
後ろから覗き込んでいたクロアが嬉しそうに言った。かくいうわたしもここに来て初めての笑顔を溢した。
「えぇ、落ちこぼれでも出来損ないでもない。ちゃんと前を見ている子達よ」
わたしは教授に見送りは此処までいいと伝え、追い返す。そして何処からともなく取り出した唾の広いよれよれの魔女帽を被り、身の丈以上ある杖を手に親友に向き直る。彼女の服装もいつの間にか依頼を受ける時の装備で腰には二振りの剣を帯剣していた。
何故わたし達がこんなにやる気を出しているのかと云うとその訳は教室の中にいる生徒達にある。
全員学院の制服、ある者は図書館で借りたであろう本で勉強しており、ある者は危険のない初級を繰り返し練習し、ある者は複数人数で討論会を開いている。
平民だから落ちこぼれ、出来損ないと言われ、まともな教育も受けられずに、お金だけを絞られ別棟へと追いやられた生徒達は自分達で学び、話し合い、研磨していた。教える者としてこれ程うれしいことはない。
「さ、いこうか。あの子達は教えがいがあるわよ」
ルンルン気分で扉を開け放ったわたし。同時に静まり返った教育。そんなことは気にも止めないわたしは正面の教壇の上に立つ。
「ハロルド・ウイン辺境伯の依頼でこの学院に臨時講師として来たアスティア・ルッケンブルムよ。冒険者ランクはAランク。教える内容は魔法学よろしく」
「同じくAランクのクロア・エドワードです。剣術を教える事になっています。よろしくお願いいたします」
突然の自己紹介に呆然とする生徒達。その中、一人の女生徒が口を開く。
「え、講師? 本当に? ウチのクラスに?」
「えぇ、貴方達に教えに来たの」
それを聞いて途端に涙目になった彼女は勢い良く立ち上がると涙声ながらも大きな声で号令を掛けた。
「全員、席に着き気を付け! よろしくお願いします!!」
「「「よろしくお願いします!!」」」
「ハイ、お願いします。クロア先生はこの時間見学で次の剣術の時間皆に教える事になってるからね」
と言ったものの生徒達は嬉しそうに涙を流しながら隣同士で笑いあっている。そんな彼等に苦笑しながらも授業を始める。
「とりあえず、みんなの進捗状況を教えて欲しいから教科書出して~」
「あ、あの僕達教科書持ってません」
「学費と教材費は別でとてもじゃないけど手が出ないんです」
「あらそうなの? ならいいわ、わたしも教科書使わないし」
そう言って気にせず授業を進めるわたしに呆然とする生徒。クロアはクスクスと小さく笑って眺めている。
「なら基礎的な事からいきましょうか」
杖を壁に立て掛けて手を前に差し出す。
「火よ、灯れ」
自身の内から必要な分の魔力を捻り出し言霊を紡ぐ。ボッ、と発火音を立てて火が掌に灯る。
「魔法学、基礎中の基礎。始章火系統魔法。本館の低学年の子達は魔力はあるのにこれもできる子がいなかったんだけどね。さて、魔法とは何か誰か答えられる子はいるかな?」
わたしからの質問にクラス全員の手が上がる。それにうれしくなり、笑顔で目の前の生徒を指名した。
「魔法とは神々にから借り受ける事象、現象のことで私達の身体に宿る魔力と云う生命力に類似したモノを供物として捧げ発現します」
「ハイ、正解。それがこの国イエステンでの魔法の解釈ね。他国ではちょっと違うけど魔力を糧として発現させるのは合ってるわ」
わたしは火、水、風、土の四つの属性の玉を宙に浮かせる。
「みんなも知ってると思うけどこの四属性が基礎となり世界を構築しているわ。ここから更に派生するけどとりあえずおいといて。皆はこの中の属性一つでもいい始章を行使できるかしら?」
そう云うと皆は互いに目を合わせ、小さく笑いながら頭上に手を掲げ唱えた。
火よ、灯れ
水よ、集え
風よ、吹け
土よ、固まれ
四色の光が教室を幻想的に照らす。
その光景に思わずはしゃいでしまうわたしは拍手を持って彼等に賛辞を送る。
「みんな凄い凄い! 独学でちゃんと初級が使えるなんて先生びっくりしちゃった!」
私に誉められて嬉しそうにする生徒達。さてこれなら初級戦闘魔法に移行しても良さそうね。
「それじゃ、みんな外に行こうか。初級の戦闘魔法を教えてあげるね」
こうしてわたしの授業はこの学院に来て初めて充実したものとなった。




