おとぎ話 悪い桃太郎
ある日のこと。おばあさんが川で洗濯をしていると、どんぶらこ、どんぶらこと、とても大きな桃が流れてきました。
「なんと大きな桃じゃろう!」
おばあさんはそう言って、その桃を家へ持ち帰りました。
家でおじいさんと一緒に桃を割ろうとすると――なんと中から元気な赤ん坊が飛び出しました。
二人はたいそう驚きましたが、それ以上に喜びました。
「桃から生まれた子じゃ。桃太郎と名付けよう」
こうして桃太郎は二人のもとで育てられることになりました。
しかし、この桃太郎、少し変わった子でした。
優しくはありましたが、何よりも「お金」が大好きだったのです。
きらきら光る小判や宝石を見ると、目を輝かせて言うのです。
「世の中はお金だよ。お金があれば、なんでもできるんだ」
やがて桃太郎はあっという間に大きくなり、ある日、おじいさんとおばあさんに言いました。
「鬼ヶ島に宝がたくさんあると聞いたよ。ぼくはそれを取りに行く」
「鬼退治ではないのかい?」とおじいさんがたずねると、
「違うよ。宝をもらいに……いや、取りに行くんだ」
おばあさんは心配しながらも、きび団子を持たせました。
桃太郎はそれを袋に入れて、意気揚々と旅に出ました。
剣を五本背中に背負い、軽い鎧を身に付けています。
道の途中、桃太郎は一匹の犬に出会いました。
その犬は、きちんとした姿勢で立つ、真面目そうな女の子でした。小麦色の着物を着て、黒縁の眼鏡を付けています。
「桃太郎さん、その袋には何が入っているのですか?」
「やあ、シバちゃん。これは、日本一のきび団子だよ」
「一ついただければお供します……ですが、その前にお聞きします。本当に鬼ヶ島へ行く理由は正しいのですか?」
犬は、正義感の強い優等生でした。
桃太郎の目的が「宝を奪うこと」だと知ると、眉をひそめました。
「それはいけません。盗みは悪いことです。私はあなたを止めるために同行します」
桃太郎は笑って、きび団子を一つ渡しました。
「好きにすればいいよ、シバちゃん。でもぼくは行くからね」
さらに進むと、今度は猿に出会いました。暗めの赤褐色の着物を着た女の子です。
桃太郎よりも縦も横も大きな女の子です。
猿はお腹をさすりながら言いました。
「その袋の中、おいしいものだよね?ちょうだい!」
「いいよ、さっちゃん」
桃太郎がきび団子を見せると、猿は目を輝かせました。
「その一番大きいのくれるの?じゃあお供する!お金があれば、ごはんもいっぱい食べられるでしょ?」
こうして食いしん坊な猿も仲間になりました。
しばらくすると、空からキジが舞い降りてきました。
オレンジの着物で、真っ白なスカーフを巻いている小柄な女の子です。
「ねえねえ、何してるの?面白そう!」
「あのね、ケンちゃん」
桃太郎が鬼ヶ島の話をすると、キジは楽しそうに笑いました。
「鬼を困らせるの?それ絶対面白いじゃん!私も行く!」
こうして、好奇心旺盛なキジも加わりました。
四人はやがて鬼ヶ島にたどり着きました。
しかし、そこに広がっていたのは、恐ろしい鬼の巣ではなく――
静かで平和な暮らしをしている鬼たちの村でした。
鬼たちは畑を耕し、子どもたちは遊び、穏やかに暮らしていたのです。
犬は言いました。
「やはり悪い鬼などいません。帰りましょう」
しかし桃太郎は首を振りました。
「でも宝はあるはずだ」
桃太郎は強引に門を破り、仲間たちとともに鬼の家へ押し入りました。
猿は食べ物をあさり、キジは面白がって鬼たちをからかい、桃太郎は宝物を集めていきました。
犬は必死に止めましたが、誰も聞きませんでした。
鬼たちは突然の出来事に驚き、恐れました。
「やめてください!それは私たちの大切なものです!」
しかし桃太郎たちは耳を貸さず、ついにたくさんの財産を持ち去ってしまいました。
悲しみにくれた鬼たちは話し合い、ついに決心しました。
「こんなことは許されない。助けを求めよう」
鬼たちは人間の世界へ行き、警察に事情を話しました。
真面目に暮らしていた証拠や、奪われた品々の記録もきちんと持っていました。
警察はすぐに動きました。
一方、桃太郎たちは宝を抱えて帰る途中でした。
猿は大喜びで食べ物を頬張り、キジはずっと笑い続けていました。
しかし犬は黙ったまま、悲しそうな顔をしていました。
そのとき、後ろから声がしました。
「そこまでです」
振り返ると、警察と鬼たちが立っていました。
桃太郎たちは逃げようとしましたが、すぐに捕まりました。
鬼たちは言いました。
「どうしてこんなことをしたのですか」
桃太郎は何も言えませんでした。
裁きの場で、桃太郎たちは自分たちのしたことを認めました。
猿は「お腹が空いてたから」と泣き、キジも「面白いと思っただけ」とうつむきました。
犬は静かに言いました。
「私は止められませんでした。ですが、この人たちは悪いことをしました」
桃太郎は初めて、自分の行いの重さを知りました。
「お金があればいいと思っていた。でも違ったんだ……」
鬼たちに財産はすべて返されました。
そして鬼たちは、元の平和な暮らしを取り戻しました。
畑には再び作物が育ち、子どもたちは安心して遊べるようになりました。
鬼たちは言いました。
「もう争いは望みません。ただ、静かに暮らしたいのです」
こうして鬼たちにとって、本当の意味でのハッピーエンドが訪れました。
一方、桃太郎たちはそれぞれの過ちと向き合うことになりました。
桃太郎は、お金よりも大切なものがあることを、ようやく学び始めたのでした。




