帝国の誕生
女神教と女神正教は対立を深める。彼等はこんなにも我等を憎んでいた。
我々が直接戦う事はできない。あくまで信徒の奪いあいだ。彼等は人々が死に行く事を勘定に入れない。
東の民族の国には帝国が作られた。女神教が人々の平等をとき、指導者以外にも不老不死の奇跡を得たものは個人で圧倒的な強さを持つ。そんな状況であれば、これまでは名ばかりの王に等誰もなりたがらなかった。東の民族にとっては初めての大帝国の誕生であった。
女神教の分裂による影響と考えるべきだろうが、それどころではない、女神正教が裏で手を引いている。
そして、女神正教は形骸化してしまう。
我々は人であるが皇帝は神である。女神教も女神正教も皇帝にはかなわなかった。
女神教よりさらに昔、19人の神々の王さえ考えられていない時代、自然は敵であり容易に人々の命を奪い、味方であり命をつなぐ、しかしやはり、容易に人々の命を奪う敵であり、それは神であった。
そんな神から人々を守り、人々を率いる。そして、死ぬとわかっているものにほかの者を守る為に自然と戦う事を命じた者がいる。それは神の所業であり、まるで神のような、そしてまるでという言葉も必要なく神を名乗り、神と呼ばれた。その最たるものが帝国の王たる皇帝である。彼は我々とは違う。
彼は我らと違い人の範囲を超えない能力、有限の命で神となった。
我らは人の命を奪えない、悪人であっても躊躇する。皇帝は多くの善人の命を奪った。
それにより10倍の数の悪人の命を救う。女神正教は皇帝の勢力拡大のために暗躍した。
女神正教は古い神を蘇らせた。救いを必要するのは悪人なのだ。
「女神の教えではないな。女神の教えではない。」私はそうつぶやく。
人々が戦う神を求める時代は終わった。自然と戦わなくても制御できる十分な土地を手に入れている。自然と戦う神の時代は終わったのだ。それでも私は皇帝を殺せなかった。
この場にいながら殺すことはできる。そういう力を持っている。守る事できるのは同じ力を持つ女神正教の者たち。皇帝は彼らを侍らせていない。
彼は史上最大の帝国の神でありながら自身は意味のない奢侈にふけることはない。
彼は我々の力を知っている。言葉はきかれていることも知っている。
「皇帝の役目は暗殺されることだ。皇帝はいずれ人になり暗殺されるだろう。創造し、維持し、破壊する。それ終わらせないことを願う。その邪魔になった時皇帝は人となり殺される。私か、私の子か、私の孫かはわからない。皇帝には役割がある。強い力と強い影響力を持つだけの女神教等全く私の敵ではないのだ。」誰もいない空にそう語りかけた。
私は皇帝を殺せなかった。
皇帝の孫が皇帝でなく人になっても。私は殺せなかった。