表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

田舎のメガネ少年、失敗魔法で世界を変える!?

作者:


「今日は基礎攻撃魔法の実技練習を行う。標的に向かって『ファイアボルト』を放て」


ルーヴァン王立魔術学院第二学年の実技室に、サクリア・バーン先生の厳かな声が響いた。王国随一の魔術学院として知られるこの学園では、魔法の成績が学生たちの将来を左右する。そのため教室の空気は常に緊張感に包まれていた。


「はい、先生!」


生徒たちが次々と標的に向かって炎の矢を放っていく。金髪に紺色の瞳を持つルーク・アーヴァインは、中程度の威力で見事に的中させた。茶髪のおさげにそばかすが愛らしいカリーナ・クリスタは、精密にコントロールされた美しい炎で標的の中心を貫いた。


「さすがカリーナ、完璧だな」

「いつも通り優秀ね」


クラスメイトたちの賞賛の声が上がる中、眼鏡をかけた中性的な少年、ルカ・グラジオだけが震える手で杖を握りしめていた。


「ルカ、君の番だ」


サクリア先生の呼びかけに、教室がざわめいた。


「また爆発するんじゃない?」

「窓ガラス、大丈夫かな?」

「今度はどんな惨事になるやら…」


ルカの魔力は学年最低レベル。これまでの授業では、簡単な魔法でさえ必ず予想外の大爆発を起こしていた。教師陣の間では「歩く災害」とまで呼ばれている始末だった。


「ル、ルカ…」カリーナが心配そうに見つめる。

「大丈夫だって、ルカ!」ルークが励ましの声をかけた。


ルカは深呼吸して杖を構えた。今度こそは、今度こそはまともな魔法を──


「ファ、ファイアボルト!」


その瞬間──


**BOOOOOOOOM!!**


教室全体が真っ白な光に包まれ、轟音と共に巨大な爆発が起こった。窓ガラスが粉々に砕け散り、机と椅子が宙を舞い、生徒たちは慌てて床に伏せた。


煙が晴れると、標的どころか壁に直径三メートルの穴が開いていた。隣の教室まで見通せる有様で、向こうの授業が中断されているのが見えた。


「またやっちゃった…」


ルカは頭を抱えてうずくまった。クラスメイトたちは呆れ顔で立ち上がり、制服についたほこりを払っている。


「もう慣れたけどさあ」

「今回は特に派手だったね」

「隣のクラス、可哀想…」


ルークが苦笑いしながらルカの肩に手を置いた。

「またかよ、ルカ!でも、みんな笑いすぎだろ」


カリーナは汚れた制服を直しながら、困ったような表情でルカに近づいた。

「ルカ…お願いだから集中して!このままじゃあなた…」

サクリア先生は穴の開いた壁を見つめながら、なぜか微かに笑みを浮かべていた。

「ルカ、次に期待しているぞ。君の魔法には…何か特別なものがある」




翌週の魔術理論の授業で、サクリア先生が重大な発表をした。


「来月、専攻決定試験を実施する。この試験の結果によって、君たちの専攻分野と将来の進路が決まる」


教室がざわめいた。ルーヴァン王立魔術学院では、専攻によって卒業後の道が大きく変わる。宮廷魔術師、冒険者ギルド、研究機関…すべてはこの試験にかかっていた。


「治癒魔法専攻なら王都の医療機関、攻撃魔法専攻なら軍や冒険者ギルド、制御魔法専攻なら研究機関への道が開ける。十分に準備をしておくように」


授業後、中庭で三人は並んで歩いていた。


「私は治癒魔法専攻を目指すつもり」カリーナが決意を込めて言った。

「人を助ける仕事がしたいの」


「俺は攻撃魔法かな」ルークが軽やかに答えた。「派手で分かりやすいし、性に合ってる」


二人がルカを見た。


「僕には…何もない」ルカが肩を落とした。

「魔力は少ないし、まともな魔法も使えない。きっと試験も爆発して終わり」


「そんなこと言うなよ」ルークが肩を叩いた。

「失敗したっていいじゃん。何か見つかるって」


「でも現実は厳しいのよ」カリーナが困った表情を見せた。「成績が悪いと…」


「分かってる」ルカが自嘲気味に微笑んだ。

「僕の爆発、威力だけは本当にすごいけど、コントロールできない魔法なんて、魔法じゃない」

三人は黙って歩き続けた。夕日が学園の尖塔を赤く染め、長い影を作っていた。



専攻決定試験の日がやってきた。学園の大講堂には全学年の生徒と教師陣が集まっていた。試験は公開制で、実際の戦闘を想定した魔物の幻影との戦いだった。

「ルーク・アーヴァイン、前に出ろ」


ルークの番がきた。彼は軽やかなステップで試験場の中央に立つと、現れた狼型の魔物幻影に向かって鋭い氷の矢を放った。威力は中程度だが、正確で無駄がない。見事に魔物を撃破すると、会場から拍手が起こった。


「合格だ。攻撃魔法専攻を認める」


次はカリーナの番だった。


「カリーナ・クリスタ、前に出ろ」


カリーナは落ち着いて試験場に向かった。現れた複数の魔物幻影に対し、彼女は巧みに治癒魔法を応用した浄化結界を張り、制御魔法で動きを封じ、最後は精密な攻撃魔法で仕留めた。完璧な連携技に、会場は感嘆の溜息に包まれた。


「素晴らしい。治癒魔法専攻を認める」


そして、最後にルカの名前が呼ばれた。


「ルカ・グラジオ、前に出ろ」


会場がざわめいた。今度はどんな爆発が起こるのか、生徒たちは期待と不安の入り混じった表情を見せていた。


「爆発して終わりでしょ、どうせ」

「今度は講堂が吹っ飛ぶんじゃない?」

「先生たち、結界の準備は大丈夫?」


ルカは震える足で試験場に向かった。ルークが拳を握って応援し、カリーナは祈るように手を合わせていた。


現れたのは巨大な熊型の魔物幻影。ルカは杖を構えたが、手の震えが止まらない。


「僕には…できない」


その時、サクリア先生の声が響いた。

「ルカ、君の魔法を信じろ。失敗を恐れるな」


ルカは目を閉じ、深く息を吸った。そして杖を高く掲げた。今まで「失敗」と呼ばれ続けた自分の魔法に、初めて正面から向き合った。


「僕の魔法よ…」


「ファイアボルト!」


**BOOOOOOOOOOOM!!!**


今度の爆発は桁外れだった。講堂全体が眩い光に包まれ、魔物幻影どころか試験場の魔法陣そのものが消し飛んだ。爆風で観客席の生徒たちが座席に押し付けられ、教師陣も慌てて防御結界を展開する始末だった。


しかし、煙が晴れた時、誰もが息を呑んだ。


爆発の中心にルカが立っていた。そして彼の周りには、虹色に輝く魔力の光が渦巻いていた。その魔力の純度と量は、まるで宮廷首席魔術師クラスのようだった。


「これは…」サクリア先生が驚愕した。

「低魔力でこれほどの現象を起こすなど…」


「これは失敗ではない」


サクリア先生の声が静まり返った講堂に響いた。


「これは新しい魔法だ。従来の理論を超えた、未知の領域への扉だ」


会場がざわめいた。ルークは目を見開き、カリーナは感動で涙を浮かべていた。


「ルカ・グラジオ。君には新設する『未知魔法研究専攻』への道を用意しよう。君専用の、特別な専攻だ」


ルカは信じられない思いで先生を見つめた。


「本当に…僕の魔法に価値が…?」


「ああ」サクリア先生が頷いた。「君の魔法は確かに制御が困難だ。しかし、その可能性は無限大だ。これまで誰も踏み入れたことのない領域への、第一歩かもしれない」


試験後、夕暮れの中庭で三人は再び歩いていた。


「マジでお前、危険物扱いだな!」ルークが笑いながら背中を叩いた。

「でも、すげーよ。あの爆発、学園の歴史に刻まれるって」


「本当にすごかった」カリーナが感慨深げに言った。「ルカ、あなたの魔法…とても美しかったわ」


ルカは空を見上げた。夕日が雲の隙間から差し込み、学園を金色に染めている。


「僕は…この魔法を研究して、必ずみんなを守れる力にしてみせます」


「その時は俺たちも手伝うからな」ルークが笑った。


「もちろん、私たちはずっと友達よ」カリーナも微笑んだ。


三人の影が夕日に長く伸びていた。失敗だと思われていた魔法が、実は新たな可能性への扉だった。ルカの本当の冒険は、今始まったばかりだった。


初めてハイファンタジー系の物語を書いてみました。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

もし少しでも楽しんでいただけたなら、感想やブックマーク、評価をいただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ