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エルベレス@ダンジョン  作者: みっと
一幕 謎と、嘘
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第28章 ショータイム

君はずきずきと痛む頭を抑えながら、駆け寄って来たレオの手を取った。


「大丈夫かい?」

「…きっと、この剣に守られた」

君は聖剣(エクスカリバー)を床に突き立て、ふらりと立ち上がる。

「体が少し怠いだけ。平気」

レオの表情に安堵が浮かんだ、まさにその刹那。


背後で、地面を揺らす轟音と共に、空気が凍てついた。


ナルフの手から、凄まじい冷気の奔流が円錐状に解き放たれる。耳をつんざくような氷の砕ける音と共に辺りが白い霜で包まれ、絶対零度の突風がジグマスを襲った。

だが、ジグマスは陽炎のごとくその場から消え、次の瞬間にはナルフの背後に現れた。

「レオ!」

君のその叫びに応えるように、銀の閃光が君の頬を掠める。目にも留まらぬ速さで放たれた矢は、ジグマスがナルフの首を掻く寸前、彼が立っていたはずの床を抉る。

「チッ…!」

舌打ちと共にジグマスが飛び退く。レオは矢筒から素早く次の矢をつがえ、再びジグマスに狙いを定めた。

「ナルフ!死角は僕に任せろ、思いっきりやれ!」


レオの叫び声に、ナルフの真っ赤な瞳がギラリと光った。再度掲げられた彼の手の上には、灼熱の炎の球が浮かんでいる。

「ファイヤーボール!」

凍っていた空気が、一瞬にして熱の濁流に飲まれる。薄暗かった城内が、一気に灼熱の光で白く染まった。ブワリと熱気が舞い、炎の壁となってジグマスを囲い込む。

君は剣を握り直し、大きな息を吐いた。そして、轟轟と燃える火柱に向かって、迷いなく走りだす!

「おい、無茶するな!」

レオの叫びを背に、君は足を速めた。

無茶もあるもんか。このまま、足手まといでは終われない!

一歩踏み出すごとに、脳を針で突き刺されているような痛みが走る。だが、体は動く。剣も軽い。

行ける!

「護衛して!」

君の声に、レオとナルフが頷いた。


真っ赤な炎のカーテンを、君は疾風のごとく駆け抜ける。メラメラと君を包み込む盛る火も、耐性のある君には、あたたかな陽だまりのように感じられた。君がエクスカリバーを強く握ると、手の中で呼応するように黄金の光を放つ。

そのまま君が勢いよく剣を振り下ろした、その直後。ほんの一瞬、初めてジグマス目に、恐怖が映った。


グオンと音がして、君の剣が空を切るのとほぼ同時、ジグマスは自ら後方へ飛び退いた。刹那、彼の背中が炎の壁に叩きつけられ、ジュウ、と腐った肉の焼ける音と匂いが立ち込めた。


そのジグマスの行動に、君はピタリと動きを止める。

まて、こいつ、もしかして…

「聖剣だ!そいつの弱点は!」

レオの叫びと、君の横をすり抜ける矢の風切り音はほぼ同時だった。ジグマスは忌々しげに舌打ちをすると、今度は転がるようにして矢を避けた。

「逃がさんぞ」

ナルフはそう言うと今度は両手に冷気を集中させ、大きな氷の槍を形成したと思うと、ジグマスの足元へ放った。

三方向からの連携攻撃。ジグマスは表情を崩さないが、その動きには先ほどまでの余裕が少しずつ失われ始めていた。


ジグマスの足にナルフの魔法が掠る。灼熱の炎が音もなく消え去り、一瞬にしてジグマスの左足が真っ白い霜で覆われ、床に凍りづけになった。


「今だ!!」


レオの叫び声と、君が剣を振り上げて跳び上がったのはほぼ同時だった。

守ってくれたと言えど、先ほどのジグマスの魔法のせいで、体が鉛のように重たい。全身についたねっとりとしたどす黒い糊を振り払うように、君は歯を食いしばり、ジグマスの首めがけて剣を振るった。

ジグマスの顔に、初めて本物の焦りが浮かぶ。

この一撃で、終わる!

眩い光を放つエクスカリバーが、ジグマスの首に当たる…その、直前。

ジグマズの姿が、消えた。


「よく、俺をここまで追い詰めたね?」


響くのは、ジグマスの声。ハッとして顔を上げると、足の無いジグマスが宙に浮いていた。

…こいつ、凍ってる足ごと切断しやがった!

「そろそろ、俺も本気をだそうかなぁ」

ジグマスが膝から下が無い足に手をかざすと、ほんの瞬きの間に、なくなったはずの足がきれいにもとに戻っているではないか。


「さぁ、ショータイムだ」


彼はケケケッと笑って、両手を天に突き出す。ぶつぶつと魔法を唱え始めると、彼の足元に昏い紫色の魔法陣が浮かび上がった。

刹那、辺りの色が、まるで古い絵画のように色褪せていく。音が消え、心臓の鼓動すら聞こえなくなるような圧殺的な静寂。肌を刺すのは、氷よりも冷たく、魂の芯まで凍らせるような絶対的な虚無の冷気。


ナルフが、雷に打たれたように動きを止める。


「ママ殿、あれは、死の魔法であるぞ」


ナルフの一言に、全身が凍り付いた。急速に血の気が引き、聖剣を握る指先から力が抜けていく。

「死…?」

「僕がやる」

君が顔を上げるより先に、レオが君を庇うように一歩前に立つと、即座に弓を引き絞った。放たれた銀の矢は、死の闇を切り裂く流星のように、一直線にジグマスを目指して飛んで行く。

詠唱に没頭するデミリッチは、まだ気づかない――。行ける!

そう思って、一瞬希望に顔が輝いた、その時。君は、見てしまった。矢が届く寸前、嘲るかのように歪んだジグマスの口元を。

次の瞬間、銀の矢は目に見えない絶望の壁に阻まれ、弾き飛ばされた。

「なっ!」

「…バリアを張ってやがる」

レオは唇を噛みながら、ゆっくりと弓を下ろした。君は再度、ガクンと頭を垂れた。

「そんな…」


次の瞬間、ジグマスの魔法陣から、どす黒い闇が奔流となって溢れ出した。それは霧でも液体でもない、光すら飲み込み、あらゆる存在を否定する純粋な「無」そのもののように見えた。


あれに触ったら、死ぬ。そう、本能が告げていた。


君は歯を食いしばると、ゆっくりと頭を下げ、床を睨んだ。

もう…無理だ。地上でも手こずっていたのに、空中でバリアを張っている奴を詠唱が終わる前に倒すなんて、不可能。

聖剣が光を失い、君の手の中で静かに辺りの闇を反射して映した。

「レオ、ナルフ」

君の静かな声に、二人が顔を上げた。

「…二人で…逃げて」


その君の一言に、ナルフが何かを言うより先に、レオの手が動いた。

ペシン、と右の頬に痛みが走る。


「エイミー、聞いてくれ」


レオが、君を真っ直ぐに見つめていた。

「君は空中の奴に手を出せない。ナルフの魔力も残り少ない。僕の矢は奴には当たらない。このままじゃ、死ぬ」

彼はそこで言葉を切ると、君の肩を掴んだ。

「でも、もし…最後の手段が、一つだけ残っていると言ったら…」

彼の声が、わずかに低くなる。

「…君は、それに賭けるか?」


レオの手の微かな震えが伝わる。君は一瞬目を伏せたが、すぐにレオの手を取った。

「…レオの決断を、信じる」


君がそう言うと、レオはゆっくり頷いた。彼の目には、決意が宿っていた。


「分かった」


レオはそう短く言うや否や、カバンの中から一枚の古い巻物を取り出す。

「レオ、それは…」

君が言い終わる間もなく、漆黒の闇がスピードを増し君たちに近づいてくる。床を走り回っていた一匹のネズミが逃げ切れず闇に触れると、魂を吸い取られたかのように動かなくなって消えていった。

その光景に息を呑んだ、まさにその瞬間。 足元で、シュルッと闇が蛇のように伸び、君の足首を狙う!

「ママ殿!」

咄嗟に、ナルフが君を突き飛ばした。君は数歩よろめいて体勢を立て直す。だが、その隙に、ナルフの左足が闇に触れてしまった。君は慌ててナルフに駆け寄る。

「ナルフ!」

「来るな!」

ナルフの叫びに、君はビクリと動きを止めた。だが、君の目に映ったのは、彼の足元からじわじわと彼を侵食していく、禍々しい漆黒の闇。

「ナルフ、その足…!」

「…問題、ない。我は悪魔ゆえ、耐性が…」

ナルフはそう言い切る前に顔を歪め、苦悶の呻きと共にその場に崩れ落ちた。

「ナルフ!」

君が叫ぶ間にも、死の闇はじりじりとその領域を広げていた。近くに転がっていた兵士の死体が闇に触れた瞬間、シュウウと肉の焼けるような音を立てて塵と化す。


このままだと、ナルフを失う。


その事実に、凍っていた体が再度、動き出した。

「ママ殿!来てはだめだ!」

君はナルフには耳を貸さず、彼の上半身を両手で掴んだ。

「我は良い!このままでは、ママ殿も…!」

「うるさい!」

君はそう叫ぶと、力をすべて振り絞って、ナルフを引っ張った。だが、闇に捉えられた彼の体は鉛のように重い。ずるりとナルフの体が数センチ動くだけで、君の全身の骨が軋む。

だんだんと近づく闇に、君の吐いた息が空気中で白くなる。手と足が悴んで思うように力が出ない。ナルフの下半身は、もう闇の中に溶けて見えなかった。


「…ママ殿!」


ナルフの悲痛な叫びに、やっと気づく。闇が、もうそこまで来ていた。


このままでは、間に合わない。


ならば、せめて、ナルフだけでも。


君は立ち止まると、両腕にこれでもかと力を込める。君の決意に応えるように、力の籠手が青い光を放った。

「だめだ!ママ殿!」

闇が君の右足から生命を吸い上げていく。凍てつくような無感覚が這い上がってくるが、そんな痛みは、もうどうでもよかった。

シロの時と同じ過ちは、もう繰り返さない。

「うおおおお!」

叫び声と共に、君はナルフの体を闇から引き剥がすように持ち上げた。力の籠手が激しく震え、彼の体にまとわりついている闇が君のローブにかかる。

そして、最後の力を振り絞り、君は託すようにナルフを、巻物を読むレオの足元へと投げた。

ドスン、と鈍い音が遠くに聞こえたのを最後に、ギンギンという耳鳴りだけを残して、音が消えた。


君は、もう半分以上闇に飲まれていた。


冷たい虚無が魂に染み込む中、君はゆっくりと目を閉じた。浮かぶのは、君の名を呼ぶ赤毛の少年の笑顔。悪戯っぽく笑う、素直じゃない銀髪のエルフ。そして、不器用で優しい、赤眼の悪魔。

瞼の裏に焼き付いた仲間たちの顔が、消えかけていた君の魂に火を灯す。

君は、目を見開いた。

「まだ…!」

君は、石のように重たい足を、意志の力だけで無理やり一歩、また一歩と引きずった。全身が凍てつき、もう感覚もなかったはずなのに。

なのに、なぜだろう。その時、体に纏わりつく死の冷気の中に、ふと、懐かしいような温もりを感じた。

はっとして視線を落とせば、君を包む深紅のローブが淡く、しかし力強い光を放っているではないか!

魔法耐性のマント。それは、ノルンから託された、希望の光。その光は、君の意志に応えるかのように輝きを増し、迫ってくる闇をじりじりと押し返していく。その光は、迫ってくる闇をじりじりと押し返し、君の周りに「生」の領域を作り出していた。


私はまだ、守られている。まだ、息ができる!


マントが放つ生命の光を頼りに、君はかじかんで感覚のない指を動かした。一歩、もう一歩と、闇の中に見える一点の黄金の光に、必死に手を伸ばす。


「…ママ殿」


耳鳴りを突き破って、切羽詰まった声が聞こえた。その直後、凍り付いた君の指先を、力強いぬくもりが包み込む。

刹那、ぎゅっと力が籠められ、君は闇から引きずり出された!


「…っはぁッ!ごほっ…!」

凍てついた肺に空気がなだれ込み、灼けるような痛みが走る。君は激しく咳き込んだ。

「ママ殿!良かった!」

すぐ側で聞こえるナルフの震える声に、君の視界がだんだんと色を取り戻してゆく。

「ナルフ…!」


だが、そう安堵の息をついたのも束の間。ハッとして辺りを見渡すと、自分たちが立つ僅かな円形の空間を除き、辺り一面がすべて闇で覆われていることに気づいた。じわじわと近づく闇に、君はナルフと背中を合わせる。

「レオ!」

君の掠れるような叫びにも、レオは顔を上げなかった。額の汗が顎を伝い、ぽたりと床に落ちる。その紫色の瞳は、手に持った古びた巻物の上を目まぐるしく滑り、唇からは焦りに震える呪文のような呟きが漏れていた。

まずい、このままじゃ…

「プロテクション!」

つま先が闇に触れるその直前に、ナルフの叫び声が響いた。君たちの周りに一瞬薄い膜ができるが、すぐにヒビが入り始める。

「間に合わな――」

ナルフの絶叫が途切れる。君は反射的に目を閉じ、彼の冷たい手と、レオの震える体を強く握りしめた。


静寂の中、冷たい声が、響く。


「死ね」


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In the previous chapter, I forgot to write how I was wondering how Strong was Amy's mother, having i…
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