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エルベレス@ダンジョン  作者: みっと
一幕 謎と、嘘
23/40

第21章 森

「落とし穴だ!」


レオが叫んだが、遅かった。君の体は、なすすべなく暗闇の中へと投げ出される。

受け身を!

硬い石への激突を覚悟してぎゅっと目を瞑った君の体は、不意に、ふわりと柔らかな何かに受け止められた。


恐る恐る目を開けると、そこは暗闇ではなかった。君が落ちてきた穴は、頭上のはるか高くに見える。そして、体の下にあるのは…柔らかな土と、青々とした芝生だった。


そこは、美しい、果樹園の森のような場所。


爽やかな風と、花の香りが君の肌を撫でる。天井は高い木の枝と生い茂った葉で覆われており、木にはおいしそうな実がたくさんぶら下がっていた。

「すごい…!」

君はダンジョンに居る事すら忘れて、鉄の手袋を脱ぐと、そっと柔らかな草を撫でた。冷たいふさふさとした感触に、くすぐったくて小さな笑いを漏らす。


少しすると、上の穴から、翼を広げたナルフと、その腕にしがみついたレオが下りてきた。


ナルフがそっと床に着地する。レオは、ナルフからそろりと手を離すと、自分の足が確かに地面についていることを確かめるように、恐る恐る芝生を踏みしめた。

そして、小さく安堵の息をつくと、床にはいつくばっている君を、心配そうに見つめた。

「大丈夫かい?怪我は…」

そこまで言って、レオは君が芝生を触っているのだと理解すると、弾かれたように顔を上げた。

「ま、まさか…ここは…」

レオが苦虫を噛み潰したような顔で、辺りを見回す。


「…早く、行こう」

レオが、引きつった顔で呟いた。君は首を傾げる。

「もう行くの?こんなに綺麗なのに」

ナルフも頷き、興味深そうに辺りを見渡した。

「運命の水晶玉も手に入った。我も魔導書が読みたいし、すこし、ゆっくりしても良いと思うが」

レオはブンブンと首を振ると、早口の小声で呟いた。

「ここは絶対駄目だ。休むのはもう一層下に降りてからでも遅くないよ」

君は物惜しそうに芝を撫で、ナルフが残念そうに魔導書を仕舞った。

「行こう。早く、あいつらに気づかれる前に…」

レオが切羽詰まった声でそう囁いた、まさにその瞬間。


ヒュンッ!と鋭く空気を切り裂く音がしたと思うと、短剣がレオの耳を掠めて背後の木の幹に深々と突き刺さった。レオの顔から、サッと血の気が引く。


すると、木漏れ日の中から、音もなく滑るように人影が現れた。


「よくも、のこのこ来れたものね」


その声は、小川のせせらぎのように美しいが、氷のように冷たい。柔らかな光がその姿を照らし出すと、君は思わず息を呑んだ。


凛とした気品と、剃刀のような鋭い敵意を併せ持った、一人のエルフ。長くしなやかな脚、尖った耳。陽光を溶かした金のような輝く髪は腰まで流れ、澄んだ空のような淡い青の瞳は、射抜くようにレオを見据えていた。


「久しぶり、レオ」


「やあ…エラーラ」

レオは引きつった笑みを浮かべていた。


「…知り合い?」

「いや…旧友というか…腐れ縁というか…」

その煮え切らない答えを聞いた瞬間、エラーラは二本目の短剣の切っ先を彼の喉元に突きつけた。

「何が旧友よ。私の心を弄んだ挙句、捨てたくせに…どの口が言うの」

レオは両手を上げ、ため息をついた。

「あの時は悪かったよ。でも、もう大分昔の事じゃないか」

レオの言葉に、エラーラはフンと鼻を鳴らす。そして今度は、芝生に座り込む君を、値踏みするように、頭のてっぺんからつま先まで、じろりと一瞥した。


「…また、新しい女?」

君はその場から動けずに、パチパチと目を瞬かせた。エラーラが眉を顰める。

「黒髪…しかも、人間とはね。エルフは食べ飽きたって事かしら」

ゴホッと、レオが咳き込んだ。

「ち、ちがうよ!彼女はそんなんじゃないんだ!命を助けてもらったお礼に、冒険に同行してるだけなんだよ」

エラーラが目を細める。

「超秘密主義の貴方が、仲間と冒険?…一体、どういう風の吹き回しかしら」

レオは乾いた笑いを漏らすと、目を逸らした。


エラーラは短剣をゆっくり鞘に納めると、くるりと君たちに背を向ける。

「まあ、いいわ。元気そうで、安心した」

エラーラはそう言うと、チラとレオに目をやった。

「生きてるなら、もう少し会いに来て頂戴。休む場所が必要なら、泊まってもいいわよ」

「ありがとう、でも、遠慮するよ」

「そ」

エラーラはそれだけ言うと、溶けるように木の中に姿を消した。


安心したようにほっと息をつくレオを見て、君は眉を潜めた。

「…今のは…?」

「えっと…昔、たまたまあいつに会って…まあ、色々あったんだよ」

レオは大きなため息をつき、頭を掻いた。

「前にレオ殿が着ていたのと、同じマントを着ていたな」

ナルフがそうぼそりと呟いた。レオがさっと目を逸らす。

そう言えば、旅に出るときに、君もレオからエルフのマントを貰った。確か、レオが作ったんだっけ…。

「あ、余ってたから…」


レオがぼそりと呟いた、その瞬間。木々の中から、高い声が聞こえてきた。

「レオー?レオー?」

木々の間から聞こえる鈴を転がすような声に、レオが絶望したように顔を覆った。

「これは…まずい…」

「あ!レオだー!」

弾むような声と同時に、木々の間から赤茶のツインテールの可愛げなエルフが、レオの胸に勢いよく飛び込んだ。

「なかなか会いに来てくれないから、もう死んだかと思って、うち、すっごい悲しかったんだから!」

「ローナ…」

ローナと呼ばれたエルフは、レオの顔をそっと撫でると、片眉を上げた。

「最近は前みたいに遊んでないって聞いたよ?本命でも見つけた?」

「いや…だから、そういうわけじゃなくて…」

「そ!じゃあ、うちに遊びにおいでよ!」

レオはローナを引きはがそうと必死に彼女の肩を掴む。

「おい、ちょっと…離れろ…」


君は、あっけにとられてパチパチと目を見開いた。

「レオ…これは…」

君が言い終わる前に、もう一つの影が揺れた。


「おい、この辺にレオが居たって…」


振り向けば、木の幹に寄りかかるようにして、腕を組んだショートヘアのエルフが立っていた。陽の光を浴びて白金の輝きを放つ髪、皮の鎧に身を包んだしなやかな身体に、鋭い眼差し。

だが、その目がレオを捉えた瞬間、殺意がメラと燃え、勢いよく腰のブロードソードを引き抜いた。

「見つけたぞ!このクソエルフ!!」

「…サフィラ」

「久々に面見せたと思ったら…女二人連れてるとは、良いご身分だな?」

「いや、だからちょっと待てって…」

レオが渋い顔をした。君は、目の前で繰り広げられる光景に、もはや言葉を失っていた。ローナが、レオの銀髪を撫でながら口を開いた。

「駄目だよサフィラ、今回はうちが先に捕まえたんだから」

「ローナ、お前レオから離れろ!」

ローナはレオの右腕に抱きつき、サフィラは彼のマントの襟を掴む。まるで一枚のパンを奪い合う鳥のように、二人の甲高い声が森に響き渡る。その間で、レオは無表情で立ち尽くしていた。


君は、このカオスに居た堪れなくなって、ちいさく「あの…」と声を上げた。


途端、全員の視線が、君に集まった。


「なんだ?おまえは…人間?」

サフィラが、レオの髪を掴んだまま、君を値踏みするように細い目で見つめる。

「しかも、黒髪って不吉ね!」

ローナが、レオの腕に自分の胸を押し付けながら、眉を上げた。

「えっと…紹介するよ。彼女は、エイミーって言って…」

レオがそう言いかけた時にはもう、二人の女はもう彼に興味を失っていた。


二人はするりとレオから離れると、今度は君を囲むように立ち、君は思わず身を固くした。

「へえ…」

ローナが、面白そうに君の顔を覗き込んだ。

「顔は、中の上…いや、中の中!」

「胸は…無いな」

「良い筋肉だけど、抱き心地は悪そうね!」

「これは、良い剣だな。人間には勿体ない」


美女二人に見つめられ、君はごくりと唾を呑む。

「あ…えっと…」


「…ふーん」

ローナの顔から、すっと笑顔が消えた。彼女は横で突っ立っているレオに目を向けると、少し寂し気に片眉を上げる。

「レオ、変わったね」


「…え?」


ローナはレオには答えず、ぱっといつもの笑顔に戻ると、後ろで真剣に花を調べているナルフに駆け寄っていった。

「あ!イケメンみっけ!」

「離れろ。邪魔だ」



一人残されたサフィラは、ふう、とため息をつくと、君にだけ聞こえるように、そっと声を潜めた。

「おい、人間。顔色が悪いが…嫌な事とか、されてないよな」

「え…レオに?いや、全然…」

君がそう言うと、サフィラは珍し気に眉を上げた。レオが、おどおどと声を上げる。

「だから、エイミーはほんとにそういうんじゃないんだって…」

「あんたは黙ってな」

サフィラは冷たく言い放つと、再度君に向き直り、真剣な眼差しで忠告した。

「…気を付けろ、あの顔に騙されるなよ。こいつは、取るもんだけ取ったら、風のように消えるぞ」

サフィラはため息をつくと、レオを睨みつけた。

「こいつは、武器屋のあたしをたぶらかして、散々タダで矢を持ってった挙句に、ある時忽然と姿を消したクソ野郎だ」

「…悪かったって」

レオが頭を掻いた。君は混乱したままレオを見つめる。

「だが…まあ、弓の腕と、口の上手さだけは保証できるがな」

サフィラがわざとレオに聞こえるようにそう言うと、レオはサフィラを一瞥した。

「おい…余計な事言うなよ」


「…でもね、」ローナが、つまらなそうにナルフの角の先端を指でつつきながら、唇を尖らせた。

「レオってば、朝になると何も言わずに消えちゃうの」

レオが、頭を抱える。サフィラが顔を上げた。

「ああ、あたしの時も…って、待て、ローナ…なんでお前がそんな事知ってんだ?」

「さあね?レオに聞いてみたら?」

「…」

レオは冷や汗を流しながら、じりじりと後ずさった。

「昔の話だろ…」


「レオ…」

君の軽蔑の目に、レオはウッと息を呑んだ。

「わ、悪かったって…」


サフィラがため息をつく。

「…まあ、昔の事は一旦置いておく。それより、あんたの矢筒、もう空っぽじゃないか。そんなんでこの先どうするつもりなんだ?」

彼女は吐き捨てるように言うと、逃げようとするレオの手首を強い力で掴んだ。その指先が、無意識に彼の手首の筋をなぞる。はっとして、彼女はバツが悪そうにその手を離すと、わざとらしく咳払いをした。


そして、今度は君に鋭い視線を向ける。

「こほん。あと…エイミーだっけ?ついでに、あんたの武器も手入れしてやるよ。不思議な剣だ、興味がある」

「えっと…」

君がごたついていると、レオは自分の空の矢筒を見て、観念したように肩をすくめた。

「…ああもう、わかったよ。お詫びもかねて、君の矢を買わせてもらう。エイミーの武器も見てやってくれ。今回はちゃんとお金も払うから、出来るだけ早く終わらせて」

君は、目を見開いた。

「…良いの?」

「サフィラの武器の手入れの腕は本物だからね」

「う、うるさい、バカエルフ!当たり前だろ!」

レオのストレートな称賛に、サフィラの顔がカッと赤らむ。彼女はそれを隠すようにそっぽを向き、ぶっきらぼうに言い放った。

「…あんたら、ついてきな」

レオが首を振った。

「えっと…嫌われてるみたいだし、僕はここで待ってるよ」

君は、ナルフに目をやった。背中に張り付いているローナには目もくれず、珍しそうに床に生えた草を触っている。


「すぐ、もどるから」


君はナルフには答えず、レオにそう言うと、もう先に行ってしまったサフィラを慌てて追いかけた。


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― 新着の感想 ―
Ahhh, so this was Leo's past and possibly his secret XD Playboy gets Karma, I like Safira's personal…
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