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エルベレス@ダンジョン  作者: みっと
一幕 謎と、嘘
17/40

第15章 火

息が詰まり、灼熱が喉を焼く。視界が真っ赤に染まる中、髪の焦げる匂いと、カバンのポーションが沸騰して割れる音がした。


自分はここで死ぬのか?生きたまま焼かれて。

そう思った、その時だった。

「ナルフ!!」

レオの、喉が張り裂けんばかりの怒声が響いた。

「突っ立ってるんじゃない、バカ!水だ!水をかけろ!」

その言葉に、金縛りにあったように動けなかったナルフが、ハッとして頷いた。 彼は両手で足元の氷混じりの水をかき集めると、必死に君に向かって投げつける。だが、一瞬で蒸発してしまい、火は弱まらない。

「クソ、何か…!!」

レオの焦り声に、ナルフの頭が更に真っ白になる。その時だった、彼が、自分の背中に生えている、巨大な翼を思い出したのは。

水を!

彼は、溶けて水になった地面に己の翼を叩きつけると、巨大なシャベルのようにして、ありったけの氷水を掬い上げた。

「ママ殿!!」

翼が灼熱の蒸気で焼ける痛みも構わず、彼はその全てを、君に向かって叩きつけた。


バシャン!!


灼熱を打ち消す、絶対零度の衝撃。 大量の氷水が君の体を叩き、一瞬で炎をかき消した。ジュウウ、と分厚い水蒸気が立ち上る。

君の視界は、水蒸気と、ぜえぜえと肩で息をするナルフの姿でいっぱいになった。 彼の顔は蒼白で、その赤い瞳からは、涙か、氷水か、雫が止めどなく流れ落ちていた。

「エイミー!!」

レオが、ナルフを押しのけて君に駆け寄る。

「良かった、意識はある!早く怪我を!」


君はそう言われて、ハッとしたように自分の体を、両手を、そして両足を見た。


だが、そこに、火傷の跡は一つもなかった。


「一体…どういう…」


次の瞬間、ナルフが安堵の涙を流して、君の前に跪いた。

「なんと、炎耐性ファイヤーレジスタンスを付けておられたとは!!」

「ファイヤー…何?」

君が眉を潜める間もなく、顔をぐしょぐしょにしたナルフが君に縋りついた。

「ママ殿、我のせいで貴殿を危険にさらしてしまった!なんという失態か、我はどんな罰でも受ける!だが、どうか…我を捨てないでくれ!」

そう泣き叫ぶナルフを横目に、レオがハッとして手を叩いた。

「そうか、火蟻だ!」

そう言われて、君は顔を上げた。もしかして、さっき火蟻を食べた時に感じた…あの寒気?

「火蟻を食べて、耐性が付いたんだ!体が新しい耐性に馴染むときに、一時的に体温調節が狂うことがある。僕も毒耐性を得た時に、悪寒を感じたよ!」

君は目を瞬かせる。

「レオは、何を食べたの…?」

「昔、毒矢を作ろうと殺人蜂を狩ってたんだけど、その時腹が減って、一匹食べたんだよ」

レオが、懐かしむように微笑んだ。


その時、君の目に、真っ黒になった自分のマントが目に入った。

「あ…!」

これは、レオに貰った、エルフの超高級マント!体は無傷だが、マントは黒焦げ、カバンの中のポーションは全滅だ!

「そんな…!」


レオが、そっと君の肩の煤を払った。

「割れたポーションはしょうがない。マントは、また僕が用意するから。とにかく、君が無事で良かった」


君は、そっとマントの端を掴む。今までのような美しい色味は失われ、硬くゴワゴワになってしまった。


か細い声が、唇から漏れる。

「せっかく、レオが、くれたのに…」


レオは一瞬驚いたような顔をしたが、直ぐに小さく笑うと、そっと君の頭を撫でた。

「マントなんか、いくらでもあげるから」



「ママ殿…」

何時の間に床で小さくなったナルフが、呟いた。

「まずはその頭を冷やせ。死んでたかもしれないんだぞ」

レオの冷たい声に、ナルフは言われた通り、氷の床に頭を擦りつけ始めた。


君は困ったようにため息をつくと、そっとナルフの横にしゃがんだ。


「私の為に調理しようとしてくれたんだよね、ありがとう。でも、次からはレオの言う事もちゃんと聞くんだよ」

「ママ殿…!」

ナルフがバッと顔を上げた。レオが呆れたようにため息をつく。

「君は甘すぎるよ」

「レオが十分怒ってくれたでしょ」


君はそう言うと、そっとナルフを立たせた。そして、顔を上げる。


目の前に見えるのは、氷の大地の一角。そこに、不吉な洞窟の入り口が黒々と口を開けていた。


レオが、目を見開いた。

「サーター卿の、洞窟だ」


—-----------------------------


十分腹ごしらえをして休んだ後、君たちは洞窟の入口まで来た。

君は、唾をゴクリと飲み込む。


この中に、サーター卿がいる。


君は勇気を振り絞って足を踏み出す。中に入った瞬間に、熱波が一気に顔に吹き付けた。

「暑っ、ここ暑い」

レオが思わずシャツの襟元を緩める。外の極寒が嘘のように、洞窟内は皮膚を焦がすような熱に満ちていた。熱で景色が陽炎のように揺らめき、奥の景色を歪ませている。洞窟のいたるところで溶岩がふつふつと煙をあげ、硫黄のむせるような匂いが肺を焼く。


前を見ると、硫黄ガスの雲を通して、泡立つ溶岩の堀に囲まれた巨大な岩の柵が目に映った。

「サーター卿の隠れ家は、ここで間違いなさそうだな」

ナルフの言葉に、君は汗を拭って頷いた。


柵の正面の巨大な木の門の前で、君たちは立ち止まった。

「で、でかい…」

君はそう言ってその門を見上げた。

「ボス様はこの中で隠れてるわけか」

レオは素早く弓を取り出すと、辺りを見渡した。

「僕は援護にまわる。ナルフ、エイミーを頼んだ」

「そのつもりだ、レオ殿」

ナルフの言葉を聞くと、レオは頷いて高くジャンプした。身軽に壁の出っ張りに飛び移り、フードを深くかぶると姿を消した。


レオの気配が完全に消えると、君は眼の前の巨大な門を睨みつけた。問題は、どうやってこの門を開けるか、だ。君は頭を掻く。流石にこれは、君のキックではびくともしないだろう。全力で押してみるか?引いてみる?いや、だが余計な事をしてサーター卿にバレてしまっては奇襲の意味がない。ここは慎重に考えなくては…。


ナルフはじっと君を見つめていたが、君の唸り声を聞いて顔を上げた。

「我に任されよ」

ナルフがおもむろにそう言うと、両手を門に突き出した。

「え?待っ…」

ナルフが、ピタリと動きを止め、君に顔を向けた。

「入り口を壊す。危ないので、ママ殿は我の後ろに」

「待って、ナルフ。壊さないで入りた…」


君がそこまで言ったその瞬間、物凄い衝撃音と土埃が地面を揺らした。君の目の前にあった巨大な木の門が、まるで薄いガラス細工のように粉々になったではないか!


舞い上がっていた砂埃がゆっくりと落ちる中、君は唖然として門を見た。

「ナルフ!壊さないでって…!」

「…今のは、我では無いぞ」

ナルフのその真剣な声に、君は再度門に目をやる。砕け散った門の向こうの闇から、何者かの強い魔力が肌を刺した。君は袖で汗をぬぐうと、剣を握りなおす。

「…来る」


そして、君は、サーター卿を見た。


身の丈は5メートルを優に超え、洞窟の天井に頭がつくほどの巨躯。彼の膝小僧が、ちょうど君の目線の高さにあった。

思いっきり見上げると、卿の鋭い瞳が君を射抜く。その髪とひげは真っ赤に燃え盛る炎そのもの。強靭な巨躯には、同じく炎を纏う両手剣が握られている。


「これが…サーター卿…!」

君は、目を見開くナルフをさっと手で制した。

「…ナルフ。サーター卿は火蟻の様にはいかない。私が言うまで、絶対に手を出さないで。分かった?」

ナルフは、卿を見上げたまま、何も言わずに頷いた。


その時、彼の腰に下げられた銀色の鐘が、ちりんと小さな音を鳴らした。

「…ビンゴだ」

レオが、目を細める。


卿の復讐と野望にぎらつく鋭い目が君を捉え、彼は声を上げて笑った。


「そうか、 ノルンの奴め、ついにヴァルキリーを使って儂に挑む気になったか! 偽りの正義を掲げるテュールを討ち、この地に真の秩序をもたらすのが先と思っていたが…良いだろう」

彼が笑うだけでガタガタと地面が震え、熱気が一気に降り注いだ。卿は、両手剣を握りなおすと、ぎろりと君を睨みつけた。

「…まずは、お前からだ」

その圧力に、君の膝がガタガタと震えた。


…怖い。逃げたい。


だが、恐怖よりも先に込み上げてきたのは、テュールを愚弄された怒りだった。

「…偽りの正義は、お前だ。お前なんかに、テュール様は倒せない」


卿はそれを聞いて、さらに大きく笑った。

「 安心しろ。テュールとの最終決戦は、貴様を片付けた後だ」

そう言い終わるやいなや、空気を焼く轟音と共に、巨大な炎の剣が君めがけて振り下ろされた!


硬直しかけた体を衝動的に突き動かす。全力で床を蹴り、転がるように身を投げ出した、その直後。君がいた場所に叩きつけられた剣が溶岩を爆ぜさせ、灼熱の波が君の背中を舐める。卿は君によけられたのを見ると、再度その炎の刃を振り上げた。

「…速い!」

君は思わず呟いた。巨体からは想像もつかない速度の追撃が、休む間もなく君を襲う。必死に床を転がり次撃を紙一重で(かわ)すが、毛先がチリリと焦げる匂いがした。


「さっきから、ちょこまかと…」

卿は苛立った表情で一度攻撃を止めた。君は荒い息を落ち着かせるように深呼吸をすると、袖で汗をぬぐう。重たい攻撃にこの速度、逃げるのが精いっぱいで全く攻撃する隙が無い!

卿は凍るような目で静かに君を見ていたが、剣を床に突き立てると、ニヤリと口角を上げた。ぞっと、悪寒が君の背筋を走った。

「では…これはどうかな」

サーター卿はそう言って口を大きく開けた。喉の奥が炉のように赤熱したと思うと、次の瞬間、物凄い勢いで紅蓮の炎が吐き出された!



ナルフは咄嗟に翼を羽ばたかせて後ろに跳んだ。だが、卿の攻撃の熱量とパワーに吹き飛ばされ、背中を壁に強く打った。

「…っ!」

そこで、ナルフはハッとして顔を上げる。

「ママ殿!」

遅かった。さっきまで居たところはもう、燃え盛る炎の海の中。この距離でも肌を焼くような熱気に、息が出来ない。

離れていて翼のあるナルフでさえ、ギリギリの回避。

「ママ殿!!」

卿が、勝利を確信したように目を細めた、その時だった。

燃え盛る炎の中から、ゆらりと人影が揺れた。

「馬鹿な…」

サーター卿が目を見開いた。ナルフも思わず息を呑んで、炎の中心を凝視する。

業火が渦巻く中、その人影は一歩、また一歩と、確かな足取りでこちらへ向かってくる。炎はまるでそれを避けるかのように揺らめき、その輪郭を陽炎のように歪ませた。

ゴウゴウと燃え盛る音だけが響く中、カツン、とブーツが溶けた石畳を踏む音が響いた。

やがて、炎の壁から、黒髪の女戦士が姿を現した。 その体には、火傷一つない。煤で少し汚れた顔には驚きと安堵が浮かんでいる。

「ママ殿!」

ナルフが思わず叫んだ。サーター卿の声が震える。

「なぜ…なぜ生きている…!」

「言ったでしょ。私ですら倒せないお前に、テュール様は倒せないって」

君はそう冷たく言うと、ばさりと髪を靡かせた。だが、その内心は安堵でいっぱいであった。あの炎が迫って来た瞬間、本気で死を覚悟したが…炎耐性があってホントに助かった!

サーター卿の顔が真っ赤に染まった。

「…まだ、本気ではないわ!」

サーター卿はそう吐き捨てると、ドン! と両手剣の(つか)を床に打ち付けた。すると、それを合図に、門の奥から巨大な影がゆらりと揺れた。

一つではなかった。闇の奥から次々と姿を現したのは、身の丈2.5メートルはあろうかという屈強な火の巨人たち。燃え盛る髪は逆立ち、顔にはただ憎悪を宿した灼熱の瞳だけが爛々と輝いていた。

三体の巨人はサーター卿の前に横一列に並ぶと、まるで揺るぎない炎の壁のように、君たちの前に立ちはだかった。

…しまった!卿だけでも手一杯なのに、三体も同時に一人で相手にできるわけが…!



「ママ殿!合図を!!」


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― 新着の感想 ―
Ah, I see. So each character has a special ability, at first I thought that Amy is specialised in Sw…
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