Part.4
どれくらいの時間が過ぎただろうか。
綾は、言葉をかけることなく、ただ静かに葵を支え続けていた。
やがて、葵の呼吸が少しずつ落ち着いてきた。
そして、ようやく葵が口を開いた。
「…ありがと、綾。」
完全に元気を取り戻したわけではなく、少し気まずさが残るような声だったが、綾はそれを聞いて、ようやく安堵の息をついた。
葵はスカートを握り直し、少しだけ表情を和らげると、
「…最っ悪っ!」
と、少しだけ冗談めかして笑ってみせた。
綾はその笑顔を見て、つい微笑み返した。
葵が少しでも笑顔を見せてくれることが、綾には何よりも嬉しかった。
「え…??どうしたの、綾?」
葵は綾を見て、少し驚いたように言った。
綾はその質問に、静かに答えた。
「良かった…」
その瞬間、葵は少し驚いたように目を見開き、そして、ふっと笑顔を浮かべた。
綾はその笑顔を見て、胸の中で何かが満たされるような気がした。
綾と葵、二人の間にまた、少しだけ明るい空気が戻ったのだ。
二人は、静かに公園のベンチに座ったまま、穏やかな風を感じながら過ごした。
周りの静けさと、葵の小さな笑顔が、綾の心を少しずつ癒していった。
ようやくいつもの調子を取り戻した葵。
「ごめんね、パフェ食べ損ねちゃった…。」
少し照れくさそうに謝った。
それを聞いた綾は、明るく微笑みながら答える。
「いいよ、また行こうよ!」
その一言に、葵は安心したように顔をほころばせ、少しずつ元気を取り戻す。
「…帰ろっか!」
葵が言った言葉に、綾はうなずき、2人は再び手をつないで歩き始めた。
道行く人々や風景は、どこか遠く感じられる。
2人の間には、特別なものは何もないただの日常が流れていく。
あたりに吹く爽やかな風が、葵のスカートをひらりと揺らす。
その光景に、綾はふと目を奪われる。
いつも通り、無邪気に笑いながら歩く葵。
右手をそっとスカートに添えたその仕草が、どこか新鮮に感じられる。
その表情、動きに、いつもの葵とどこか違う部分を見つけてしまう自分がいた。
少し前までは、こんな些細な変化には気づくこともなかっただろう。
しかし今は、その違いに、自然と心が惹きつけられるようだった。
その時、綾はふと気づいた。
後ろから葵を見守る自分の目が、以前とは違っていることに。
葵を支えようとする自分の気持ちが、どこか頼もしく感じられ、以前よりも強く葵の存在を大切に思うようになっているのだ。
たわいない会話が続く中で、綾は心の中で小さな変化を感じつつ、そのことを葵に言葉で伝えることはなかった。
ただ、この瞬間が続くようにと、足元の一歩一歩を大事に踏みしめながら、歩き続けた。
(おわり)